38話 尋問
「は〜……」
教室で俺はため息をついた。
原因は桐生の家であった告白についてだ。
桐生の幼馴染である土屋柚希が告白をし、それを桐生がフッた形となる。
俺はその現場にいたわけではないし、その後も桐生に踏み込んだ話をできなかったため、内容については詳しく分からない。
桐生が何と言って土屋の告白を断ったのか。
これを知ることは俺にとって至上命題だ。
もしも、桐生が「好きな人がいるから」と答えていれば、俺としては充分すぎる回答だ。
余裕で合格点を超えている。
だが、もし「今は誰とも付き合う気がない」と回答していた場合はどうだろうか。
非常に困る。
何故困るかは分かるだろう。
うちのお姫様達だ。
桐生と一緒にいることを、引いては、付き合いたいと思っているあの2人がこの話を聞いてしまえば、俺へと攻撃の矛先が向かってくる恐れがある。
んなわけあるかいって?
んなわけあるんだよあの2人の場合。
2人きりになる状況を作らされるために脅迫するような人だぜ?(海野先輩限定)
何を脅迫……もといお願いしてくれるか分からない。
2人だけで何とかしてくれるんなら問題はないんだけどな。
「触れない方が吉か……」
自分に言い聞かせるようにボソッと呟いた。
そもそも何で俺がここまで悩まなきゃいけないのかも、よく分からんよな。
俺、関係ないし。
3人の問題だし、第三者の俺が首を突っ込むようなことではないよな。
よっし決めた。
俺はもう関わらないぞ。
恋愛相談なんて、恋愛を全くしたことがない俺に答えられるわけがないんだ。
青春したけりゃ勝手にやってくれ!
※ ※ ※
「さて、本日の議題は、颯が部活を休んだ理由についてよ」
「先生質問があります」
「どうぞ加藤君」
「ここはいつから『桐生生態観察部』になったんですか」
「宇宙が始まった時からよ」
「ビックバンと同じ!?」
思わず席を立ち上がってツッコミを入れてしまった。
部室に入ってからすぐに座るよう指示されたと思えば、何を始めたんだこの人達は!!
「キヨ、とりあえず座ろうよ。話が進まない」
「何の話!? 桐生についてか!? 話すことなんて何もないんだけど!!」
「加藤君、この場は何も颯について討議するための場所じゃないのよ」
「………………じゃあ何の場ですか?」
「颯が休む理由を何故あなたが知らないのか、尋問する場よ」
「何でだよ!!」
そんな理不尽な審問会があってたまるか!
桐生が休む理由なんてしらんがな!
「キヨ、発言は許可されてからだよ」
「天条さんはどういう感情でそれ言ってんの!? さっきからどういう立場だよ!」
「被告、加藤清正は情報秘匿の罪により判決、死刑」
「軍法会議さながらかよ!! 極刑って、俺に弁護士はいないのか!!」
「キヨの弁護士は私だよ」
「あんただったのかよ! 弁護する気ゼロじゃねぇか!」
「さて、冗談はこれぐらいにして……」
海野先輩がコホンと1つ咳をした。
今までの流れは一体何だったんだ。
やたらと心にダメージを負ったのは俺だけ?
「真面目な話、加藤君は何も聞いていないのかい?」
「……桐生のことですか? マジで分からないですよ俺。1番にクラスを出て行ったのは見ましたけど」
「そう…………。私の所に今日は部活を休むと連絡は来たけど、それだけなのよ」
「バイトじゃないよね?」
「うん。今日は颯くん、シフト入ってないよ」
来ない理由については心当たりは無くもないけど…………どこにいるかと聞かれれば分からないな。
「天体観測は明日だから軽く打ち合わせをしようかと思ったのだけれど、いないのであれば後ほど電話で伝えるしかないわね」
「それだったら私が伝えますよ、葵さん」
「あら、大丈夫よ。私が一番分かっているもの、部長として連絡しておくわ」
「いえいえ、遠慮なさらずに」
「してないわよ」
バチバチと目線で火花を散らす2人。
お互いニコニコしてるのがなお怖い。
今のうちに抜け出して…………
「「どこに行くの」かしら?」
ギャッ!
見つかった!
怖い怖い。
目が笑ってないよお2人さん。
「とにかく、明日の流れを話すから2人は知っておいて」
「「はーい」」
その後、天体観測の流れを海野先輩から説明してもらい、その日は解散となった。
心配だし、一応桐生に連絡をとっておくか。
本音を言うと、桐生が来ないパターンの2人と一緒に星を見るなんて生き地獄、味わいたくないだけだからなんだけど。