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10 魔術鍛錬

「それでは魔術の鍛錬をしていきましょう」


 前庭に集まった私たちにテリースさんが講義を始めた。今日はお天気がいいのでみんなそれぞれ思い思いの格好で芝生に座ってる。テリースさんが私のために椅子を持ってきてくれた。


「まずは基本の原理ですが、魔力があれば魔術を行えます。魔力を持った者が魔術を行えば魔法が放出されます」


 おお、やっと異世界らしいファンタジーな理論だ!


「ですから魔術の鍛錬とは魔力を魔法に変換する方法を覚えていくことです」


 そこでニッコリほほ笑んだテリースさんが私に歩み寄ってきた。


「それではまず、魔力系統がはっきりしているあゆみさんから基本魔術を行ってみましょう。これらは最も単純な魔法です」


 そう言って、テリースさんが両手を上に向けて私に差し伸べる。


「まずは私の右手にあゆみさんの左手を乗せて、右手をこのように上に向けて開いてください」


 言われた通り、テリースさんの右手に自分の左手を乗せ、右手を仰向けで前に広げてみる。


「次に私が雷系の基本魔術を放出しますから、その信号を左手で受け取って再生してみてください」


 え、え? ちょっと待って。


「あ、あの、呪文とかそういうのは?」


 普通魔法って呪文で出すんじゃないの?


「呪文ですか? さて、私は聞いたことありませんね。教会では初代王が設定した教典の一部を使うことがありますが」

「因みにそれはどんな……?」


「確か『●え上がれぇ、●え上がれぇ』でしたっけ」

「ああ、後は『●tand ●p To The ●ictory……』とか」


 あ、黒猫君が身悶えしてる。私も鳥肌が収まらない。


「わ、分かりました。呪文は結構です」


 聞かなかったことにしよう。


「では始めますよ」


 そうテリースさんが宣言した途端、テリースさんの右手から小さな雷が立ち上るかのように垂直に放出された。

 それと同時に、なんか冷たいピリピリする感触がテリースさんの左手から伝わってくる。


「ではあゆみさん、信号に自分の魔力を乗せてみてください」


 左手から流れて来たピリピリする感覚は身体の中を通って右手まで来る。それに自分の魔力を乗せてみると。


「うわ、出た!」

「おお!」


 この世界に来て初めての魔法らしい魔法に、黒猫君と私が二人同時に感嘆の声を上げた。

 それを残りのみんなが可愛そうな子供でも見るような生暖かい視線で見守ってる。


「それでは手を放しますから同様にご自分だけで放出してみてください」


 テリースさんから送られてきた信号は、まるで歌のワンフレーズみたいにしっかり頭に残ってる。それを思い出しながら魔力を手に流していくと、またも簡単に雷を放出することが出来た。


 おお、凄い! 私、雷が出せるようになっちゃった!


 黒猫君もまじまじと私の手を見つめてる。


「それでは次は乗せる魔力量を増やしてみてください」


 言われるがままにもっと魔力を乗せようとするんだけど、これが結構難しい。

 要は頭に残っている歌のサビの部分を声に出して歌おうとしてるみたいで。それでもなんとか調子をとってもっと魔力を乗せようとすると、突然右手の平からポスッて音とともに小さな煙が立ち昇った。


「なんだ今のは?」

「ああ、失敗ですね」


 テリースさんが説明してくれる。


「信号に魔力量をちゃんと乗せられないと、このように魔法が失敗してしまうことがあります。通常は魔力量が足りない場合に良く起きる現象なのですが。あとはよっぽど不器用な方がたまに──」


 そこまで言って言葉を濁されてしまった。

 ガックリ落ち込んでると、後ろから声が掛かった。


「あゆみさん、そんなに落ち込む必要はありませんよ。心配されなくても全然普通ですから」


 後ろを振り返るとアルディさんがこちらに歩いてくるところだった。


「隊……殿下、門のほうに異常は見られませんでした。歩哨からも異常がないとの報告です」

「分かった」


 手早く報告を終えたアルディさんが私の前まで来て言葉を続けた。


「テリースもキーロン殿下も、どちらも生まれた時からしっかり魔力を持ってたクチですからあてになりません。僕だって子供のころは良く失敗しましたし」


 そう言って片手を差し出す。


「テリースは魔力も少ないですから信号もはっきりしてなかったのでしょう。今度は僕と試してみましょう」


 そう言ったアルディさんにキールさんが素早く声を掛ける。


「大丈夫なのか?」

「ええ、今日はネロ君のテスト以外全く魔力を使っていませんし充分でしょう」


 私の理解出来てない顔を見て、テリースさんが補足してくれる。


「アルディさんは軍人で隊長ですから、有事の戦闘用になるべく魔力を温存してらっしゃるんですよ」

「ああ、それでキールはテリースを手放せなかったのか」


 黒猫君の言葉にキールさんがうなずいた。


「それもある。そうでなくても戦闘魔法は馬鹿みたいに魔力を食うから軍行中の治療行為は治療師に任せるべきだ。それに表向き、『キール』はそれほど魔力量が多くない設定だったからな。まあ他にも理由はあるんだが……それはまあ後でいいだろう。じゃあアルディ、試してみろ」


 キールさんに促されてアルディさんが私に向き直る。


「では今度は火魔法で試してみましょう」


 言われるがまま、今度はアルディさんの手に自分の手を重ねる。アルディさんの手の平に小さな炎が立ち上がった途端、さっきとはまた別の信号が流れてきた。さっき同様それをリピートしてみれば、私の右手にも小さな炎が上がる。


 うあああああ、これがあとちょっと前に出来ていれば! どんなに楽だったか!


 涙を浮かべて喜んでいる私と黒猫君をアルディさんが不思議そうに見る。


「火魔法がそんなに嬉しいですか?」

「ええもう! 嬉しいなんてもんじゃなく切実にありがたいです」


 私の反応に苦笑いを浮かべながらアルディさんが続けた。


「それでは今度は自分ひとりで放出しながら、魔力量を上げてみてください」


 言われた通り、アルディさんとつないでいた手を放して自力で放出を始める。問題なく手のひらに小さな炎が灯る。


 確かにアルディさんの信号はテリースさんのよりはっきりしてた。それを思い出しながら、今度こそしっかりと魔力を乗せて──


 ──── ポスッ


「…………」

「…………」


「あぁー。気長に練習すればきっと大丈夫ですよ」


 アルディさんが気まずそうに明後日のほうを見ながらぼそりと呟いた。


注:歌詞の引用の問題状、一部伏字となりました。

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お読みいただきありがとうございました。
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その他の情報は必要に応じて追加していきます
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