45話 紹介
ピンポーン。
土曜日。
学生、社会人、ニート。
多くの人にとって休日となるこの日、起床してゆったりとしていた貴重な俺の時間を遮るように、家の中にチャイムが鳴り響いた。
宅配便か? などと思いつつ、インターホンに応答する。
「はい?」
「来たぞ加藤!」
ブチッ。
反射的にインターホンを切ってしまった。
…………よし、一度頭の中を整理しよう。
まず、有馬がここにいる理由は?
「この前約束した」
その約束とは?
「妹属性があって天然な人を紹介する」
その約束を俺は?
「忘れていた」
よし完全に思い出した。
そういえばそんな約束していたな。
適当にあしらってたせいか、すっかりと忘れていたよ。
まぁその辺りは今からでもどうとでもなるからいいんだが…………。
それにしても満面の笑みだったな。
ウッキウキで期待してきたんだろうなぁ。
俺は玄関まで行き、扉を開けた。
「よう加藤! 今日は清々しいぐらいの晴天だな!」
ま、まぶしい。
これは人生を謳歌しているタイプの人間だ。
まだ知り合ってもいない人に対して、よくもまぁそこまで期待できるものだ。
服装もスーツじゃないかお前。
何だ?
面接か?
「……バッチリ決めてきたんだな」
「当たり前だろう! 相手方に失礼があってはいけないからな」
……約束してしまった以上、紹介するのが礼儀か。
今は…………10時半か。
まぁこの時間なら起きているだろう。
「とりあえずあがれよ。俺が呼びに言ってる間、リビングで待っとけ」
「いいのか? すまねぇな」
「ただし、条件が一つだ。これから紹介する人はお前の条件のみを満たしている人だ。文句は受け付けないからな」
「?? ああ、分かった」
そうして俺は有馬をリビングで適当に待たせ、外に出た。
ちなみに母さんは仕事、親父は会社の人とゴルフに行っている。
愛は部屋にいるだろうが、リビングには降りてこないだろうから大丈夫だろう。
そうして俺は隣の家へと向かった。
ーーーーーーーーー
「戻ったぞー」
「!」
ものの5分で俺は家に帰ってきた。
1人の女性を連れて、だ。
「ちょっとここで待っててもらっていいですか?」
「はいはい」
俺は1人リビングへと先に入り、有馬の様子を伺った。
「き、来たのか!?」
「おー」
緊張の面持ちで立ち上がる有馬。
きっと今の心拍数は坂を駆け上がった時と同じぐらいだろう。
「じゃあ紹介するからな」
「おう!」
「入って下さい」
俺の誘導と共に入ってきた女性。
身長は小さめの150cmほど、髪型は少しクセが強くパーマ、綺麗な白色で、多少の猫背だが細身の体型である。
そんな彼女を、俺は有馬に紹介した。
「お隣に住む、斉藤ウメさん(85)だ」
「謀ったなあああああああああ!!!」
有馬が大声を張り上げた。
「別に謀ったつもりはないぞ。ウメさんは斎藤たま子さん(88)の妹だからな、妹属性だ」
「詐欺にも程があんだろう!!」
「……あれ? 私の家はどこだったかしら?」
「しかもよく自分の名前や家を忘れちゃう天然ぶり。条件満たしまくりだろ」
「ただ老化でボケてるだけじゃねーかぁ!!」
まぁそう言うとは思ってたけど。
分かっててやった節はあるけども。
それにしたってその言い草はないだろう。
「ちゃんと事前に聞いただろう? 条件だけは満たしてるけど文句は言うなよって」
「ぐっ……! 確かに承諾はしたが……!」
「あとはお二人でごゆるりと」
「悪魔か貴様は!?」
後はお若いお二人で。
ワシらはおいとましましょうか。
と、ドロンドロンしようとしたが、このタイミングで愛が降りてきてしまった。
「兄貴うるさいんだけど…………あれ? ウメおばあちゃんだ」
「あら愛ちゃん。お菓子たべる?」
「わーいありがとー」
こら和むな。
ウメさんもどこに羊羹なんか忍ばせてたんだ。
「おい……加藤」
「…………応答したくはないけど何だよ」
「あの子はお前の妹か?」
「戸籍上はな」
「血は繋がってないのか!?」
「血も繋がってるけどな」
「なぜ分けた」
そりゃお前…………できるだけお前に紹介したくないからだよ。
「美味しいね、このイヨカン」
「愛ちゃん、これは羊羹というのよ」
「えっ!? あっ……な、名前が似てるから間違えちゃっただけだよ!」
「女神だああああああ!!!」
再度大声を張り上げた有馬に、ビクッと体を跳ねさせた愛。
やっとコイツがいることを認識したようだ。
つーか誰が女神だこの野郎。
「加藤! 疑ってすまなかった!」
「いや、違うぞ! 愛は紹介する気ねーぞ!」
「愛ちゃん! 是非私と結婚を前提にーーー」
「おっと有馬のこめかみにカナブンがぁ!」
有馬のこめかみをおもっくそ蹴飛ばした。
頭がもげたかな? と一瞬心配になるほど吹っ飛んでいった。
「あ、兄貴……?」
「はっはっは、気にするなよ愛。カナブンがいただけだ」
「いや人でしょアレは……」
光に集まる厄介な虫、という点では同じだからな。
とりあえずウメさんは家に帰して、愛も部屋に戻らせた。
有馬の意識が刈り取られてる今の内にだ。
ーーーーーーーーーー
「あ……あれ? 俺はどうしてたんだ?」
「おう、起きたか有馬。もう夕方だぞ」
「加藤か? 確かお前の家に来て……お前が女の子を連れて来るのを待ってて…………それからが思い出せないな」
「それから女の子の都合が悪くなってな。来れないと言ったら、お前がショックのあまり倒れたんだよ」
「そ……そうか。悪い、迷惑かけたな」
「いいってことよ」
よしよし、都合の良いように記憶が飛んでるな。
とはいえさすがに可哀想ではある。
そのうち本当に紹介してあげるとしよう。
「じゃあ失礼する」
「おう」
1人寂しく、有馬は帰っていった。