24話 マラソン大会 準備編
「お前らーーー!! 桐生に勝ちたいかーーー!!!」
「「「おおおおおお!!」」」
「天条さんに良いとこ見せたいかーーー!!!」
「「「おおおおおお!!」」」
「男子サイッテー」
なぜ唐突に俺達が女子から嫌われているかと言えば、それには理由がある。
そりゃあるに決まってるさ。
理由なかったら生理的に無理だと言われてるようなものだ。
そんなの泣くぜ。
【遡ること1時間前】
今日は誰も待ちに待っていないマラソン大会当日。
なぜ誰も希望していないマラソン大会などあるのだろうか。
高校生にもなってそんなのあるとは聞いていない。
自慢じゃないが(むしろ自虐だが)、俺は自分の体力の無さには自信がある。
今まで一度も運動系の習い事なんかもしたことがない。
部活もやってないし、帰宅部だ。
あ、一応今はやってるか。
「おっす桐生」
「ああ」
「マラソンだぜ今日。やってらんねぇよな」
「俺もあまり得意ではないな」
「適当に流すか」
マラソン大会は3年生を除いた1、2年生の合同で行われる。
合同とはいっても、1年男子、1年女子、2年男子、2年女子と分かれている。
コースは鷹山高校周囲を三周。
それだけなら楽だと思った?
甘い!
角砂糖より甘い!
鷹山高校は山を切り崩した頂上に作られているため、学校の周囲というと、一度坂を下り下り公務員のように天下り、合計三回は心臓破りの坂を登ることになる。
歩くだけでもキツイのにこれを三周だぜ?
肺が4つないと無理。
俺達はジャージに着替え、運動場に集合した。
「うわ寒っ……。無理無理、凍え死ぬ。桐生、お前のジャージ貸して」
「アホ。俺が死ぬ」
「楓くん、キヨ、やっほー。ホント寒いね〜」
「美咲」
「おっす〜」
天条さんが袖の中に手を半分隠しながら、ハァ〜と息を吐いた。
萌え袖である。
もう可愛いすぎ。
見ているだけで心温まりますなぁ!
「でも寒くても頑張ろうね! 私も走るの苦手だけど、苦手なことこそチャレンジチャレンジ!」
ええ子や。
ホンマにええ子や。
「おい見ろよ。天条さんだ」
「ああ、体操服姿もマジ天使」
「天使すぎて、たまに苗字が天使に見えるからな」
流石にそれは病気だ。
それにしても、騒いでるのはやっぱり天条さんとは別のクラスだな。
俺達もそうだが、基本的に天条さんと体育の授業なんてできないわけだし。
この機会に心のシャッターを切る男子は少なくないだろう。
「颯くんのこともしっかり応援するから頑張ってね!」
「適当に流すつもりなんだがな……」
「ダメだよ! やっぱり何事にも頑張ってる人がカッコいいと思うし」
「聞いたか野郎どもおおおおおお!! マラソン大会も本気で頑張っている奴がカッコいいんだとよおおおおお!!」
「「「うおおおおおおおおおお」」」
…………スゲェ盛り上がってる。
アホな奴らがここぞとばかりに美咲ちゃんに良いとこ見せようと盛り上がってる。
とんでもねぇな。
「……あそこの人達どうしたんだろう?」
「……さぁな」
さて、俺は空気を読んでこの場を離れようかな。
「武将」
「その名で呼ぶバカは…………やはり有馬か」
否、有馬だけではない。
三バカ含めたその他の男子が集まっていた。
焼き討ちにでも行くつもりだろうか。
「桐生と仲の良いお前なら今の俺達の心境に共感できるだろう」
「唐突になんだ。何も分からんわ」
「見ろあの二人を! 我らがアイドルをあんな独占している輩を許していいと思っているのか!」
「輩はお前達じゃね」
「そこで俺達は今回、桐生にだけは良い思いをさせまいと、ここにいる陸上部の韋駄天こと速水に一番を取ってもらうことにした」
「よろしく」
「ああはいどーも…………って別にアイツはマラソン得意でも何でもねーから気にしなくていいと思うぞ」
「相手はあの桐生だ! 何が起こるか分からん!」
そんな魔王じゃないんだから…………。
でも有馬が言うことも言い過ぎではないと思ってる自分がいる。
桐生なら何かしらやりかねないからな。
「でも俺は何も手伝わねーよ。何で俺がそんなこと……」
「アレを見ろ」
有馬が再び桐生を指差すと、先程まで天条さんだけと話していたのに、俺がいなくなった途端に様々なクラスの女子に囲まれていた。
「なんじゃ……あれは……」
「桐生の野郎は美咲ちゃんや海野さんだけでなく、他のクラスの女子にも異様に人気があるんだよ。知らなかったか?」
確かに桐生が入った後に天文部に入ろうとした女子は多かったって聞く。
海野先輩が全て弾いたって言ってたけど……。
「あの状況をみても………………お前は何も思わんかね?」
「お前らーーー!! 桐生に勝ちたいかーーー!!!」
「「「おおおおおお!!」」」
「天条さんに良いとこ見せたいかーーー!!!」
「「「おおおおおお!!」」
「男子サイッテー」
今ここに、主人公引き立て役連合を結成する!