32話 仲直り
4ヶ所目にてやっと愛を発見した。
桐生ならともかく、そんな1発で愛が何処にいるのか当てられるわけがない。
4ヶ所目で見つけただけでも優秀じゃね?
ここに来るまで走りっぱなしだから酷く疲れたぜ。
夏場だったら死んでるぞ。
「兄貴…………」
「高台なんて久しぶりに来たわ。鷹山高校からでも景色はいいから、あんまりここには来なくなったな」
「………………」
………………沈黙するなよな。
普段話さな過ぎて、何話せばいいのか分からなくなるだろ。
「あー…………何だ、友ノ瀬から色々話を聞いたわけなんだけど……」
「!? ど、どこまで聞いたの!?」
「いや、その……友ノ瀬を連れて来たのは仲直りするためだとか……」
「うああああ…………」
耳まで真っ赤にしながらしゃがみ込む愛。
それを聞かされたこっちの身にもなれよな。
「何で言っちゃうのかなぁ……」
「愛が逃走したからだろ。友ノ瀬もどうしたらいいか迷った挙句の発言だったぞ」
「う〜〜〜」
唸ったところで過去は取り戻せないからな。
唸って取り戻せるんだったら、多分俺は死ぬほど唸ってる。
兄妹揃って恥ずかしい思いしすぎだろ。
「…………あのなぁ、先に一つ言っておくけど、家でお前が勘違いした女の子は彼女じゃないからな」
「でも凄い可愛い人だったし……」
「俺にあんな可愛い彼女ができるとでも?」
「……! 思わない!」
そんなハッキリ言うな!
少しは遠慮がちに言え!
ショックだろうが!
「じゃあ兄貴に彼女がいるっていうのも!?」
「いや、それはマジ」
「チッ」
「何で舌打ちした!?」
「兄貴如きに彼女とか……」
「そんなに不満か!? 俺に彼女がいるのがそんなに信じられないのか!?」
何だこいつ!
さっきまでの態度はどこにいったんだよ!
「ま、それはともかくとしておかしいと思ったのよね、兄貴にあんな可愛い彼女がいるなんて」
「ぐっ…………! ………………そんな兄と仲直りしようとしてたのはどこのどいつだよ」
「うっ!」
「まさか愛が、お兄ちゃん大好きなブラコンだとは思わなかったな〜」
「うわあああああ! ブラコンじゃないし! な、仲直りっていうのも、友ノ瀬君と仲良くなるための口実なんだからっ!」
「へええええ〜?」
「ウザっ! マジウザい!」
フンと顔を背ける愛。
久々にこんなに話した気がする。
中学三年生の愛は思春期真っ只中。
俺も去年はこんな感じだったのか?
なんかスゲー子供っぽい。
1年しか変わらないのに、中学生と高校生の差は大きい。
「なぁ愛」
「……………………なに」
「受験……頑張れよ。お前が合格出来るように、俺も出来ることは協力するからさ」
「………………うん」
一応、仲直りしたってことになるんだろうか。
というか俺は別にケンカしてるつもりなんてなかったんだけどな。
それでも、愛のこれからの生活に余計なガンが一つ取れたと思えば、兄として嬉しい限りだ。
「じゃあ………………勉強教えてくれる?」
「……………………桐生を紹介するぞ」
「兄貴勉強出来ないの!? ダメじゃん!」
「協力は出来ることって言っただろ! 教えてくれる人を紹介するだけでも俺の功績だろ!」
「何その謎理論! 頼りなっ!」
「やかましい!」
夕陽で赤く染め上げられた街を背景に、普段とは一味違う兄妹ゲンカ? をする俺達。
これから物事が良い方向に転がっていけと、強く願った。