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異世界で黒猫君とマッタリ行きたい  作者: こみあ
第12章 北の砦
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14 遭遇

「そうですね、僕たちが出兵した頃にはもう王都は結構ひどい状態でしたよ。僕はまあヒラ兵士でしたんで、雑用が主な仕事でしたから、街中もしょっちゅう走り回ってたんで色々みてました」


 ドワーフさんたちがいるのは鉱山の口が開いてる切り立った崖の上、要は私たちはグルっと砦を回って裏山を登らなきゃいけないわけで。無論私は黒猫君に抱えられてるだけだけど、行き着くのには結構時間がかかるみたいだった。

 ジョシュさんたちも健脚だけど、バッカスや黒猫君みたいにバンバン山のなか飛び回るって訳にはいかないし。

 道がてらタンさんのお話を聞いてるんだけど、思いがけず、中央のお話がいっぱい聞けた。

 タンさんは元々王都警備隊の兵士さんなんだそうだ。だけど、王都の兵士さんたちは基本親と同じ仕事しかできないらしくて、タンさんみたいに元移民の家族はずっとヒラ兵士なんだそうだ。

 タンさんの肌の色について聞いたら、南ザイオンよりもっと南の方の種族はみんな肌の色が褐色なんだって教えてくれた。タンさんのおじいさんもやっぱり南のほうの出身で、ずっと旅商人をしてた人たちの一人だったらしい。それが街の女性と結婚して、王都の住人になったんだそうだ。その時の条件が兵役で、それから兵士さんの家系になったんだそう。


「移民はどうしても立場が弱いんですよ。特に北ザイオンは白や黄色の肌が普通ですからね」


 そう言ってなんかしょんぼりしてるのを聞いて黒猫君がまたなんか考え込んでた。



「でもタンさん、少尉さんでしたよね?」


 少尉って平兵士なのかな?

 軍の肩書なんてまるで分からないから聞いたんだけど、タンさんがちょっと戸惑い気味に返事をくれた。

「いえ、『少尉』ってのはここに到着してからつけられた肩書です。兵舎内の力関係を保つのに必死だったジェームズが勝手につけたので有効なのかも怪しいんですけどね」


 そう言って肩を竦めるタンさんに、黒猫君が笑って「心配すんな、俺の『少佐』ってのも同じようなもんだ」って肩叩いてるけど。

 キールさんから直々に拝命された黒猫君は同じじゃないと思うよ。


「ほんの数年前までは本当に景気がよくて、僕の副業でさえ月々使い切れないほど金が溜まってたんですけどね」


 でも黒猫君のそんな態度に気が緩んだのか、タンさんがはぁ、っとため息一つ、独り言のように吐き出した。


「どんな副業やってたんだ?」

「商家の公証人です。まあ、一応兵士って肩書きもありますし、公証人の資格は取りやすかったんですよ。とはいえ、僕の資格でできたのはそれほど規模の大きくない取引だけでしたから、気軽に呼び出されたら商談に付き添って、契約書を確認してサインするだけの美味しい仕事でしたよ」


 そう言ったタンさん、なんか悪い顔してる。黒猫君は黒猫君でニヤリと笑って「美味いなそれは」とか言ってるし。


「ですが、一昨年の暮れの頃から取引数自体が一気に減っちゃいまして」


 「なんかバブルっぽいな」とか黒猫君が言ってる。バブルかぁ。泡だよね?


「まあ、僕の家族は祖父の教えで貯蓄は必ず貴金属にしていたので、それを金に変えて暫くはまだ凌いでたんですけど、今年の始め頃にはもう、市場に出るパンでさえ高すぎてなかなか買えなくて。仕方なく、この北への遠征に志願しちゃったんですよ。北に行けば僕の食い扶持が減る分、家族も楽になりますし、ナンシーは北の食料庫っていうくらいですから食うには困らないだろうって思ってたんですけどね。まさかもっと北のこんな僻地まで送られるとは思ってもみなく──」


 そう言って情けなさそうに肩を竦めたタンさんは、前方を指差して静かにっと声をかけてきたジョシュさんの一言でプツリと言葉を切った。

 でも、ジョシュさんが指差した先には別段変わったものはなにも見つけられない。なのに黒猫君とバッカスは小声で「あれか!」とか言い合ってる。

 え、待って、見えてないの私だけ?


