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異世界で黒猫君とマッタリ行きたい  作者: こみあ
第12章 北の砦
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16 ドンさんのお話

「すまんねぇ、人に会うのが久しぶりで失敗、失敗」


 煙を吐きながら朗らかにそう言って、さっきのドワーフさんが笑ってる。

 あの後、普通に話し始めたドワーフさんのおかげで話し合いは格段にスムーズに進んだ。

 あの苦労は一体なんだったんだって黒猫君が嘆いてたけど、まさかあれが普通じゃないなんて分からなかったんだししょうがない。


「じゃあ、さっきのも別に俺たちを馬鹿にしてた訳じゃなかったんだな」


 黒猫君の嫌味の交じる口調を別段気にした様子もなく、ドワーフさんが気安く答えてくれる。


「イヤぁ、まさか『勇敢なドン』の言葉が通じるとは思わなくてのぉ、つい『ドン』から離れすぎちまった。煙草で一箇所に集めて貰わにゃぁマズいところだったのぉ」

「出会い頭の煙草にはそんな効果もあったんですね!」


 あ、ジョシュさんがなんかしきりに感心してる。ジョシュさん、幻獣図鑑とか読んでるくらいだから生き物の観察とか好きなのかな。


「で、この皆さんが全部、『ドン』さんなんですよね」


 やっと状況に追いついてきたタンさんが、目の前に円を描いて座ってるドワーフさんたち十人を見回してそう確認してるけど、本当にこれには驚きだ。


「ああ」

「その通り」

「ワシも」

「ワシだし」

「ワシだし」

「ワシも」

「ワシも」

「ワシだって」

「ドンだなぁ」

「ドンだよぉ」


 私たちと話してた最初のドンさんから右周りに、残りの九匹のドンさんたちも順番に返事してくれる。


「『ドン』は『ドン』たちから離れすぎると頭が動かなくなってしまうからなぁ」


 ドンさんによれば、ドワーフは十匹でやっと一人前なのだそうだ。この『一人前』って言うのが比喩でもなんでもなく事実らしく。

 つまり、さっきまで会話に苦労してたドワーフさんと、その他の一緒に座ってるドワーフさんたちは、十人…じゃなかった十匹一緒で一人の『ドン』さんと言うドワーフさんなんだそうで……


「それで一人でも離れちまうとさっきみたいにまともに話せなくなると」


 黒猫君がまだ不機嫌気味に尋ねると、プカーっと煙草を吐いた最初のドンさんがまた返事してくれる。


「そぅいうことだぁな」

「離れちまうとな、こう頭がぼーっとしてだなぁ」

「なんとなくしか考えられん」


 どういう原理なのかは謎だけど、どうもドワーフさんたちは十匹一緒にいないと思考が成立しないらしい。一人でも欠けちゃうとまともな会話もできなくなっちゃうみたい。

 ところがさっき私たちが現れたとき、九匹は近づくのを躊躇ったのに『勇敢な』一匹だけが前に出ちゃったのだそうだ。


「一旦ばらけたらあんな中途半端な会話しか出来ねえなんて、それかなり不便じゃねえの?」


 黒猫君が尋ねると、ドンさんが不思議そうに尋ね返す。


「誰かに話しかけもしないのに、なんで会話するんだ?」

「お前さんは自分自身に向かって、そんなきっちり話しかけてるんかぁ?」


 目の前に座ってるニ匹のドワーフさんが代わる代わる答えてくれる。

 これ、ちょっと混乱しそうなんだけど……


「あー、あんたらにとってはそーいう感覚なのか……」

「え、黒猫君、今の分かるの?」

「要は、俺らだけ理解できたあの喋り方はこいつらの脳内会議みたいなもんってことだろ?」


 黒猫君の解釈が正しかったのか、ドンさんたちがウンウン頷いてる。体全体で。


「大体、普通は話せるもんじゃないしのお」

「だから普段ならすぐ残りのドンのところに戻るのにのぉ」

「なぜかあんたらがワシ、『勇気あるドン』の言ってること分かってるみたいで面白くてのぅ」

「つい興味本意でそのまま話してみとったんだぁ」


 そっか、あれは心の中で考えまとめてるような状態だったのかな?

