18話 期末試験
「明日は何の日か知ってるよな?」
部活がなく、教室を後にしようとした俺と桐生に、チキン3兄弟の1人、長屋が声をかけてきた。
「何だ足軽か。何の用だ」
「足軽じゃねぇよ! 明日が何の日か知ってるか聞いてんだ」
そりゃ知ってるに決まってる。
誰かの誕生日とかそういうイベント事でないとするなら答えは1つだ。
「期末試験だろ?」
「その通り、期末試験だ」
「お前らも遊んでないでしっかり勉強しろよ。じゃ」
「待て待て待て。そんな当たり前の確認をお前らにしに来たんじゃない」
じゃあ何だと言うんだ。
この時期に美咲ちゃん絡みの相談なんか乗ってるヒマはないぞ。
自分で何とかせい。
「おい長屋、何やってんだ?」
残る3バカ、有馬と中西もやって来た。
《バカAは仲間を呼んだ! バカBとバカCがやって来た!》
なんてゲームの画面が浮かんだ。
「今こいつらにお願いしてるところなんだよ」
「お願い?」
「お願いされてたの? 俺達」
「用件は今から話すんだけどな」
桐生は完全に我関せずといった顔をしている。
面倒臭い案件だったらお前も巻き込むからな。
エグい左折の巻き込み事故起こしてやる。
「で? 明日が期末試験だから何だ?」
「俺に勉強を教えてくれ」
「「「「は?」」」」
一同ポカンだ。
長屋のあまりにもアホかつ無駄な申し出は、奇しくも俺達4人の心を初めて1つにさせた。
『何言ってんだコイツ』
「ほら、やっぱり勉強が出来る男ってモテ要素の1つじゃん? 天条さんの事を考えると勉強できてた方がいいかなーって思ってな」
「…………おい軍師」
「……………………ああ、軍師って俺のことか」
「こいつってガチにヤバイ奴なのか?」
「いや、俺らもここまでバカだとは思ってなかった」
「仲良いんだろ? しっかり手綱握っとけよ」
「前日に教えを請う奴だなんて分かるか」
こういうのは普通、1週間前にでも聞くべきものだ。
前日に「本気なんだよね」発言されても冗談にしか聞こえない。
「ちなみになんだが長屋、もちろん今まで勉強はしてたんだよな? 最後のまとめ的な意味で頼んでるんだよな?」
「俺は今まで一夜漬けで乗り切ってきた男だぜ? 今回も一夜漬けだ!」
全員頭を抱えた。
もう目に見える頭の抱え方だ。
「これまでの点数は?」
「5教科平均30点は固い!」
「グニャグニャだそれ…………お前の基礎力グニャグニャ……」
赤点ギリギリの世界かよ……。
うん、これは無理だ。
そもそも俺は自分の事でイッパイイッパイで、誰かの勉強を見てやれる余裕はない。
「有馬、お前が見てやれよ」
「なぜ俺が」
「何のためにメガネかけてるんだ」
「世界の行く末をしっかり見守るためだな」
「誰が厨二病的回答を求めたんだよ。お前は勉強出来そうな見た目じゃん」
「よく分かってるな。毎回赤点はしっかり回避しているぞ俺は」
「フッ」って格好つけてる所悪いんだが、その言い方だと嫌な予感しかしないが。
「平均40点は固い」
「お前もフニャフニャだ! 基礎力フニャフニャ!」
「ハイハイ! 俺45点! トップじゃね!?」
「3バカのトップで喜ぶな中西!」
なんという底辺の肥溜め…………!
コイツらと関わっていたら確実に悪影響が出る……!
「じゃあ加藤は何点ぐらい取れてんだよ」
「お前らと一緒にするな! 半分は取れてるわ!」
「「「変わらねぇよ!!」」」
50点だぞ!
世の中半分取れてれば充分なんです!
「この流れだと桐生も大したことないんだろ!」
「何だよお前らもどっこいどっこいか!」
「頼む相手間違えたわ!」
「いや、コイツはマジに…………」
「平均90点」
「「「………………なに?」」」
「国語は前回満点とった」
「「「…………………………」」」
人は驚くと声を失うみたいだ。
そう、桐生は勉強もスポーツもこなせるパーフェクトヒューマンなのだ。
だからこそ周りから浮くし、何もしなくてもモテてしまう。
人の気持ちに興味ないくせに国語が満点なのはいささか納得いかないが…………。
「殿、我らに勉強を教えて下され」
「ついに殿様まで現れたのかよ!」
いよいよ俺達だけで大河が撮れそうだ。