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27話 パシリ

 土曜日の夜、俺は次の日も学校が休みのため夜更かしをしていた。


 俺の家は一軒家で、二階には俺と妹の愛の部屋がある。


 …………待ってくれ。

 妹との愛の部屋、みたいな感じになってるがそういうことではない。


 妹の名前が加藤かとうあいなのだ。


 名前の由来は伊達政宗の正室である愛姫めごひめから取られている。

 俺と同じく戦国時代から取られているわけだが、読み方がめごでなかっただけありがたいだろう。


 俺達の部屋は一応個室になっているわけだが、その間は壁ではなく普通の襖のため、お互いの生活音は丸聞こえだ。

 そして愛は今、中三で受験期真っ只中であるのだが、俺がテレビを見ていても音がうるさいといちゃもんをつけてくる。


 その度に舌打ちを打ちながらも受験という立場に配慮し、ブルートゥース型のイヤホンを耳にぶっ差し聞いていたのだ。


 そして今日は夜更かしをしていたわけだが、テレビも何も付けず、ヒッソリと物音を立てずに携帯で動画を見ていただけだった。


 なのにだ。


 なのに襖がスッと開いて愛が顔を覗かせた。

 向こうからこの襖を開けるときは決まって小言を言われた。

 だから今回は何だと不機嫌に思ったわけだ。


 なんせ物音は立てていないんだからな。


「兄貴」

「…………なんだよ。俺はうるさくしてないぞ」

「そういうわけじゃないんだけど」

「じゃあ何だよ」

「お腹空いたから何か買ってきて」


 まさか兄をパシリに使うとはな。


 よし戦争だ。

 ここに第八次兄妹戦争を開戦することを宣言する。


「やだよ。自分で買ってこいよ」

「だってもう11時だし……」


 中学生にとっては11時以降は出ちゃいけない決まりでもあんのか。

 兄を使うのは良くて、謎ルールを破るのはダメとかどんな了見だ。


「じゃあ諦めろ。もう寝るんだな」

「まだ勉強してるから寝ない。でもお腹空いたから買ってきて」

「何だそのワガママっぷりは。ふざけるな行かねーよ」

「いいじゃん行ってきてよ。どうせ暇でしょ?」

「見ての通りネットサーフィンで忙しい」

「キモ……」


 は?

 何でキモいとか言われなきゃならないんだ。

 これキレても俺に非はないやつだよな。


「ぜってー行かねー」

「ケチ」


 愛は去り際に文句を言って襖を閉めた。


 腹立つな。

 今ならジャギの気持ちが分かるわ。

 兄より優秀な弟などーーー! ってやつ。


 しばらくすると母が下から上がってきた。


「ちょっと清正、コンビニ行ってきてよ」

「なんなんだ愛といい母さんといい。自分で行けばいいじゃん」

「その愛が言ってたのよ。清正がコンビニに行ってくれないって」


 そんなこといちいち告げ口してんじゃねーよしょうもないな。


「自分で行かせればいいだろ」

「もう夜遅いんだから愛一人で行かせると危ないでしょ?」

「たかがコンビニじゃん。それがダメならあきらめな」

「受験でピリピリしてるんだからいいじゃない。清正の分もお母さんが出したげるから」

「ったくしょーがねーな」


 出してくれるなら話は別だ。

 悲鳴をあげるほど好きなもの買ってやるぜ。


 コンビニだけどな。


「愛、アンタも一緒に行ってきなさい」

「え!? な、何で?」


 部屋の外に愛がいたようだ。

 母さんからの予想外な発言に驚いている。


「何でじゃないでしょ。お兄ちゃん一人に行かせるなんて可哀想じゃない。元々は愛が買いたいって言ったんだから行ってきなさい」

「えー…………」

「えーじゃない」

「…………分かった」

「マジかよ」


 どうせなら俺一人の方が良かった。

 愛も来たら面倒くさいんだが。


「清正、面倒くさいとか思わない」

「エスパーかよ……!」

「親っていうのは子供に対してだけエスパーになれるのよ。じゃあ気を付けてね」

「へいへい」

「へいは一回」

「そんな決まり事あるかよ!」


 こうして俺と愛は二人でコンビニに向かった。

 歩いて10分ぐらいだからすぐである。


 俺が前を歩き、愛が後ろをついてくる。


「ねぇ…………」


 さて、この状況を俺ではなく桐生であったと仮定して考えてみよう。

 桐生に兄妹はいないので想像の話になるが、まず間違いなく桐生の妹はブラコンだろう。

 コンビニに行くと言ったら積極的についてくるはずだ。


「ねぇ…………」


 そして道中、もしくはコンビニで海野先輩、美咲ちゃん、幼馴染の巨乳の誰かにエンカウントするだろう。

 それを見た妹が嫉妬し、エンカウントした相手と一悶着起きるまでがワンセット。

 桐生であればこれぐらいは引き寄せるはずだ。


「ねえってば!」

「…………なんだよ」


 こちとら考え事で忙しいわけだが。


「ちょっと歩くの早い」

「お前が遅いんだろ」

「少しは私の事も考えて」


 ピキッ。


 なんという厚かましい発言。

 里美ならいざ知らず、なんでお前優先にしなきゃならないんだ。


「断る。彼女でもないのに何で気を使わなきゃならないんだ」

「彼女なんていないのによく言うよ」

「は? いるけど」

「はいはい強がり」

「事実だ。ほれ」


 俺は里美とのデートの約束をしたやりとりを見せた。


「え…………?」

「分かったか。今の俺には可愛い彼女がいるんだ」

「……………………」


 沈黙だ。

 驚き過ぎて声も出ないのか。


「兄貴に…………彼女…………」


 そんなに俺に彼女がいることが驚きなのかよ。

 ちょっと失礼すぎるだろ。


「帰る」

「は!?」

「私先に帰ってる」

「ちょ……お前……! 何だよ急に! コンビニは!?」

「いい」


 結局一人で帰ろうとする愛を放ってはおけず、俺もその後をついて帰り、愛が突然家に帰った理由も分からずじまいだった。


 なんなんだ一体。

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