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異世界で黒猫君とマッタリ行きたい  作者: こみあ
第13章 ヨークとナンシーと
398/406

27 ネイサン枢機卿の災難3※

※ 途中残酷な描写が入ります。※


 苦手な方は飛ばしてください。

 飛ばしても必ず次話以降でほぼ話が通るようになります。

「クソうぜーなアイツら」


 かすかな草を蹴る足音が、時々後方から聞こえてくる。

 そうじゃなくても殺気が駄々洩れで、こんだけ距離があっても背筋がビンビンしてきやがる。

 この俺が全速力で走り続けてるってのに、追跡者の気配との距離が開く様子がない。


「こんだけ強化かけてる俺様の足についてくるとか、一体どこのどいつだよ」


 いい加減、愚痴も口をついて出るってもんさ。 

 全く今回はとんだドジ踏んだぜ。


 本来今回の襲撃に俺が参加する必要は全くなかった。

 それどころか、嬢ちゃんにも「お前は指示だけ出して、裏方やってろ」って何度も言われてたし。


 なのについ様子を見に来ちまったのは、純然たる俺様の好奇心からだった。


「そりゃこんだけ毎回うちの作戦が失敗してりゃ、興味もわくってもんでしょ」

「な、なんだ、なんの話だ」


 思わず独り言を大きな声で言ってたら、腕に抱えてたでっかい荷物が騒ぎ出す。

 あー無視無視。


 あの蔦に絡め取られたのは、マジで完全に予定外だったわ。

 まさかあんな離れたとこで捕まるとは思わなかったぜ。

 最初に首に巻き付いた一本目はなんとか切り落としたが、その間に何十本も絡まってきやがって。

 防ぎきれるかよあんなの。


 一旦巻き付いたあとはべったり張り付いて、触っただけでも締め付けやがって。

 せめて近場の傀儡自由にして外から外させようと思ったが、関節いくつか外して、服を犠牲にしても、結局腕一本抜け出せなかった。


「もう、ところ構わずべっとりくっついてきやがって、俺敏感肌なのにやんなっちゃう」

「なにを独りでブツブツ言っている!」

「そりゃ独り言なんだから独りでブツブツ言うだろぅがボケ」


 最初は俺の走るスピードに怯えたのか大人しくしてたのに、ガタガタとうるさくなってきた荷物をうんざりして見やる。


「あーあ、同じ攫うんだったら、こんなオヤジよりあのあゆみちゃんって女の子がよかったなぁ」

「お、お前、義姉上(あねうえ)の手の者だろう? なぜあそこで私を攫ったりした!?」

「なんかこう、控えめで、いい匂いしそうで、可愛くて……」

「私は最後まで反対したはずだぞ、こんな襲撃などしなくとも裁判で正しく排除すると言ったはずだ」

「おっぱいもいい感じに大きくて、片足だからトロそうで……」

「大体こんな茶番、義姉上(あねうえ)の計画にもなかったはずだ」

「あーいうのをわざと逃してやって、ちょっとずつ削ぎながら最後はなぶり殺しにするの、俺の大好物なんだけどなぁ」

「おい、聞いてるのか! とっとと降ろせ!!」

「……うっせーな。下ろすよ、今」


 いい加減距離も離れたし、もうここらでいっか。


 グダグタうるせえおっさんに萎えた俺は、さっと見回して適当な場所を探す。

 広がっていた草地もいつしか薄くなり、足元は元の荒地に戻っていた。

 それでも街道を外れたお陰でかなり高低があり、そこここにむき出しになった岩場に姿を隠しつつ縫うように走り続けてる。


 大体、こー言う仕事は俺に向いてないんだよ。

 活かしたまま引きずり回すとか。

 俺、独り身が長いから、他人と長くなんて一緒にいられないのよ。


「なのにこんなおっさん連れて逃避行とか、マジやんなっちゃう」


 まあ、それももう終わりだしいいか。


「ほらよ、しっかり立って」


 手ごろな窪地を見つけた俺は、怯えつつも訳がわからないって顔のおっさんを目立たない位置におろして脇に立つ。


「あのな、確かに俺はあんたの『義姉上(あねうえ)』さんに雇われてるけど、あいにく『義姉上(あねうえ)』さん、あんたのこと頼りないって嘆いてたぜ」


 そんで、よーく顔が見える状態で両腕を後ろにひねりあげた。


「な、なにをっぐぎゃっっっ!!!」


 一瞬抵抗するが、それを片手でしっかり掴んで息ができないところまで絞りあげ、自分の力じゃ俺から絶対逃げられねえことを教えてやる。


「だからあんた、ヨークに戻ってこられると『義姉上(あねうえ)』さん迷惑らしいよ」


 俺の言葉に愕然とするおっさん。

 いいねいいね、上がってきた。


「あんたの怖~い『義姉上(あねうえ)』さんから大事な伝言だ」


 動けないおっさんの耳に、優しくしっかり届くように囁いてやる。


「『ご苦労さま、あとは私たちに任せてゆっくりおやすみなさい』だとさ」


 あ~、最っ高。

 自分がもうすぐ死ぬと悟った瞬間の、この恐怖にひきつっていく顔。

 背筋がゾクゾクしてたまんねー。


 どんな腐ったオヤジでも、老けたババアでも、汚えガキでも商売女でも。

 分け隔てなく、この時だけは皆俺を(そそ)る、すげーいい顔を晒してくれる。

 それを堪能しながら、おっさんに見えるように自分の横腹の皮膚を爪で引っかいていく。


 おっさんは俺が何をしてるのかわからねえらしい。

 まあ当たり前か。

