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異世界で黒猫君とマッタリ行きたい  作者: こみあ
第11章 北の森
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47 報告会8:救出

『あゆみ、本当に大丈夫なんだろうな』


 砦に向かう前、ネロの指示通りあゆみに檻の説明をして何かいい案がないか聞いたところ、あゆみが笑顔で答えた作戦はマジ聞きたくもないものだった。


『言ったでしょ。その作りで子供に雷が落ちちゃったのは、多分皆の声が聞こえた子供たちが檻に寄ってきて檻に掴まっちゃったからだよ。だから真ん中に寄って檻から離れてれば大丈夫なはず』

『いや、それは分かったけどな、そうじゃなくて俺のほうだ』

『え、だってバッカスもう一度やってるじゃん』

『あー、だがあれは人間が相手だったぞ。あの杖じゃない』

『原理は同じだって。多分届く範囲に近づくと自動的に出るように出来てるんだと思うよ。どうなってるのか知りたいから是非一本持って帰ってきてね』

『お前、よくそんなこと言えるな』


 教会の襲撃の時にも確かに似たようなことはやった。だが、あれはネロに特訓されて装備万端でやったはずだ。こんな俄か仕立てで俺一人でやったわけじゃねえ。そんな俺の気なんて知らずにあゆみが暢気に続けた。


『色々持ってきててよかったね。黒猫君、バッカスの話から予想してたのかな。私の包弾(改)は駄目だって言ってたのに、鉄棒とか手袋は全部荷物に入ってたし。これさえあれば問題ないじゃん』

『いや、あのな、雷は別に痺れるから嫌なだけじゃなくてだな』

『え、まさかバッカス、雷の音が怖いの? それとも光?』

『こ、怖いわけじゃねえ!』

『そうだよね。だってこの前黒猫君の固有魔法が暴走した時もバッカスちゃんと走れてたもんね』

『ま、まあな』


 こいつ、どこまで分かっててこんなこと言ってくるんだ?

 さっきからあゆみはニコニコ顔で自信たっぷりに答えてきやがる。もしこれがわざとだったら、下手したらネロよりひでえよな。


『じゃあ、あの鉄棒でちゃんと頑張ってきてね。手袋も忘れないで。鎧もまだあの時の効果が残ってるはずだから大丈夫。人間の作った檻なら間違いなくどっかに開けられる場所があるから、焦らないでじっくり観察してね──』


 そう自信たっぷりに言われちゃ俺だって出来ねえとは言えねぇ。ディアナにもネロがコイツなら大丈夫だとか言っちまったから怖い素振りなんかできやしねえ。だがミエと現実は必ずしも一致しねえ……

 俺は震えそうになる足を無理やり動かしてジリジリと檻へと近寄った。


 ─── ジッ! ジジジジジジジジジジジジジジジジジッ!


 と、ある一点を過ぎた途端、やっぱり杖が反応した。思いっきり前に突き出してた鉄棒に真っすぐに稲妻が走り、そして走り続ける。だが思ったほど音はなく、代わりに耳障りな高音が響き続けた。

 砦に気づかれるんじゃねえかと冷や冷やしたが、思ってた以上に光も音も小さい。

 待てよ、これ、なんか弱くねえか?

 そう思って……後ろを振り返るとディアナが震えながらその場に凍り付いちまってた。違うぞこれ、単に俺が慣れちまっただけらしい。

 そこで一気に今までの出来事が脳裏を駆け巡った。

 考えてみりゃあゆみにはスゲーくだらない理由で何度も電撃の直撃を落とされてきた。ネロに至っちゃ俺の特訓に限って信じられねえデカいの撃ってきやがってた。教会の連中の雷も大きさは大して違わねえが、人間が飛ばしてたからいつどこから来るか予想もつかなかった。

 そんでトドメがこの前のネロの固有魔法だ。二度目とは言え一瞬ゴロゴロ鳴り出した時は身が(すく)んじまったが、あのあゆみとネロとアントニー、全員動けねえ状態じゃあ俺が動くしかなくなっちまってた。なんのかんの言って俺、すっかり雷に慣らされちまってたのか……


「ハッ! この程度の雷で俺様がビビるかよ!」


 はっきりと声に出して言えば余計余裕ができた。さっきから後ろでディアナが驚きに目を剥いてるのもかなり気分がいい。ガキどもも揃って賞賛を目に湛えて俺のほうをジッと見上げてる。それでもちゃんと言いつけ通り、檻の真ん中あたりで抱き合って固まってるガキどもにはなんも影響がないらしい。

