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41話 道端に落ちてる石ころの気持ち

「とある国のお姫様が、旅行先でお付きの目を盗んで逃げるシーンってよくあるじゃん」

「漫画ではよくあるパターンだな」


 唐突に話を振るこのパターンもよくある光景だ。

 そして例によって、部室で2人だけのタイミングである。


「で、そのお姫様が偶然主人公と出会い、やれ恋に落ちるだの、やれ世界を救うことになるのだの、あるよな?」

「あるな」

「ぶっちゃけてあり得なくね!?」


 …………………………。


 沈黙である。

 それどころか桐生は机に肘をついて頭が痛そうに俯く始末。

 こいつはもう手遅れだ、みたいな雰囲気を醸し出すんじゃないよ。


「キヨ、1つ良いことを教えてやろう」

「良いこと?」

「………………それはフィクションだ」

「知っとるわ!」


 誰も妄想と現実を一緒くたにして考えてねーよ!

 そこら辺の分別はしっかりついてるぞ俺は。


「そういうことじゃねーんだって。例えばだぞ? 女の子がお腹を空かして食品サンプルを涎垂らしながら見ているとするだろ?」

「それ本当に一国の姫なのか? 姫が涎垂らすのか?」

「そこへ主人公が何かしらの理由で接触して、なんやかんやで食事を奢るとするだろ?」

「おう」

「はいストップ!! まず知らない女の子に飯を奢るか!?」

「困ってる人を助けることだってあるんじゃないか?」


 主人公気質である桐生にこの話をしても共感を得られるなんて思っちゃいないが、この段階でまず間違いなく主人公は下心ありきで動いているはずだ。


 というか、そうでないとおかしい。

 そういう理由なら俺も納得できるさ。

 だけどただの慈善事業でこんなことをやっているのだとしたら、主人公は相当頭のイカれた奴だってことになる。


「まぁ100歩譲ってそこは良いとしよう」

「100歩譲らないとダメなのか」

「そしてその後なんやかんやで、結局その女の子が姫だったとする」

「おう」

「はいストップ!! 一国の姫が普通脱走なんてできるか!?」

「フィクションだからな」

「はいその一言で片付けない! 姫ってのはつまりその国の後継ぎだろ? 国の象徴とも言える人が、厳重に警備されている目をくぐり抜けることなんてできるか?」


 プリ◯ンブレイクよりもある意味難しいだろ。

 何シーズン放送しちゃうんだ?


「そんなザルみたいな警備で一国の姫を逃したなんてなってみ? その警備の指揮をとってた人なんて首飛ぶぜ」

「フィクションをリアルに考察するとするなら、確かにそうなるな」

「それだけじゃない。その警備に従事していた人達も間違いなく処罰を受けるだろう。誘拐されてもおかしくない状況を作ったんだからな。そんな人達のことを考えると、俺は悲しくて夜も8時間しか寝れねぇよ」

「人並み以上に寝てるだろ」


 俺自身がモブ気質だからかもしれないけど、どうしても漫画とかゲームの脇役の人達の気持ちを考えてしまうのだ。


 俺と同じような事を考える奴、ほかにいない?


「まぁ言いたい事は何となく分かった」

「他にもまだ例えはあるんだよ!」

「キヨ、お前酒でも飲んでるのか?」


 失礼な!

 誰が酔っ払いだよ!


 強いて言えば力説してる自分に酔ってるってか? やかましいわ!


「RPGとかで魔物に蹂躙されて瞬殺される人達とかいるだろ?」

「いるな。一瞬で殺されるの」

「あの人達も平凡な毎日を過ごしていて、家族のために暮らしを支える大黒柱として頑張っていたのに、ある日突然あっさりと死んでしまう…………悲しすぎやしやせんか!!」

「とりあえずウコン飲めよ」

「だから酔ってねぇって」


 頑なに俺を酔っ払いにしようとするな。

 口からリバースしてやろうか。


「はい、ということで今の一連の俺の考察を基に、桐生にはちょっとした実験に付き合ってもらいます」

「実験?」


 俺がパンパンと執事を呼ぶように二回手を叩くと、部室の扉がガラガラと開き、ドレスを着飾った人が1人入ってきた。

 あらかじめ俺が話を通して準備してもらっていたのだ。


「はい、お姫様役の方です」

「……………………中西じゃねぇか」


 中に入ってきたのは中西だ。

 演劇部である中西に協力を依頼した形である。


「ご機嫌遊ばせ」

「遊べねぇよ気分悪いな」

「まぁまぁ。誰もお姫様役が女の子とは言ってないだろ。それに、中西の演劇に対する役作りは本物だから」

「これで何を実験するつもりだ?」


 既に桐生からやる気を感じられない。

 これが例え美咲ちゃんや海野先輩ならやる気になっていただろうか?

 いや、キングオブマイペースのこの男がそれだけでやる気になるとは思えない。


 結局やる気にならないなら、頼みやすい方でいいかとなったのだ。

 目には毒だが仕方がない。


「主人公気質のある桐生なら、どんな対応をするのかについて」

「主人公気質って何だよ……そんなもんねーぞ」

「あら、冗談がお上手ですこと」

「こいつ殴ってもいいか?」

「だめ。それじゃあ、逃げ出してきたもののお腹が空いているお姫様に出会うシーンでいこう。よーいアクション!」


 パンと手を叩くと演技が始まった。


「お腹が空きましたわ……」

「声掛けたくねーな……。おい、どうしたんだ?」

「お腹が空きましたの」

「よし、パンでも食っとけ」

「カットー!! パンでも食っとけって何だよ! 鳩の餌やりか!?」


 職を失ったお父さんじゃないんだから!

 カッコよさの欠片を微塵も感じられないぞ!


「仕方がないだろ。コイツを見て思ったことをそのまま言ったまでだ」

「それは俺も思ったけど、脳内にフィルターをかけて我慢してくれよ」

「お前ら……手伝いに来てやったのに何だその言いようは」


 それから紆余曲折あり、気付けばクライマックス。

 自分が一国の姫だと明かし、主人公にお別れを告げるシーンだ。


「私はもう行かなければなりません」

「そうか……」


 絵面はよろしくないが、雰囲気は出てきた。

 中西も流石の演技力である。


「1つだけ…………1つだけ伝えさせてくれ」

「何でしょう」

「一緒にいた時間は短かったが、それでも俺にとっては刺激的で、忘れられない思い出になった。もし再び会えることが出来たならその時は……」


 いいぞ……!

 隠し撮りしてる動画を然るべき人達に売れば高値で売れそうな映像だ……!


『ガチャ』


 oh…………。

 何というタイミングで来るんだ……。

 劇に夢中になりすぎて忘れてた。


「…………これは一体どういう状況なのかしら?」

「は……颯が……女装した変態さんといい雰囲気に……」


 海天うみそらペアだ。

 そりゃ状況が掴めないよなぁ。


「颯、これは何なのかしら」

「これはだな……」

「うわーん! 私達よりよっぽど良い雰囲気になってたよー!」


 美咲ちゃんがダッシュで部室から出て行ってしまった。


 この後、海野先輩に怒られたのは言うまでもあるまい。

 なお、動画は預かると言って没収された。

 何に使うつもりだろうなこの人。

 ナニに使うんだろうなこの人。

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