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22.5話 みんなのクリスマス

「うぉー寒ぃなぁ」


 シンシンと雪が降り、冷たい風が顔を突き刺すように吹き付ける。

 里美の部屋でケーキを食べた後、俺達は少し離れた所にある大きめの公園に来ていた。

 ここには申し訳ない程度の、絶妙な大きさのクリスマスツリーが展示されている。


 これを見た所で、うぉおおおお! とも、素敵…………ともならないが、ほっこりするのにはベストだ。

 その絶妙さ故に、ほとんど人はいない。

 いても地元の人ぐらいだ。


「ちょっと寒すぎだよね」

「でもこうして一つのマフラーを2人で使うと……」

「恥ずかしさが相まって暖かいね」

「何でそういうこと言うかな」


 クスクスと里美が笑った。

 そう言いながらも同じマフラーを巻き、俺に体を寄せるようにして公園内を歩く。


 見てるか諸君。

 これがリア充というものだ。

 ハンカチなんかを手に持ってたりするなら、是非とも口に加えて噛み締めたまえ。

 敗北の味がするはずだから。


「あ、クリスマスツリーがあるところまで来たよ」

「お、本当だ。相変わらず絶妙な大きさで困るよな」

「でもそれがいいよね」

「確かに。人も4人ぐらいしかいないし…………」


 なんかあの4人、揉めてるな。

 ギャーギャーと騒がしいというか。


「何だろう、喧嘩かな」

「こんな日に? センス無いな」

「センスの問題なんだ……」


 聖なる日ですよ?

 そんな日に喧嘩なんてしてたら、慌てん坊のサンタも袋でぶん殴ってくるレベルですよ。


「だから颯はこの後、私の家族とご飯食べるんだってば!」

「あら。それは颯の意思を尊重した結果になるのかしら?」

「当たり前じゃない! 毎年そうだったんだから!」

「でもほら柚希ちゃん、今年は4人でいるんだし……」

「充分一緒に遊んだでしょ! た、確かに楽しかったのは事実だけど…………それとこれとは話が別なんだから!」

「何だかすごい揉めてるね……痴情のもつれって奴なのかな。どう思う清正…………清正?」


 OH…………。

 何てこったい。

 なんという不遇。

 なんというサプライズ。

 1年間いい子にしていた俺へのプレゼントは、これなのか。


「里美、帰ろうか」

「えっ、何で?」

「ここにいて巻き込まれたら大変だろ?」

「まぁ……喧嘩してる所なんて、いても嫌なだけだもんね」

「そうと決まれば早速……」

「キヨじゃないか。奇遇だな」

「人違いです」


 さあ帰ろう。

 すぐ帰ろう。

 あったかーいハーウスが待っている〜。


「あれ? 桐生君だ。久しぶりだね」

「ああ、陸川か」


 話しちゃうのね……。

 フランクな感じでいくのね……。


「そうか、お前らもここに来てたんだな」

「……はぁ。そうだよ、そして帰るところだ」

「なぜだ? 俺も向こうにいる3人と来ているんだ。一緒にクリスマスツリーを見ないか?」


 空気を読むんだイケメン!!

 普段は空気を読むのが得意なくせに、なぜこの状況においては発揮されない!

 俺を解放しろ!

 解放軍であれ!


「向こうにいる人たちも、桐生君の知り合いなの?」

「俺に限らずキヨの知り合いでもある」

「凄い揉めてるね」

「少し困っててな。キヨ、どうにかしてくれないか?」


 お前が俺に頼みごと……だと?

 今日は雪か?

 雪だった。


「…………何をどうすればいいんだ?」

「丸く収める」

「アバウトだな!」


 ぶん投げにも程があるわ。

 豪腕投手かお前は。


「丸く収めるってもだな……」

「颯!? 颯どこいったの!?」


 お探しですぜプレイボーイ。


「颯……ってアンタは!」

「お久しゅうございます」

「あ、キヨだ」

「こんな所で会うなんて、偶然ね」


 ワラワラと美少女達が集まってくる。

 これだけでトップアイドルグループ作れちゃうよ。


「き、清正……。なんか凄いみんな綺麗な人達ばかりだよ……」

「ここ一帯は今、強力な電磁波が生じてバグってるからな。現実だと思わない方がいい」

「どういう現実逃避の仕方だよ」


 そら目も背けたくなります。

 だって俺らは一般ピーポーだからね。

 庶民派のたくあんみたいな存在だからね。


「あれ? そちらの方は……」

「あ、陸川里美と言います」

「キヨの彼女だな」



「「「えええええええええええ!!!!!!」」」


 おいこら。

 いくらなんでも失礼すぎるだろ。

 聖夜に雄叫びが轟いたぞ。


「き、キヨに彼女なんていたの!?」

「驚いたわね……颯に勝ってる部分があるなんて……」

「何か弱みでも握られてるの?」

「ボロカスに言い過ぎだろアンタら!!」


 そこまで言うかな普通!?

 心を殺しに来てるぜそれは!


「えーっと……弱みとかは別に握られてないかな……?」

「じゃあなんでそんな地味な奴を? 陸川さん可愛いし、もっと良い人狙えるよ」


 おいこら土屋柚希。

 巨乳だからって言っていいことと悪いことがあるからな。

 俺が貧乳好きだったらお前は既に死んでいると思え。


「キヨのどんなところが気に入ったの!?」

「えー……? 意外と優しいところかなぁ」


 意外とは心外。

 どう見ても優しさが滲み出てるというのに。


「じゃあ見た目で選んだわけではないのね?」

「もちろん、見た目もカッコいい! …………と、思いますよ……?」


 何で疑問形?

 もうちょっと自分の彼氏に自信持ってもいいんじゃないかな。


 その後もキャッキャと質問責めに合う里美。

 そして抉られる俺の心。


「さすがキヨだな。しっかり喧嘩を仲裁して丸めた」

「リターンが全然釣り合ってないんだが? お前後でなんか奢れよまじで」


 今年の聖夜は、癒しと拷問が入り混じったクリスマスだった。

 でも、不思議と嫌な気持ちはしなかった。

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