 それが一部とはいえ、会話になって聞こえちゃってたって、私たちのほうがおかしいのかも……


 因みに今こうして私たちと話をしてる間も、ドワーフさんたちはさっき煙草を詰めてもらったパイプを順番に手渡して、代わる代わる嬉しそうに吸ってる。森の中、輪になって座ってる毛玉の集団が、次々煙の輪をプカプカ浮かべてくのはなんとも不思議な光景だ。なんか即席のちっちゃな工場みたい。

 ドンさんによると、ここにいる600匹、つまり60人のドワーフさんたちは全員、元々ここに住んでたドワーフさんたちらしい。つまり、おじさんが気にかけてたドワーフさんたちってことだよね。


「そんで、あんたらは兵士……って訳じゃないよな?」


 みんなに煙草が行き渡って、それぞれ少し落ち着いたところで黒猫君が本題を切り出した。


「そんな物騒な奴はドワーフにはおらんよ」

「じゃあ、あんたが抱えてるそのハンマーも……」

「これか?」

「これは商売道具だなぁ」


 また二人のドンさんが代わるがわる答えてくれた。それを聞いた黒猫君が目に見えて疲れた顔になって、ため息つきつつ言葉を続ける。


「じゃあなんでこんな大人数で森に隠れてるんだ?」


 黒猫君の問いかけに、ドンさんは相変わらず素直に返事を返す。


「さっきも言っただろう、あの鉱山はもうダメなんだよ」

「だから俺たちも言っただろう、もうあそこを掘る気はないから安心しろって」

「それだけじゃぁ」

「手遅れなんだなぁ」


 黒猫君の返事を聞いてもなお、ドンさんの返事はなにか素っ気ない。


「もっと俺たちにもわかるように説明してくれ」


 黒猫君が僅かに苛立ちを込めて尋ねると、ドンさんは「仕方ないのぉ」と深く煙草を吸い込んで、大きな煙の雲を一つ吐き出してから、ポツポツと話し始めた。


「ワシらドワーフはずっとここの人間と上手に一緒に住んでたんだけどなぁ」

「あれは寒い冬二回分くらい前だったなぁ」

「知らん人間がちょくちょく顔を見せ始めてなぁ」

「そんな前から中央の奴ら来てたのか?」


 黒猫君が眉を上げて口を挟んだ。多分それってさっきタンさんが言ってた先行隊の人たちのことかな?

 黒猫君も同じことを考えたのかタンさんを見るけど、タンさんは首を振ってる。


「僕はそこまで前のことは知りません。ただ、到着時に会った大工連中はそれほど長くここにいたようではなかったんですが」

「仕方ねえ、それはまた後でここの街に元々住んでた連中に聞くしかねえか。ドン先を続けてくれ」


 黒猫君がちょっと首を傾げつつ、ドンさんに先を促した。


「この前の冬の雪が溶けた頃、『知らん人間』がいっぱいに増えてな。ドンたちの話も聞かんで鉱山を掘り下げ始めよった」

「……それは石炭、って分かんねえか、黒くて燃える石の為か?」

「ああ。ここは確かに黒い石もあるんだがな、すごく深いんだぁよ。しかも地下の水溜まりに近いから、掘っちゃいかんのだけどねぇ。あの『知らん人間』たち、ワシらが掘らないと言っても自分たちで掘り返し始めおった」


 プカーっと煙を吐くたびに、気のせいかドンさんがどんどん沈んでく。


「とは言え、ほんとに掘りにくい場所だからなぁ」

「そんな掘れる者もいないだろうし、そのうちいなくなると思ってなぁ」

「ちょっと北に行って待ってたんだけどぉな」

「ドンが三人替わっても、まだ帰らん」


 ん?

 今なんか変なこと言った気がするんだけど、私が聞き返すより先に話が進んでく。


「あんな適当に掘っておったら、プルプルどもが集まるのになぁ」

「その上、いつの間にかオークは沢山おるわ、沢山死ぬわ、川に落ちるわ」

「だからプルプルめ、ワーしおったぁ」


 あー、途中まではすごく分かりやすかったのに、プルプルとワーはそのままだった。

 黒猫君も意味が分からなかったらしく改めて聞き返す。


「その『プルプル』ってのはなんなんだ一体?」

「プルプルはプルプル、ほら、いるじゃろ、プルプル」

「プルプルじゃ分かんねえよ!」


 とうとう黒猫君がプチ切れて思わず叫んだ。でもすぐに私を抱えてたのを思い出したらしく、ぐっと声のトーンを戻してもう一度尋ねる。


「ちゃんと俺たちにも理解できる言葉で説明してくれ」


 普段から我慢が苦手な黒猫君、今日はそれでもかなり我慢してるの知ってる。


「察しが悪いな黒い猫さんよ、じゃあちょっとついて来い」


 なのにドワーフさん、黒猫君にサラッと文句言って立ち上がった。途端、残りの九匹も一緒に立ち上がる。

 うわ、黒猫君の尻尾が地面バシバシ打ってる!

 今にもキレそう……。

 思わず黒猫君の袖を引っ張ると、チラッと私の顔を見た黒猫君、直ぐにグッと口をへの字にして私から視線をそらした。

 偉いよ黒猫君。

 後ろも振り返らずヒョッコヒョッコと一列になって歩く十匹のドワーフさんたちを先頭に、私たちは結局また今来た道をとぼとぼと戻り始めた。

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お読みいただきありがとうございました。
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その他の情報は必要に応じて追加していきます
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