43話 VR 決着編
「キヨ君だね? 美咲から話は聞いたよ」
しばらくすると、この店の店長兼美咲ちゃんの父であるマスターが声をかけてきた。
ニッコリと落ち着いた笑顔は、仄かに美咲ちゃんの笑顔と重なるものがあった。
前情報で聞いている内容とは、えらい違いだ。
「あ、加藤清正と言います。天条さんとは同じ部活仲間で……」
「うんうん、仲良くしてくれてありがとねぇ。颯君とも知り合いだったんだね。美咲の父の、天条秋人と言います。よろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします」
「それで、僕の持っているVRを使いたいという話だよね?」
「あ、はい。でも体験してみたいなーって程度なので、全然無理にとかではないです」
さっきのこともあって、あまり乗り気じゃないからなぁ。
今すぐというわけでもないし。
「無理なんかとんでもない。是非体験していってくれて構わないよ。僕以外に、美咲も妻もゲームはあまりやらないからホコリ被ってしまうんだ」
あれま意外だな。
なんか俺にだけ鬼優しいんだけどなんでだろ。
同じゲーマーだから?
でも俺はそんなにゲームやるなんて話してないし……。
「……いいんですか?」
「もちろんさ。もう少ししたら客足も落ち着くだろうし、そしたら美咲をあげるから案内してもらってよ」
「ありがとうございます!」
何だよすげーいい人じゃん!
ビビって損した。
「あ、ちなみにあげるっていうのは、家にあげるって意味で、嫁にあげるってわけではないからね。ははは」
「……ははは、何をご冗談を……」
おい!
一瞬本性が垣間見えたぞ!
目が笑ってねーよこえーよ!
ナイフ持ってねーだろーな!
「それじゃあもう少し待っててね」
「あ、はい」
そのまま天条父はカウンターへと戻っていった。
俺はすかさず桐生と目を合わせる。
「何だよ、あの絶妙なバランス! 警戒心解いた瞬間に心抉ってくるような目してたぞ!」
「それでも気に入られてる方だろ。家に招待してくれたし、ナイフも飛んで来なかったからな」
「気に入られる基準おかしくね!? 気に食わなければ即、死かよ!」
美咲ちゃんの話題には触れないようにしてたのに、自分から機雷を爆発させていったからな。
回避不能すぎる。
まぁ何はともあれ、VRも体験させてもらえるって話だし、案内してくれるのは美咲ちゃんだし、これ以上怖い目には合わないだろうな。
楽しくなってきた!
※ ※ ※
それから待つこと1時間、俺と桐生は美咲ちゃんに連れられて、喫茶店の二階へと上がっていった。
喫茶店がまあまあ大きいこともあり、二階もかなりの広さだ。
さらにここは3階まであるようで、美咲ちゃんの部屋は3階にあるようだ。
残念ながら、今回は2階のリビングでゲームをすることとなった。
自分の部屋は片付けてないから、とのことだ。
誠に残念である。
「どうぞ入って〜」
「お邪魔しまーす」
リビングはとても整っていてキレイだった。
3人がけのソファがあり、普段食事をしているであろうテーブルには、純白のテーブルクロスが敷かれ、中央に青色のキレイな花が花瓶で飾られていた。
「適当にくつろいでてね。今、お茶菓子を準備するから」
そう言って台所に移動する美咲ちゃん。
俺はソファではなく、イスに腰掛けた。
あまり無遠慮に他人の家のソファに座るのは、気が引けてしまう。
が、桐生は当たり前のようにソファに座った。
無敵かこいつ。
「美咲、ゲームが置いてある場所を教えてくれれば、俺達が準備しておくぞ」
「あー……そう、だね。じゃあお願いしちゃおうかな! 廊下に出て右側にある扉開けてもらったら、右奥の方に箱で入ってると思うんだよね」
「分かった。行くぞキヨ」
「おー……」
ズカズカと歩いていく桐生。
何ですかね?
もう何度も来てるんですかね?
めちゃくちゃこなれてんな。
実際、二人は下の名前で呼び捨てにしてるし、付き合うとなったらこんな感じなんだろうな。
お互い気兼ねなくお願いできるような関係性。
海野先輩には悪い気がするけど……。
……何で俺が罪悪感感じてんだ。
「お、これか……」
桐生が扉を開けて奥の方を探した。
すると箱がいくつかあるのが分かる。
「VR……でもいくつかあるぞこれ」
「そんな何個もあるものか? ゲーム用で言えば一つだけだろ」
だが、桐生が取り出した箱は確かに2種類あった。
どちらもVRとは書かれている。
「こっちが…………本物っぽいな。ニュースとかでやっていた形に似てるし」
「ならこっちは何だ?」
「さぁ? VRとは書いてあるけど……箱自体は真っ黒だから分からんね」
ま、もしかしたらスマホ用とかかもしれないよな。
一応スマホ用VRなんていうのもあるみたいだし。
「スマホ用ならスマホ用で面白そうだよな。手軽に出来るし。ちょっと中身を拝見……」
そう言って俺は真っ黒な箱の方を開ける。
二人して固まった。
開いた口が塞がらねぇ。
『現役JK! アルバイト先で店長と生◯メ! VR』
『娘と父のイケナイ近親◯姦VR』
節子、これVRちゃう、AVや。
一応VR専用ではあるけどこれ、AVや。
「完全にパンドラの箱だったみたいだな」
「JK…………アルバイト…………娘と父…………くっ……! まだ2アウトってところか……!」
「いや完全に3アウトだろ。ゲームセットだろこれ」
こんな分かりやすいところに隠してたらダメだろ天条父…………!!
「どう? ゲームは見つかった?」
突然後ろから美咲ちゃんの声が聞こえ、俺はかつてないスピードで箱を閉じ、収納スペースの奥にぶん投げた。
「えっ? あ、あったよ、あった。うん。なぁ桐生?」
「ああ、これだな」
「そう? でも今何か投げてたけど……」
「な、投げてないよ? 気のせいじゃね?」
「気のせいじゃないよぉ。あ、まさか何か隠し事?」
う、疑われてる!
天条父の威厳を守るためにも、これはバレてはいけない……!
何とかしろ桐生!
俺の意図を察したのか、桐生が美咲ちゃんの顎を右手でクイッとあげ、真っ直ぐ目をみつめる。
そんな少女漫画みたいな……!
「そんなに気になることじゃないだろ? そんなことより、早く俺とゲームやろうぜ」
「う……うん…………そうだね……」
桐生は俺に目配せをして、顔が蒸気している美咲ちゃんと一緒にリビングへと戻っていった。
一瞬にして美咲ちゃんを骨抜きにする桐生ハンパねーっす。
何はともあれ、天条父の秘宝は守られたわけだ。
ガチの闇の深淵を覗いた気がするが、何も見ていないことにしよう。
人間、知らない方が幸せな時もある。
今回はそのケースだ。
「……いよいよVRやる気無くなったな……」
俺は何とか気持ちを切り替え、リビングへと戻ったのだった。