「確かに結構いるな……あそこに全部いるのか?」

「いえ、もっと後ろのほうまで結構広がってます。大回りして最後方は確かめました。多分六百匹……じゃなかった六百人くらいじゃないかと」


 ジョシュさんが小声でそう黒猫君に答えると、一瞬思案した黒猫君は私を抱え直して指示を出し始める。


「まずは俺とバッカスで行ってくる。あゆみ連れてくから最悪戦闘になったらバッカス後ろを頼むぞ」

「ああ分かってる。なんか起きたらとにかく逃げろ」


 私抜きで私の行動は勝手に決められてるけど仕方ない。だって、杖じゃこの森の中はちょっと歩けない。下草が黒猫君の膝上くらいまできてるし、木はぼうぼうだし。黒猫君たちは上手に避けて歩いてるけど、結構足元に段差もあるみたい。

 私は大人しく、荷物役に徹することにした。


「ジョシュとタンは少し後ろに下がってろ」


 黒猫君の指示で、タンさんたちがなんとかギリギリ見えるか見えないかって所まで下がってく。

 それを確認して、私を抱えた黒猫君とバッカスがまっすぐ前に向かって歩き出した。

 黒猫君たちが十歩くらい歩いたところで、地面がガサゴソ動いて、やっと私にも黒猫君たちが言ってたのが分かった。

 それは確かにモフモフだった。けどなんか違う。バサバサって言うべき?

 ジョシュさんの言ってたのがよくわかる。

 下草に紛れて、草の冠を頭に乗っけた丸っこい茶色の毛の塊が十個くらいつつ、身を寄せ合って固まってる。ただ毛足がかなり長くて、お手入れが悪くてボサボサしてるから、モフモフなのにバサバサなのだ。

 これはちょっとモフるのイヤかも。

 よく目を凝らして見ると、下草の隙間から、鈍く光る鎧とか鎖とか、色々チラチラ見えてきた。

 だけど、それ以外は本当に大っきな毛玉。

 手は? 目は? 足はどこ?


「あー、ちょっと話したいんだが、いいか?」


 黒猫君が思い切って声をかけた瞬間、ガサゴソ動いてた集団がピタッとその動きを止めた。

 っと思ったら、ブワっと蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げ出した。


「あ、待て、待ってくれ、ちょっと話を━━」


 黒猫君が慌てて声をかけるけど、動き出した集団は5メートルくらい一気に下がっちゃって、その辺りでまたガサゴソしてる。

 うん。確かにこれは可愛いけど怖い。


「どうすっかなこれ」

「お前が考えろよ、多分俺がやったらもっと逃げるぞあれ」


 バッカスはもう興味を失ったらしく、そう言って座り込む。途端、ガサゴソが一瞬止んだ。

 ん、これもしかして。


「黒猫君、黒猫君もしゃがんでみて」


 私がそう囁くと、黒猫君、一瞬困ってから私を抱えたまま器用にスクワットしてしゃがみ込む。

 あ、やっぱり。ドワーフさんたち、多分大きい生き物が苦手なのかな。

 さっきまでのガサゴソが、もっとなんかガサガサ、ガサガサって動くように変わって、そのまま暫く待ってると、1匹がちょっとずつこっちに近づいてきた。

 近づいて見ても、その姿は鎧を付けたおっきな毛玉。なんというか、かの有名な宇宙SF映画でウォーって鳴いてた獣人キャラを縮めたみたいな。ボサボサしてなかったら茶色いマルチーズっぽいかも?

 でもそれに反して身に着けてるのは、丸い盾みたいな鎧。鈍銀色の金属製で、表面が綺麗なカーブでドワーフさんの体にフィットしてる。

 その見える部分全部なんかすっごく繊細な幾何学模様で埋め尽くされてて、私的にはなんか懐かしいような、なんだっけこれ?

 手に持ってるのは身長よりも長い柄の付いたおっきなハンマー。手が見えないのに毛玉がそれをしっかり支えてピョンピョン跳ねるように歩いてくる仕草はなんともシュール。


「オーク、ナイ?」


 ちっちゃな声で、でも確かにその近づいてきた毛玉さんが尋ねてくる。


「オーク? ああ、ここにはいねーぞ」

「おいネロ、お前何やってんだよ?」


 黒猫君が、脅かさないように静かな声で答えると、なぜかバッカスが笑って黒猫君を肘でつついてる。


「え、何って」

「オーカミ? ネコ? ヒト?」


 黒猫君がバッカスに返事しようとしたら、また毛玉さんがちっさい声で、でもハッキリと問い返してきた。


「狼、猫に人か? ああ、そんなもんだな」

「だからネロ、お前何やってんだって」


 黒猫君が静かに答えると、バッカスがまたニヤニヤしながら黒猫君をつついて。


「何って、答えてるだけだろ、コイツに」

「は? 答えてるってお前……」


 ふと、バッカスが真顔になって黒猫君を見つめ、そして言ったのだ。


「お前、さっきっからキュウキュウ鳴いて(・・・・・・・・・)るだけじゃねーか」

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お読みいただきありがとうございました。
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