12話 調査
「ということで、お前達には土屋柚希という女の子の素性を調べて欲しい」
放課後、教室で席に座る俺の前に3人の男がいた。
有馬、中西、長屋のチキン三兄弟だ。
「ふざけんな。天条さん絡みの話かと思って来てみれば、何で俺達がお前の頼み事を聞かなきゃいけねぇんだ」
「俺達はお前の下僕じゃねーぞ」
「なめんな」
ピーピーピーピーうるさいな。
美咲ちゃんに直接連絡先を聞くことも出来ないヒヨコ達め。
「いいか? これは先日の将を射んと欲すればまず馬を作戦の続きだ。この土屋柚希という女の子は、情報によれば桐生の幼馴染らしい」
「けっ!!!」
「ちっ!!!」
「ぺっ!!!」
露骨に態度に出たな。
あと教室に唾を吐くな。
「ちなみにこの女の子は割りかし可愛い。あと巨乳だ」
「おいおい、天条さんに比べたらその辺の女の可愛いなんざカスみたいなもんだ」
「かぐや姫と椎茸は比べたりしないだろ?」
「その程度の情報で俺達が動くと思うなよ」
椎茸扱いはさすがにヒドすぎる。
でも確かに美咲ちゃんに比べられた女の子は漏れなく虐殺されるしなぁ。
それこそ張り合えるのは海野先輩ぐらいだ。
仕方ない。
「この調査をお願いしてきたのは他でもない、天条さんだ」
「なんなりとお申し付けください」
「如何なることでも致します」
「我らはあなたの手足です、武将」
変わり身はえーな!
手首千切れるかと思うスピードで反転したぞ!
やっぱこいつらの行動原理は美咲ちゃんか!
「あと何回も言ってるけど武将呼びやめろ。それを言ったら有馬は眼鏡を掛けてるから軍師だろ」
「望むところだ」
「望んじゃうのかよ」
「そうすると中西はあれだな。逃げ足が速いから飛脚だな」
「何でただ『足が速い』じゃダメなんだ……」
「じゃあ長屋は?」
「こいつはバカだからな」
「ああ、足し算も怪しいくらいだ」
「おいお前ら」
「じゃあ決まったな。長屋はーーー」
「「「足軽」」」
「ふざけんな!」
それぞれのコードネームが決まったところで今日は解散となった。
これで後は3人が調べてきてくれるのを待つだけよ。
後日。
3人が調査を終えたということで、俺の元へとやってきた。
「待ってたぜ! 早く情報を俺にくれ!」
「何をそんなに焦ってんだ」
そりゃそうさ!
この期間、海野先輩と美咲ちゃんからの圧力が凄かったんだからな!
「まだ分からないの?」って笑顔で聞きながらも、目は全く笑ってないあの二人を前にしたら誰でもビビるぜ。
もう桐生本人に直接聞いたろうかなって思ったぐらいだ。
「えー代表して私、有馬が報告します。まず土屋柚希は瑞都高校に通う1年C組出席番号16番身長162cm体重48kg血液型B型バスト86ウエスト60ヒップーーー」
「うわわわわ怖い怖い怖い!! 何でそんなに詳しく体のラインまで分かったんだよ!」
「何言ってるんだ? 調べろと言ったのは加藤だろ」
「安心しろ。バレるようなヘマはしてない」
「それはつまり法を犯してるってことか!?」
「おっと。そっから先は知らないほうが身のためだぜ」
何者だよこいつら!
ストーカーよりやべぇじゃねーか!
「つーかそんなリサーチ力あるなら天条さんの連絡先ぐらい余裕だろ」
「バカか! 天条さんは俺達のアイドルだ! そんな失礼なことできるかよ!」
マジで何したんだよこいつら……。
「発表を続けさせてもらうぞ。先にあった情報の通り、土屋柚希と桐生は小さい頃から一緒にいることが多かったらしい。家族ぐるみの付き合いがあったみたいだな」
家族ぐるみの仲ってのは桐生も言ってたな。
「小学校まで同じだったらしいが、中学は私立に通ってたみたいだ。その後も交流はあったみたいだが、月に1回会うか会わないか程度だったみたいだな。家も離れていたみたいだし」
だから中学時代に俺と会わなかったのか。
頻繁に会うようだったら俺も知ってるしな
「それでお互いの高校が近くなったことで、土屋柚希の方から会いに来ることが多くなったらしい」
「じゃあ過去に桐生と土屋が付き合ってたって事実はないんだな?」
「ないっぽいな。どちらかというと土屋柚希の方から桐生に会いに行ってるらしい」
なるほど。
これであの2人には何もないことが確認とれたわけだ。
俺の精神もこれ以上蝕まれることもなくなるな。
「助かったよあんがとな!」
「それで例の件なんだが……」
「ああ、よかろう。ソチらの活躍、姫の方に伝えておこう」
「「「あざーす!」」」
その日の放課後。
俺は海野先輩と美咲ちゃんに土屋の件を話し、何事もないということでミッションを終了した。
今回のことで一つ思ったんだが、俺、今回何もメリットなくね?
実際に調査したのはチキン三兄弟だけど、ハシゴ役したり無駄に圧をかけられたり。
「そういうわけで桐生、疲れたから俺になんか奢れ」
「急に何の話だ……」
あんぱん奢ってもらいました。