16話 デート
諸君。
今日が何の日だかご存知だろうか。
ヒントは11月11日。
え? ポッキーの日?
ちげーよ。
俺はグリコの手先じゃねぇ。
正解は…………
「おまたせ清正!」
俺の彼女、陸川里美との初デートだ。
厳密に言うと初デートではないけどね。
中学時代にも付き合ってた相手だし、今さら当時の初々しい感じなんてものはないと思う。
「俺も今来たとこ」
なんてテンプレで返す余裕もあるくらいだ。
だから緊張なんて全然してないし、本当は1時間前にスタンバッてたからといって何の問題はない。
「水族館なんて久しぶりだよ」
「俺は結構来るぜ? 深海生物が超好きなんだ」
「そうだったの? 中学の時は水族館なんて行ったことなかったもんね」
「受験生だし、お金も無かったしな」
そもそもデートをした回数もたかが知れている。
両手の指で足りるくらいだ。
「1人2500円だって」
「ここは俺に任せてくれ」
「えっ、いいよ〜自分で出すから」
「バイトしてお金はすこぶる持ってるんだ。ここは俺が出すから任せてくれ」
「じゃあ……代わりにお昼ご飯は私が出すね。美味しいところ知ってるんだから」
そう言って里美はエヘヘと笑った。
おい見たかお前ら。
俺の女神を。
嫉妬で狂い咲くんじゃないぞ。
「じゃあ入ろっか」
中に入ると、初手から水中トンネルが俺達を出迎えた。
180度水に囲まれ、まるで海の中にいるかと思わさせるほど荘厳で、神秘的な世界だった。
そこからも順序通りに水族館の中を見て回り、シャチのショーを一番前の席で見学するも、飛び跳ねる水にお互いびしょ濡れになり笑い合った。
いわゆる普通のデートである。
どっかの誰かのように劇的な何かがあるわけでもなく、出掛ければイベントが必ず起こるようなこともなく、ただただ普通のデートだ。
だがそれこそ至高。
これこそ至福。
主人公体質なんかじゃなくても俺は充分に幸せです!
「キヨじゃん」
もうね、ゾッとした。
なんでやねんって。
なんでお前がここにいるねんって。
「あれ……確か清正と同じクラスだった……桐生君だよね?」
そう。
桐生とエンカウントしてしまったのだ。
よく考えれば、これは充分に予測できた事態なのかもしれない。
俺自身は、出掛けるたびに知り合いに偶然会う、なんて展開自体は数回しか無い。
つーか普通の人でもそんなに頻繁にあるわけじゃない。
でも相手はあの桐生だ。
自ら問題を引き寄せる、ナチュラルトラブルメーカー。
つまり今回のケースで言えば、『俺が偶然水族館で知り合いに出会った』じゃなくて、『桐生が偶然水族館で知り合いに出会った』ことになる。
つまり俺は巻き込まれた側の人間だ。
桐生という男によって。
なんだこりゃ。
説明しててスゲー意味分からん。
でもこうやって何かに取ってつけて無理矢理理論付けないと納得出来ない出来事が多すぎるんだよな。
結論。
何が言いたいのかと言えば。
ファッキュー桐生!!
しかも誰だ隣にいるエロいお姉さんは!!
また知らん女連れとるんかお前は!!
「陸川か……? どうしたんだ2人で? キヨ、陸川とは中学の時に別れたんじゃなかったのか?」
「まぁ色々あってまた付き合ってるんだよ」
「そっか、良かったな。あの時のお前、かなりショック受けてたし」
い、今はその話はいいだろう、恥ずかしい!
それよりもお前の話だ!
誰だよその新キャラ!
もうこれ以上増やすんじゃねーよフォローを誰がしてると思ってんだ!
勝手に俺がしてるんだけれども!
「そっちの人は?」
「俺の従姉妹だ」
いとこ……。
よし、セーフだな。
美咲ちゃんや海野先輩に今後バレても問題なさそうだ。
それにしても……なんかこう……デカイよなぁ。
黒髪なんだけど若干の癖っ毛があって、海野先輩は妖艶なエロさがあるけどこの人は直情的なエロさというか……。
「どーも! 桐生友梨21歳大学生です! 2人は颯のお友達かな?」
「そうですけど……何で2人で水族館に……?」
「いやー久しぶりに颯に会ったのにさー、こいつ何処にも連れてってくれないの! だから今日無理矢理私が連れて来たんだー」
そう言って桐生を抱き寄せて、その豊満な胸に押し付けた。
「離せよ鬱陶しい」
「つれないこと言っちゃって〜嬉しいくせにー!」
もうお腹いっぱいだって。
桐生の周りにいるとこんなんばっかだから食傷気味です。
もう早く誰か固定の1人とくっ付けよ。
「あ、お土産見たかったんだ。じゃあ颯のお友達! こんな愛想のない奴だけどこれからも颯をよろしくね!」
そう言って桐生の腕を掴んでお土産売り場へと引っ張っていった。
まるで嵐のような人だ。
「なんか……従姉妹って言っても桐生君とは正反対の人だったね」
「恐るべし桐生家の血筋……」
あ、なんか桐生に全部持ってかれた気がするけど、デート自体はこの後も楽しかったです。
この従姉妹、今後特に絡む予定はありません。