44話 妹属性
「今日は折り入って相談がある」
「断る」
さて、これで今日の用事は何もなくなったわけだし、ちょっくら里美に連絡でもとってデートでも洒落込もうと……。
「待て、いや、待ってください」
「…………何だよ」
ホームルームが終了し、帰り支度をしていた俺に声をかけてきたのは、眼鏡をかけた軍師、もとい有馬だった。
何やら神妙な面持ちの表情をしているが、こいつに限っては杞憂に違いない。
大概がしょうもない理由なのだから。
「お前らと絡んでも俺に利点が無いんだよ」
「友達と絡むのに利点はいらないだろう?」
「そもそも友達ではないということに気付け」
「そんな悲しいこと言うなよ! 俺達親友だろ!?」
「悲しいことに俺達は親友じゃないんだよなぁ!」
申し訳ないけど、勝手に親友認定されるのは困る。
俺の親友は桐生1人だ!
「相談事なら中西と長屋もいるだろ」
「あの2バカには相談出来ないことなんだよ」
「いや、有馬も含めて3バカだぞ」
「…………まぁそこはこの際置いておこう。なぁ頼むよ」
「嫌だ」
「天条さんとこのコーヒー奢るからさ!」
「そんな提案しても、10分しか聞かないからな!」
「ありがとう」
天条さんの所のコーヒーに罪はない。
美味しくいただこうじゃないか。
天条珈琲にやってきた。
が、今日は桐生と美咲ちゃんがアルバイトしていることもあり、中はかなり繁盛していた。
ほとんどは制服の高校生で、鷹山高校や瑞都高校の人が多い。
男子と女子の人数が半々ぐらいだ。
外にも列が出来ており、桐生と美咲ちゃんの経済効果は爆発的らしい。
これじゃあ中々入れないな。
「どうするよ。今日は相談やめとくか?」
「いや……今日は美咲ちゃんが目当てじゃないからな。別の所にしよう」
ほう。
こいつが美咲ちゃんを諦めるとは。
それほど今日の相談に真剣だと言うことか。
「ここでいい。ここにしよう」
有馬が入ったのは、天条珈琲からすぐ近くにある全国でチェーン展開されてる、有名なカフェ。
女神みたいなマークが印象的だ。
俺はアイスカプチーノのSを頼み、有馬はアイスカフェラテのLを頼んでいた。
長く話す気満々かコイツ。
「さて……早速本題に入らせてもらうが……」
肘をついて眼鏡の前で手を組み、いかにもな雰囲気を醸し出す有馬。
ゲ◯ドウスタイルか。
生意気な。
「俺に…………女の子を紹介して欲しいんだ」
「ズズズズズ!! よし、飲み終わった。さぁ帰ろうか」
「おかわりいかかですかぁ!? 加藤君!!」
コーヒーを飲み干した俺に、速攻で追加のコーヒーを買ってきた有馬。
ホットだ。
しかもLサイズだ。
「それでだな…………」
「あ、そこから始めるんだ」
「ぜひ加藤に女の子を紹介してほしいんだ」
「…………何で俺だよ」
自虐ではないが、俺の交流関係の少なさには定評ならぬ低評がある。
アドレス帳にも女子は、クラスの女子数人を除いて里美、美咲ちゃん、海野先輩、愛、母しか登録されていない。
中学の時の女子すら全然知らないのだ。
「桐生に聞いたほうが良くね?」
「いや、あいつの場合下手したら俺達では手に負えないレベルの女の子が出てくるかもしれない。1番近くにいるお前なら分かるだろ」
「まぁ……確かに」
桐生と絡みがあるのは、俺が知っている限りでも美少女揃いだ。
我らが天文部女子はもちろん、幼馴染の土屋柚希、従姉妹の桐生友梨さんとか。
他にも俺が知らないだけで、知り合ってる子はいっぱいいるんだろうなぁ。
でも全員、桐生じゃないと攻略不可能っぽそうだ。
「そこで、既に彼女持ちでまぁまぁ丁度いい感じの子を紹介してくれそうな加藤にお願いした次第なわけだ」
「それはつまり、俺が可愛い子とは知り合っていないってことかこの野郎」
バカにしやがって。
俺だってなぁ…………! 俺だって…………!
「まぁいい。でも俺だってそんな交流は少ないぞ」
「直接的に加藤が交流を持っていなくてもいい。例えば、加藤の彼女の知り合いとかな」
「ああ、なるほど」
里美は開関高校に通ってるし、そこのクラスメートとかを紹介してもらえばいいわけか。
えーでも俺がそこまですんのも面倒くさいな。
前に合コンぽいのも里美断ってたし。
「ちなみにタイプとかってあんの?」
「ついに聞いてしまうか…………触れてはいけないパンドラの箱に」
「うーわダルい絡みだよこれ」
「個人的にはそれほど要求するものはない。満たして欲しい条件は2つだ」
有馬が人差し指と中指を立てて裏ピースで表示してくる。
この裏っていうのがムカつくな。
裏っていうのが。
「俺が求めるのは…………妹属性と天然な子だ!」
「だいぶ絞りすぎだろアホか!!」
俺が思ってたタイプの話と全然違ぇ!
髪型とか性格のことじゃないのかよ!
「やはり女の子は妹に限る。その妹に天然ボケという要素を加えてみろ…………それはもはや、女神ではないか?」
「女神ではないか? じゃねーよ! そんなやつ周りにいねーよ!」
「バカな!! それほど難しい要求はしていないはずだ!」
「お前がバカか! もう少し現実見やがれ!」
やっぱりロクな奴じゃねーなコイツ。
今日来て損したわ。
「頼むよ加藤! この際見た目には厳しくしないから!」
「なぜそんなに上から目線で語れるんだお前は…………。あ、でも1人だけ満たしてる人いたな…………」
「ま、マジか!?」
「ああ」
不本意だが仕方ない。
あの人を紹介するしかないか。
「それじゃあ次の土曜日の朝に俺の家に来てくれ。その人を紹介する」
「すまねぇな親友!」
「それはやめてくれ」
こうして有馬に女の子を紹介することになったのだった。