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4話 事実

 7月中旬。


 怪我もほぼ治りつつあった俺は、久しぶりに部活に出た。

 そこにはいつものメンバーがおり、心配されたと同時に手厚い歓迎を受けることとなる。

 まるで英雄の帰還のようでこそばいな。

 でも悪い気はしない。


 買ってきたお菓子を食べて、くだらない話をして。

 誰しもが羨むであろう日常がここにある。

 だからかもしれない。

 だから勘違いしたのかもしれない。


 海野先輩を助けようとして負った傷に酔って、もしかしたら自分が海野先輩、もしくは美咲ちゃんの中で特別な存在になっているのではないかと。

 俺が桐生よりも優っているんじゃないかと。


 実際には海野先輩を助け出したのは桐生であり、俺は何もしていない。

 美咲ちゃんに対してもそうだ。

 俺は部室で話すこと以外何をした?

 何もしてない。

 そう、俺は何もしていないんだ。

 他のやつよりか多少仲良くしているだけの存在で、くくりではその他大勢と何も変わらない。


 一人で勝手に舞い上がって、そんなんだから部室にいるときの違和感に気付けないんだ。


 違和感。


 本当なら桐生が海野先輩と部活を作った時にも、美咲ちゃんを『天文部』に引っ張ってきたときも、俺は分かっていたはずだ。

 ただ現実から目を逸らしていただけだ。


 もしかしたらーーー。


 可能性がーーー。


 頑張ればーーー。


 今考えても滑稽だ。

 この時の俺はどうかしてる。


 ……………………さっさと要点を述べろって?


 ……………………。

 ……………………。

 ……………………。

 ……………………。

 ……………………笑えばいいさ。

 俺はこの事実から目を背けていたんだよ。


 海野うんのあおい先輩と天条てんじょう美咲みさきちゃん。

 最初からこの2人が桐生きりゅうはやてに…………………………どうしようもなく惚れているという事実に。


 この事実に気付かなかったことが、まず俺の一つ目の間違い。


 まるでピエロだな俺は。


 最初の段階でこの事実に気付いていれば、俺はまるでハイエナのように機会チャンスを伺って無理に話しかけたり、積極的に好かれようとしなかったはずだ。


 この時もそう。

 今まで俺が気にしていなかっただけで、桐生に対する二人のアピールは最初から結構露骨だった。

 それでも気付かなかった要因に、桐生の態度がドライだったのと、二人が優しすぎる性格のせいで俺にも気を遣ってくれていたためだ。


 だから気付かなかったし、勘違いもした。

「あれ? 俺もいけるんじゃねぇの?」って。

 恥ずかしすぎるぜホント。

 赤面せきめんものだぜ。


 それで二人のアピールなんだが、俺が怪我から復帰した時はさらにエスカレートしていた。

 今までは海野先輩も美咲ちゃんも、お互いを尊重し合いながら桐生にアピールを続けてたって印象なんだけど、この時には何というか…………女同士の戦いというか…………お互い結構バチバチな感じだったんだ。


 もちろん、仲が悪いとかじゃないぜ?

 ただ一点、桐生に関してだけはお互い譲らない、みたいな。

 いわゆる学内アイドルから言い寄られるハーレム状態を、桐生は形成してたんだよ。

 当の本人といえば、その二人の好意に気付いているのかいないのか。

 いつも通りやれやれとマイペースにしている。


 この時の俺は、「桐生の時は俺よりも結構ボディタッチが多くて羨ましいなぁ」ぐらいにしか思ってなかった。


 ゲスか俺は。




 夏休み直前。


 流石にこの頃になると薄々気付き始める。

 遅すぎるぜ。


 俺のいないところでよく二人が桐生にあれこれしているのを知り始めたのと同時に、部室でもあまり隠さなくなったからだろう。

「あ、二人はやっぱり桐生が好きなんだろうな」ってな。


 そもそも2人が桐生を好きになるのは必然と言えることだ。

 桐生達3人はいろんなイベントごとでよく出会う。

 俺も何回か桐生と一緒にいた時に出くわしているから知っているが、何処かに出かけようものなら、海野先輩か美咲ちゃんのどちらか、はたまたその二人と出会うのだ。

 その時はすげー偶然だなって思ってたけど、今思うと気色悪い。

 あんたら打ち合わせでもしてんのかよと。

 ド○クエの魔物よりもエンカウント率高ぇぞと。


 二人が桐生のことが好きだと気付いたとき、俺はその部室でハブられてるような気がして、居心地悪く感じるようになってしまった。


 そうして夏休みに入る数日前のある日、桐生は先生から頼まれた仕事があるからということで、俺は先に部室に行った。

 部室に行くと既に海野先輩と美咲ちゃんがいた。


「お疲れっすー」

「やあ、加藤君」

「やっほーキヨ」


 散々色々言ったが、2人は優しい。

 話せば話返してくれるし、一緒に遊びに行ったりもする。

 これは他の男子にはできない特権だ、羨しかろう。

 ちなみに美咲ちゃんが俺のことをキヨと呼ぶのは、重要な豆知識だ。

 ここテストに出るぞ。


「今日は桐生君は来ないの?」

「いや、先生に頼まれたものを片付けてから来るらしいよ」

「そっか! キヨ聞いてよー。今日ねーーーーーー」


 海野先輩は望遠鏡の手入れを始め、俺は美咲ちゃんとの雑談にきょうじる。

 至福の時だ。





 だが俺はこの日、二つ目の間違いを犯すことになる。

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