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異世界で黒猫君とマッタリ行きたい  作者: こみあ
第13章 ヨークとナンシーと
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5 狼人族の約束

「おい、学校の話がそれで一段落したなら、俺の話もいいか?」


 それまで椅子の上に足を投げ出して、気だるげに私たちの話を聞いてたバッカスが突然口を挟んできた。キールさんがうなずき返すとバッと勢いをつけてバッカスが跳ね起きる。そのまま立ち上がったバッカスは、真っ直ぐキールさんの前に進みでて、突然その場で片腕を胸に当てて頭を下げた。

 バッカスったらいつの間に兵士さんたちの挨拶の仕方覚えてたんだろう。


「あんたらの協力で、あの砦で生き残ってた仲間は全員助けられた。俺の一族もこれで全員一緒に暮らすことができる。まずは狼人族一族を代表してお礼を言わせてもらいたい」


 今までキールさんとはどこか一線引いてる感じのあったバッカスが、キールさんに深く頭を垂れてる。

 キールさんは目を見張り、すぐに立ち上がるとバッカスの体を両手で掴んで口を開く。


「やめてくれ。これは対等な取引だっただろう。こちらこそ君らの協力のおかげで沢山の農民をいち早く救助することが出来た。国王としても、俺自身としてもこころから感謝している」


 そして顔を上げたバッカスに、ニヤリと笑って付け加えた。


「だが、俺はこの協力関係をまだここで終わりにしたくない。できるなら、今後も君たち狼人族には協力を願えないか」


 それを聞いたバッカスは、まんざらでもない顔でやはりニヤリと笑い返す。


「ああ、俺たちもそれを望んでる。というか、ぶっちゃけ頼みがある」


 お互いに牽制するように笑顔を浮かべて、どちらが先に話し出すのか迷ってるみたい。

 結局キールさんが根負けして口火を切った。


「君の群れのおかげで、無事うちのマイクがバースへ物資を送り届けることが出来た。バースの連中は最初かなり驚いていたようだが、既に食糧在庫が逼迫してた状況に物資が届いて街全体が君たちに感謝してると領主からの言付けだ。是非、これからも君たちに物資の輸送をお願いしたいと言ってきた。俺からも是非おねがいしたい」

「その話は実はもうディアナとヴィクから少し聞いてたし問題ない。ディアナはまあ、俺の……婚約者なわけだが。今後あいつの群れも同じあの砦のあたりに居住することになる。だから、こっちの頼みはまた家を増やして欲しいって話だ。……ついでに今回は俺の家も欲しい」


 あれ?

 バッカスの口調がなんだかいつもより歯切れ悪いというか、あれは……照れてる?


「なんだ、ディアナとより戻すのか」


 私もちょっとは思ってたけど、黒猫君!

 言葉を選ばずに突っ込んだ黒猫君にバッカスが「うるせえっ」って怒鳴り返した。

 それを笑顔で見てたキールさんが立ち上がり、バッカスに手を差し出す。


「分かった、受け合おう。これからもお互いにいい関係を続けられると嬉しい」


 バッカスも笑顔でその手をとって硬い握手を交わして返した。


「ああ、まだ暫くディアナは北の砦に残ってるが、こちらに合流したら一度あんたの顔を見に来るとさ」

「その時は歓待させてもらおう」


 折角二人がわだかまりなく握手したのに、黒猫君がニヤニヤ笑いながら口をはさむ。


「あーキール、一応背中には気をつけたほうがいいかもな」


 それに片眉を上げたキールさんに、慌てて私が説明を付け足した。


「最初に会った時、ディアナさんもキールさんが北の砦の捕虜の首謀者だって思ってたんです、だから……」

「俺達と遭遇してなけりゃ、ナンシーに直接乗り込むつもりだったらしいぞ」


 私たちの説明を聞いたキールさんが破顔して言い放つ。


「ならばなおさらしっかり歓待させてもらわねばな」

「狼人族の皆さんにはウイスキーの街もお世話になってますし、是非あちらでまた祭りに呼びたいといってました」


 それまで黙って話を聞いていたテリースさんも、笑顔でそう付け足した。


「じゃあ俺はひとっ走り自分の群れに戻ってくる。明日の昼過ぎには戻ってくる予定だ」

「分かった」

「皆さんにもよろしくね」


 そのまま出ていこうとするバッカスにテリースさんが慌てて声をかける。


「ああ、砦まで行くのでしたらついでにこれをウイスキーの街にいるパットまで届けていただけませんか」


 そう言ってテリースさんが腰につけていた袋から小袋を取り出す。


「なんだ、普通に定期便で出せばいいんじゃないのか?……まて」


 文句を言いつつも、なんか当たり前のように小袋を受け取ったバッカスが、袋の中身を確認して眉を上げる。中から出てきたのは金貨だった。


「陛下から白ウイスキーの借金返済用に頂いたんですが、貴方くらい強い方でないとお願い出来ないんですよ」


 驚いてるバッカスに、テリースさんがとてもいい笑顔で付け加える。


「俺をそんなに信用していいのか」

「貴方を信用しないで一体誰を信用するんですか」


 一点の曇りもない顔で返したテリースさんに、バッカスが破顔した。


「仕方ねえな」


 気のせいか、さっき以上に機嫌良さげに袋を自分の腰袋に入れたバッカスが意気揚々と部屋を出ていった。


 なんだか当たり前みたいにテリースさんのお使い引き受けてるけど、バッカス気がついてるかな。

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お読みいただきありがとうございました。
登場人物をまとめてみました:登場人物
その他の情報は必要に応じて追加していきます
魔術師階級他
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