15話 エンカウント
「いわゆるラブコメの主人公に最も必要なのは運だと思うんだ」
「急に何の話だ」
俺は桐生に放課後の部室で自論を述べ始めた。
もちろんこの場に海野先輩と美咲ちゃんはいない。
「漫画とかアニメでよくあるラブコメ。知ってるだろ?」
「漫画もアニメもあまり見ないな」
「お前それでも日本人か!」
「日本人に対する偏見だそれは」
「とにかくだ。それらに登場する主人公ってのは、不思議と女の子を引き寄せるんだよ」
今のお前みたいにな。
「それは女の子を助けたり、優しい言葉をかけたり、単にイケメンだったりと理由は様々だ」
「単純な理由だな……」
「だがしかし! それらを差し置いてもラブコメ主人公にとって必要不可欠な要素がある!」
「それは?」
「運だ!! ラック値、エンカウント率、ラブコメ主人公に共通してあるのは、その強運なまでの引きだと思うんだよ!」
「なぜ?」
「何事もまず出会いがなけりゃ始まらない。クールビューティの先輩を助ける機会に恵まれることも、学校のアイドルと接点が生まれることも、幼馴染なんて生まれた時から既に引き寄せてるも同然だ!」
もちろんお前のことだ。
全部お前のこと。
海野先輩も、美咲ちゃんも、土屋も。
もちろん桐生がイケメンで誰かを助ける力も魅力もあるのは分かる。
でもあり得ない様なところでエンカウントするのはおかしいだろ!
この前のカフェでも桐生や土屋の家からは遠いだろあそこ!
なんで土屋がいるんだよ!
どんな確率だあり得ないだろーが!
「つまり俺が仲良くしている女子は全員、運が良かっただけってわけか?」
なんかちょっと言い方が違う気もするが……。
「まぁそういうことだな!」
「ならお前が葵先輩や美咲と仲良くなれたのは実力ってことか」
「え」
海野先輩→桐生に誘われて偶々入った天文部の部長。
美咲ちゃん→桐生が天文部に連れてきた。
あれ?
俺、桐生におんぶに抱っこじゃね?
「いや、ごめん。違うわ。100パーセント運だこれ」
「じゃあキヨ、お前は実はそのラブコメの主人公とやらなんじゃないのか?」
な…………なんだって?
あたいがラブコメ主人公?
まじ?
「…………ってんなわけあるかよ!」
「なんだ違うのか」
「美少女を侍らせるお前みたいなやつの事を主人公って言うんだよ! 俺の周りに来るのは精々微少女だ!」
「意味は分からんが失礼な事を言ってるぞ、お前」
「だいたいお前はどう思ってんの? 今の状況」
やれやれ系のお前が、この現状をどう思ってんのかこの際突き詰めてやる。
まさか気付いてないなんて鈍感系なこと言わせないぜ。
「そうだな……。中学の頃よりもだいぶ居心地はいいと思ってる。他人とあまり関わりなかった俺が、今はこうして良くしてもらってるんだ。何も言うことはねーよ」
うーん……そういうことじゃなくて。
そんな優等生的な答えが聞きたいんじゃなくてさ。
「2人をどう思ってんの?」
直球だ。
喰らえ。
死球だ。
「葵先輩と美咲か? そうだな、強いて言えばーーー」
ガチャ。
「遅れてごめんねー!」
「美咲を迎えに行ってたからーーー」
「葵先輩はクールで綺麗だと思うし、美咲は明るくて可愛いと思ってる」
………………………………。
今そういう話してたばっかりじゃん。
なんでこのタイミングで来んの?
あり得なくね?
あーあー海野先輩も美咲ちゃんも顔真っ赤にして照れてる。
お、珍しい。
桐生もちょっと赤くなってやっちまったって顔してる。
これで少しはこの関係に進展があんのかな。
観測者として凄い楽しみだ。