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異世界で黒猫君とマッタリ行きたい  作者: こみあ
第12章 北の砦
343/406

3 犠牲者1

「なんだ、相談ってのは」


 橋を渡ってきたディーンさんたちを睨みながら、黒猫君が問いただす。

 アルディさんも抜き身の長剣を地面についたまま彼らを見てた。


 昨日は山積みになってたオークの死体も、アルディさんと兵士さんたちが片づけてくれて、橋の辺りだけは結構綺麗になってる。

 ただ、その橋の脇に迫る森の入り口には昨日死んじゃった二人の兵士さんと、オークの死体に混じってたマークさん、そして他にも何体か一緒に出てきた砦の兵士さんたちのお墓が一列に並んでた。

 黒猫君の説明だと、やっぱり中には傀儡にされちゃってた兵士さんたちがいるみたい。目の悪い……じゃない普通な私には見えなかったけど、バッカスや黒猫君には彼らがオークに担がれて橋を渡ってこようとしてたのが見えてたらしい。そして、傀儡はオークの中にもいっぱいいて、それが皆、私の生者しか通さない結界石で死んじゃったんだよね……

 分かってる。皆もうすでにその時には一度死んでたんだって。

 だけど、やっぱり自分の作ったもので人や生き物が死ぬのは凄く苦しくて辛い。


「ま、まずは本営に行きませんか?」


 焦った声で後ろを気にしながらディーンさんが言うのを見て、黒猫君とアルディさんが警戒を増す。


「なんだ、一体何が砦であったんだ?」


 今度は冗談の混じらない詰問口調で黒猫君が尋ねると、ディーンさんが諦めたように嘆息して説明を始めた。


「昨日、ネロ殿があの話し合いの場をあとにされてからも、我々は引き続きジェームズを問いただしていました。ところがその途中、マークと数人の兵士が突如立ち上がり、我々の静止を無視して森を西へ向かう道へ消えました」


 そこでチロリと太っちょのニックさんを横目に見て先を続ける。


「ニックがいつもの食料調達だろう、というのでそのままにしたのですが、それからすぐに大量のオークが押し寄せ、仕方なく一旦交渉を切り上げて砦に飛び込んだのです」

「大方、マークがオークを解き放ちに行ったんだろう」


 黒猫君が肩をすくめて答えると、ディーンさんがムッとして黒猫君を見返した。


「何を根拠にそのようなことを?」


 自分の元部下のことだからか、激昂した様子のディーンさんを諭すようにアルディさんが口を挟む。


「昨日、こちらに押し寄せたオークの大群に交じって、王国軍の制服を着た兵士の姿が確認されていました。その後、この一帯を片付ける際にマーク少佐を含む兵士たちの遺体を確認しています」

「そ、そんな……今彼らはどこに?」


 さっきまでの苦虫を潰したような顔を今度は青ざめさせて、ディーンさんが周りを見回しながら早口に尋ねると、アルディさんがさっきのお墓を指さしながら説明した。


「ひどい状態でしたから、彼らの遺体は全てこちらで確認して昨日のうちに埋葬しました」

「そ、そうですか」


 お墓を見てなぜか少しホッとした様子を見せたディーンさんは、再度こちらに向き直って改めて話を続ける。


「すぐにオークの大群によるスタンピードが始まり、我々は皆様の安否を心配しつつ、砦の中でいつでも出撃できるよう準備してたんですが」

「よく言うな、どうせ中で震えてたんだろ」


 後ろにいたバッカスが歯に衣も着せないでぼそりと呟くと、ディーンさんがムッとしながら言い返す。


「いえ、我々は全員この通り装備万端で、スタンピードの最後尾から挟み撃ちにしようと砦を出るタイミングを計ってました。ところが、なぜか大量のオークが橋のふもとで倒れ、橋が目詰まりを起こし、最終的には橋自体が落ちてしまい、仕方なく様子見をしていたのです」