 近衛兵の雑な身体検査でも、俺の体中にたんまり仕込んだ暗器はまるっきり見つけられなかった。


 さっきの殺糸(さつし)は腕に仕込んでたやつだ。

 アレも便利だが細すぎて見えにくいのが残念だ。

 アレで殺っちまったら目に見えて怯えてくんねーしつまんねーんだよ。


「やっぱ殺るなら絶対目に見える獲物だよな」


 チリチリと断続的な痛みが走るのを無視してかき続けてると、皮膚が裂けて肌の下から小さな刃が顔をだす。

 それを目にした瞬間、おっさんがガチガチと歯を鳴らして震えだした。


 腹からズルリと引き出した細長い刃は両側に細かい逆刃が立っている。

 おかげで引き抜くときに結構中を引きずって、刃からも俺の腹からもタラタラと真っ赤な俺の血が滴ってくる。

 それを目前で左右に振って血が飛ぶのを見せびらかすと、おっさんの恐怖が頂点に達して、辺りに漏らした尿の匂いがプーンと漂った。


 くぅぅぅ、これだよ。

 これがいっちゃん来るぅぅぅぅっ。


 ブルブルっと震えが来た。


 あ~、もう少しこの顔で余韻を楽しみたいが、どうにも足音が近すぎる。


 仕方ねー、もったいねぇけど終わりにするか。


「そんじゃま、死んどいて」


 そう言って、押さえつけたおっさんの首におもむろに刃をあてがった。

 命を手にかけるこの瞬間、顔から一瞬表情が抜け落ちて、絶望だけが残るのがまたたまらない。

 これでこそ仕事してるって実感できるってもんだ。


「裏方なんてクソ喰らえってな!」

「いやだ、助けてく……」


 徐々に肌に沈む刃とにじむ赤、刃の感触に声が止まる、真っ青なおっさんの顔。

 そして皮膚を裂き、刃先が血管を突き破る、勝者にのみ許されたプツッって小さなこの手応え。

 押し広げられた傷口から血が滲みだし、そこで一気に掻き切った瞬間から始まる血しぶきプシャーの豪華大出血!!!……が始まるその直前──


「ボグヘェェェッ!!!」


 ──背中にドカンと一発、とんでもない衝撃が走って勝手に体が仰け反った。

 そのまま地面を転がって、ゾッとするような痛みに振り返ると俺の背中が燃えてやがる! 


「うっわ、お前らそれありえねーだろ」


 慌てて火のついた服を脱ぎ捨てると、その場にもう一発、デカい火の玉が狙い定めて真っすぐ飛んできた。


 え、なにそれ。殺す気満々のうえ狙いがすげー正確なんですけど、これ一体誰が撃ってやがんの??


 慌てて飛びのきつつも、かろうじて残った下着で髪に着いた火を叩き落として振り返れば、あのネロとか呼ばれてた猫人間がこっちに向かって手を伸ばしてた。


「おいそっちの黒猫! 獣人崩れのくせに魔法使うとか反則だろ!」

「知るか、燃えろ!!」


 文句言った俺に間髪いれず、またデカい火の玉が飛んでくる!


 とてもじゃないが二発もくらうわけにはいかねー俺は、尻に帆をかけて逃げ出した。まあ、かける布一枚残っちゃいないんだが。


 くっそ、この俺様が素っ裸で逃走するとかありえねー!


 しかもおっさんまだ死んでねーし。

 まあ動脈には刺さってたからどーせ時間の問題だろし、ま、いっか。


「クソ、仕留め損ねた!」

「ほっとけネロ、それよりこれどうすんだ?」


 走り出した俺のすぐ後ろから、二人の叫び声が聞こえてくる。


 あ、あいつら馬鹿だ。

 あの死にかけ抱えて俺を追いかけるの諦めてくれるらしい。


 それが分かって余裕ができた俺は、素っ裸で走りつつ考える。


 あれ一体なんだよ。

 あんなデカイ狼、あの場にはいなかったよな?

 つーか、ナンシーからこっちずっとつけて来たが、あんな奴を見た覚えねえぞ。


 そう思ってもう一度振り返った俺は、思わず二度見した。

 さっきの狼が縮んで狼の獣人に化けてやがる。


 「え、ウソだろ」


 あれ、テントの前で俺とすれ違った時睨んできた狼の獣人じゃねぇか。

 ああ、前に北から追い出した狼人族か。

 だがいくら獣人だからって、あんなでっかい狼に変わるとか聞いたことねーぞ。


「なんだよ、あいつら全員化け物だらけかよ」


 これじゃ遠隔で適当に襲わせてた傀儡程度じゃ潰せねーわけだわ。


「これはうちの嬢ちゃん、抱えて逃げるしかないかなー」


 ふと俺を見る嬢ちゃんの冷たい視線が脳裏に浮かび、背筋を雷のような快感がゾゾゾゾっと駆けのぼる。


 この俺様がトドメを刺さずに我慢してる、唯一無二の至高の獲物。


 あの美しくも可哀そうな嬢ちゃんが、万が一にも俺と一緒に逃げてなんてくれるわけねーか。


「全く、世の中上手くいかねーよな」


 振り返ったまま腕を組んで唸ってたら、あの狼人間と目が合っちまった。


 やべえ、これ以上タラタラやってたらまた追いかけてきそうだ。


 もう一度戻ってあゆみって女を攫ってきたいのは山々だが、今回は相手が多すぎる。

 それどころか、実は結構ヤバいよな。

 痛みに鈍いから走り続けられてはいるが、さっき火の玉をくらった背中も尻もこんがり焼けてるし、荒野に一人素っ裸で、しかも食料も水もない。


 ……俺様生きてヨークまでたどり着けるのか、これ?


 それでも印象深い片足の獲物に未練を残しつつ、俺はとっととその場を立ち去ることにした。

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