33話 着信音
「電話の着信音ってあるじゃん」
「あるな」
「桐生はあれ、一律固定の音にしてる?」
「固定だな。誰からかかってきても変わらない」
例によって部室で桐生と2人で話している。
2人で話している時は決まってそう、くだらない話だ。
右から左に聞き流しても差し支えない話である。
「俺も一律同じなんだよ」
「ああ」
「そもそも電話って基本かかってこないじゃん。基本みんなLIMEとかで連絡取り合うじゃん」
「そうだな」
「電話で掛けてくるって言ったら俺の場合、基本バイト先からなわけよ」
「なるほど」
「スゲー嫌じゃね!?」
「すまん。全然意味が分からん」
何で分からないんだ!
俺がめちゃくちゃ懇切親切に、電話がかかってきた時の恐怖感たるやを教えてやったというのに!
「俺がカフェテリアでバイトしてるのは知ってるじゃん?」
「カフェでいいだろ」
「最初の頃はシフトを結構組んでたから、カフェテリアで仕事するのも何も思わなかったわけよ」
「カフェでいいだろ」
「でも最近は別に無理して働こうとも思わなくてさ、労働意欲が失われたわけ」
「確かに一時期は週5とかで入ってたもんな」
「そうすると、バイト先から電話がかかってくんのよ。『今日入れる?』みたいな。最近は電話が掛かってきた時はほぼバイト先からでさ、電話が鳴るたんびに嫌になるわけ」
「それがさっきの話に繋がるわけか」
「そういうこと!」
やっと理解してくれたか。
桐生もカフェでバイトしてるだろうし、そういうことがあるんじゃないのか。
俺と同じ共感をしてくれるんじゃないか。
これはあるあるなんじゃないか!?
「桐生も電話とか掛かってこないのかよ」
「掛かってくるぜ。キヨと同じような内容がな」
「だろ!? もーその着信音が鳴る瞬間、スゲー嫌な気分にならねぇ?」
「いや、俺の場合は美咲を通してバイトのシフトの話をするからな、別に何とも思わない」
おや?
おやおや?
何ぞこいつ。
急に自慢かえ?
俺は学校のアイドルの家でバイトしていて、連絡もアイドルを通してくるから着信が怖くないって?
「じゃあ電話がかかってくる時は、むしろ天条さんからが多いってことか?」
「そうだな」
「桐生は電話が掛かってくるたんびに天条さんとイチャコラしているわけだな?」
「いや……言い方が悪いだろ」
「天条さんからのラブコールに胸躍らせてるわけだな?」
「それは違うだろ」
そんな羨ましいことはあってはならない。
いくらお前がラノベの主人公だろうと、そんなもの俺らがぶち壊してやるぜ!
『ガチャリ』
「桐生、話は聞かせてもらったぜ」
「…………待て。何でお前らがここにいるんだ」
部室に入ってきたのはいつもの3バカ、有馬、中西、長屋の3人だ。
何を隠そう、俺が連絡を取ってここに呼んだのだ!
桐生が一人で美味しい思いをしていると言ってな。
ただ、連絡したのは1分前なんだが、こいつらどんだけ速く来たんだよ。
「桐生さんよ…………我が校のアイドルを独り占めたぁよろしくないんじゃないか?」
「独り占めした覚えはないぞ。お前らも連絡ぐらい取れば良いじゃねぇか」
「貴様! それができたら苦労はしないわ!」
「そうだ! そうだ!」
「そもそも連絡先を持ってねぇ!」
え?
お前らまだ交換してなかったの?
いくらなんでもヘタレ過ぎるだろ。
「別に美咲と連絡をとってる奴なんて俺だけじゃないだろ」
「おいお前ら聞いたか?」
「ああ、バッチリ聞いた」
「これは許されねぇ」
「何もおかしいことは言ってないぞ。美咲だって他に男の友達ぐらい……」
「「「下の名前で呼んでやがる」」」
「そこかよ!」
やべ、思わず俺が突っ込んじまった。
呼んだのが俺とはいえ、こいつら言ってることやっぱバカだな。
斜め上の着眼点をお持ちのようで。
さて。
奴らが騒いでるうちに……。
ピッ。
プルルルルル…………プルルルルル……ガチャ。
『はい、美咲だよ』
「天条さん、外にいるのバレてるから」
『へぇっ!? な、なんのことかなぁー?』
「どうせ海野先輩もいるんでしょ? 入ってくれば」
『葵さん……なんかバレてるっぽいですよ……』
俺が何回このパターンを見てきたと思ってんだ。
さすがにもう分かってるわ。
さ、もう一悶着やってもらおうか。