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31話 愛の気持ち

 私は兄が好きだった。


 ただし、もちろんこれは異性としてではない。

 兄としてだ。


 私達の家は、小さいころから両親が共働きで、夜になっても私と兄だけということがしばしばあった。


 当時小学生だった私は、幼いながらも一度も寂しいと感じたことはなかった。

 それは、私が学校から帰った時、友達と遊んで帰った時、必ず兄が家で待っていたからだ。


 逆にこちらが心配になるほどに、いつ帰っても兄は「お帰り」と言って待っていてくれた。


 そして兄が中学に上がった頃、お母さんが私に「清正も中学から部活が始まるから、今度から愛は一人でお留守番だね」と言った。


 泣きじゃくった。

 それはもう泣きじゃくった。

 それまで1人で留守番したことがない反動が来たのか、嫌だ嫌だと喚いた。


 今思い出しても、枕に顔を埋めて足をバタバタするぐらい恥ずかしい。


 だけど、兄は部活には入らなかった。


 なぜ部活をやらないのか聞いてみたけど、「どれもこれもパッとしないから興味ない」と言っていた。


「俺が入るような高尚な部活がない」だの、「俺の価値を知らない部活ばかりだ」だの言っていたけど、私は知ってる。


 兄が部活に入らなかったのは、私を1人にしないためだ。


 強がって訳の分からないことばっかり言っていたけど、中学に上がってからも兄は、お母さんが遅くなる日は必ず早く帰って来ていた。


 そんな兄を、私は好きだった。




 今から1年ほど前、兄が酷く落ち込んでいた時期があった。

 ちょうど受験の時期と重なっていたころだから、今の私と同じようにピリピリしていたのかもしれない。

 でも、その落ち込み方は異常だった。

 志望校に落ちたかのような凹み方だった。


 そんな兄を元気づけたかったけれど、その時は私も兄に必要以上に絡むのが恥ずかしくて、声をかけるのにも勇気が必要で、何より兄の姿が怖かった。


 その頃から私は兄とあまり話さなくなり、私は中学3年生に、兄は高校へと進学した。


 高校に入った兄は、中学の頃から仲の良かった桐生さんと同じクラスになったと喜んでおり、兄の立ち直った姿を見て、私も心の奥で喜んだ。


 だけど、それから兄は天文部という部活に入り、夕食の時間には天文部の話をよくするようになった。


 学校のアイドルと呼ばれてる人や、人気のある先輩と仲良くなれただの、こんな活動をしただの……。

 そんな話を聞かされた私は、チクチクとした感情が心を刺してきて、それはいつしかダムのように決壊した。


 自分の部屋で、楽しそうに電話をしながら話す兄の声にイラッときた私はつい、「うるさい!」と怒鳴ってしまった。

 驚いた顔をした兄は、舌打ちをしながら私を無視した。


 その態度にムカついた私はそれ以降、意地でも私からは話しかけてやるもんかと、兄と話す事をやめた。




 夏頃、兄が受験期と同じような顔をしていた。

 部活には出ず、新しくカフェでバイトを始めたのだ。


 何があったのか聞こうとも思ったけど、私のちっぽけな自尊心が邪魔をして、兄に話しかけることができなかった。


 結果的に兄は元気に戻っていたけど。



 そしてこの間、コンビニまでの行きで、久しぶりの兄との外出に内心ワクワクしていたところ、兄に彼女がいることが分かった。


 兄も高校1年だ。

 彼女の1人2人いても不思議じゃない。


 だけどそれを聞いた私は、その先のことを全然覚えてなくて、気付いたら家に帰って来ていた。


 自分でも分かっていないほどショックだったみたいで。



 その後の私は今までの流れ通り、兄との仲を戻すために友ノ瀬君までダシに使って、挙句の果てに家から飛び出してきてしまった。


 最低だ。


 引っ掻き回すだけ引っ掻き回して。


 兄に暴言を吐いて。


 ………………家に戻りたくないなぁ。



 私は自然と鷹山市の高台に来ていた。

 ここは小さい頃によく兄ときた場所だった。

 鷹山市を一望できるここは、嫌なことを忘れさせてくれる。


 まるで街全体が火事にでもあっているかのように真っ赤だった。


「………………はぁ」


 ため息がこぼれる。

 自分が嫌になる。


「…………こんな面倒くさい妹でごめんね」

「全くだぜ」


 私の独り言に返答が返ってきた。


「迷惑ばっかりかけてんなよな」


 私に対して、こんなにぶっきらぼうに話しかけるのは1人しかいない。


「兄貴……」


 振り返った先には、汗だくで、息も絶え絶えの兄がいた。

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