 バッカスはまだ「ケッ、よく言うぜ」と後ろでせせら笑ってるけど、黒猫君が手を振って「いいから先を続けろ」と促した。


「じゃあ、あんたらももうオークがほとんど残ってないのは見てたんだな」

「はい、ただ橋も落ちてしまいましたし、まだ数頭のオークがウロチョロしていましたから、夜襲に備えて朝を待ってこちらに渡る手段を探そうと思ってました。ところが……」


 そこで、今まで一言もしゃべらなかったジェームズさんがガタガタと震え出し、怯えた様子で独り言のような言葉を紡ぎ始めた。


「あいつら、なんであいつらあんなことを……俺を誰だと思ってるんだ、俺を、俺を、俺を!」


 独り言がだんだん大きくなって、今にも喚きだしそうなのを見て取ったディーンさんが、困った顔で後ろを振り返る。


「カーティス、悪いがまた沈静魔法を頼む」

「全く世話の焼ける」


 ディーンさんに呼ばれて出てきたのは、一昨日私が治療を手伝った白髪のおじさん。カーティスさんって言うのか。今まで名前もしらなかったんだよね、そう言えば。


「そいつは?」

「彼はカーティス、我々に付き従ってきた治療師です。元々は教会の医療業務を担当されてるのですが、今回は特別ヨーク侯の申し出でお手伝いに来ていただいています」


 『教会』って言葉が出た途端、黒猫君とアルディさんが一気に殺気立った。


「あ、待って黒猫君、私昨日カーティスさんと一緒にずっと治療やってたの。多分大丈夫だと思う」


 だって、カーティスさん、片足の私相手にも、獣人のベンさん相手にも態度変わらなかったし、治療もしっかりしてたし。


「お前、一体何を根拠にそんなこと言ってるのか知らねえが、教会は教会だろ」


 それでも黒猫君は疑い深そうにカーティスさんを見てる。そんな私たちの様子を伺いながら沈静魔法を終わらせたカーティスさんが、フンッと鼻を鳴らしてこちらをにらんだ。


「別に君らにどう思われようが私には関係ないがね。あの方からもし、猫耳の男に会ったらこれを渡すようにと預かってきているものがある」


 そう言ってカーティスさんがローブの中から取り出したのは小さく折りたたまれた紙。それを受け取った黒猫君の顔が一瞬引きつった。それでも気を取り直して広げると、その真ん中には短い一文が綺麗な筆跡で書かれてた。


『我々の敬愛を込めて彼を送ります。タカシ☆彡』


「ご、ゴメン、キールさんからそのマークが凄く偉い人のマークだとは聞いてるけど、これどう見ても……」

「笑うなって」


 無理。だってその教会のとっても偉い人のマークだって言う白星と三本線って、それ流れ星にしか見えないし。最後のサイン以外は達筆な縦書きで、極めつけは紙の折り方がハート型になってて凄く可愛いの。これ、もうラブレターにしか見えないよ。


「フ、フフ、アハ」

「やめろ、ってプッ」


 黒猫君だって笑ってるじゃん。

 そんな私たちの様子をカーティスさんが少し驚いた顔で見返しながら先を続けた。


「前もってあの方に言われてはいましたが。あなた方はこの古代文字も読めているようですね」


 私たちが笑ってるのに、カーティスさんの口調は少なからず改まってる。

 え? 古代文字?


「え、これ普通に書いてあるだけ……」

「いえ、私には達筆過ぎて読めませんよ」


 アルディさんがひょいっと黒猫君の肩越しに覗き込むと分からないって顔で黒猫君と私を見返してきた。


「古代文字は元々初代王が創られた書体です。薬学や医学、神学を学ぶ者にとっては古い文献を読むのに必要だから学ぶ者も稀にいます。癖がきついので慣れてないものにはまず読めないものです」


 私たちの会話にカーティスさんが付け加えてくれた。それを聞いた黒猫君がハッとした顔で私を見る。


「……もしかして、これ最初から日本語で書かれてるんじゃねえか」

「あ、そっか。今まで文字は勝手に日本語になって見えてたけど、たまに英語も混じってたし、全部横書きだったもんね」


 そっか、やっぱりここって違う言葉が使われてるのか。


「じゃあこれも一種のチートってこと?」

「だろうな。まあ本当にありがたいチートだな。これなかったら俺たち最初っから詰んでただろ」

「そ、そうだね。黒猫君なんか猫だったし、あ、まさか黒猫君ももしかして実は猫語喋ってるとか?」

「んなわけあるか! ちゃんと猫の声も出せてただろうが!」


 ああ、そう言えばそうだった。あれっきり聞かせてくれないけど。

 私と黒猫君がバカなやり取りしてる間も、カーティスさんはやけに神妙な面持ちでこちらを見てる。

 あ、なんか嫌な予感……


「驚きました。あなた方が猫神と巫女と言う話はどうやら事実のようですね」


 やっぱり出た! さっきまでの不遜な態度がすっかり消えちゃって、なんだかカーティスさんの目が嫌な色に輝きだしてる。


「そんなのデマだ。周りがそう言ってるだけで俺たちはキールんとこの使いっ走り──」

「まあ、それなりの実績も出来てきちゃってますし、そろそろ認めたらいかがですか?」


 あ、アルディさんが裏切った。黒猫君が頭ガシガシ掻きながら「いやだー!」って叫んでる。

 もう、正直私はどっちでもいいや。確かにこの世界で私たちの存在はかなり異質みたいだし、黒猫君の固有魔法なんてかなりヤバいし。


「まあ、もうそれはどっちでもよくないですか? まずはディーンさんのお話を聞きましょうよ」


 なんか面倒くさくなって私がそう言うと、ふっと皆が口を噤んだ。黒猫君が「お前、たまに図太いよな」とか言うのを睨みつつ先を続ける。


「なんかね、もうそれ否定するだけ無駄になってきてるし、別に誰がどう私たちを呼んだって、アルディさんたちとかキールさんとかは別に変らないんだからいいじゃん」

「……ああ、そうだな」


 私の答えを聞いた黒猫君が、一瞬真顔で私を見てからニカっと笑って頷いた。

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お読みいただきありがとうございました。
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