 それを確認した俺は、あゆみに言われてた通り、鉄棒の下で地面を引きずりながらジリジリと前進した。一番手近な一本目の杖のすぐ目の前で、手の中の鉄棒を傾けて木の杖の天辺についてる魔晶石にそっとくっつけた。


「うをおおお!」


 途端、パリーンっていい音たてて魔晶石が砕け散った。だけじゃなく、今度こそスゲー量の雷がバリバリ音をたてながら鉄棒を流れ落ちる。手袋のお陰で痺れはこねえが、予想外の衝撃に情けねえ声が漏れて尻尾が真っすぐ立っちまった。


『多分ね、接地させちゃったら壊れちゃうんじゃないかって思うんだ、その杖。だって他の魔晶石はこっちでももっとコンパクトな形になってるのにわざわざ杖にしてるんだもん、きっとそうだよ』


 あゆみが言ってた原理とやらは全然分かんねーが、どうやらあいつの予想は正しかったらしい。手の中の鉄棒の震えとデケエ雷のような音を除けばだが。あゆみの野郎、説明しとけ!

 ビビったのを誤魔化そうと俺が引き攣った笑顔でディアナを振り返ったのと、ディアナが「気を付けろ!」と叫びながらもう一本の杖を指したのが同時だった。

 バチンってすげえいい音立てて、雷が俺の背中に落ちた。一瞬、その音に心臓ごと飛び上がって身が竦む。

 が、無論どこにも問題なんかねえ。流石あゆみの手を加えた鎧だぜ。すかさず振り返って鉄棒を向ければさっきより一層弱くなった雷が俺の杖にぶつかり始めた。今度もズルズルと近寄ってって魔晶石に鉄棒をくっつけて壊しちまう。二回目はその衝撃にすらビビらずに済んだ。

 知ってりゃ大丈夫なんだよ、こんなもん。知ってりゃな。

 汗だかなんだか目に入ってきた液体を拭いながら落ち着いて周りを見回す。これで檻のこっち側には雷落とす杖がなくなった。あゆみは確か動かせる入り口があるはずだって言ってたよな。それを思い出して檻の真ん中辺りを上下左右に引っ張ったがまるっきり動きゃしねえ。あゆみの奴、話が違うぞ!


「心配すんな、すぐに出してやる」


 俺がモタモタやってるうちにガキどもが心配そうにこっちを見てるのに気づいちまった。俺はディアナみたいに優しい言葉は知らねえから、わざと大きく笑ってガキどもにそう言い放った。そんで考える。まさかここまで来て檻が開けらんねえとか予想外だ。あゆみの奴、スゲー簡単そうなこと言ってなかったか?

 ブツブツ文句を言いつつガシガシと檻を乱暴に揺らしてると、檻の中のガキの一人が恐る恐る口を開いた。


「外。外に向かって開けてた。こっちから」


 そう言って片方の端を指さした。そういやあゆみも焦るなって言ってたな……

 俺は気を落ち着けてガキが指さした辺りをもう一度よく観察する。よく見ると一部檻が二重になってるのに気がついた。黒光りする檻の鉄棒に指を滑らせていくと、二本の鉄棒を括るような留め金が指に当たる。

 だが折角見つけたのにどうなってんのかその留め金はビクとも動かねえ。力任せに引っ張っると、ボリボリと嫌な音を立てて留め金が崩れた。ああ錆びついてたのか。そう言えば川が近いもんな。繰り返し上下に指を走らせて似たような留め金を全部で5個も外すと、檻の扉が勝手に手前に開きやがった。


「うわぁあああ!」

「バッカス凄いぞ!」

「シッ! だから静かにしろって言っただろ!」


 檻の中のガキどもはともかく、ディアナまで一緒になって歓声をあげやがった。それを本気の睨みとドスを効かせた唸り声一発で叱りつけると、ガキどもが怯えてなんとか静かになった。まあ、ディアナみたいにはいかねえよな。俺はガキどもに手を差し伸べて、これ以上怯えさせねえようなるべく静かな声を出す。


「おい、全員狼に戻れ。逃げるぞ」


 ガキは狼の姿のほうが小さいし素早い。俺の声を聞いたガキどもが一斉に狼に戻り始め……そんでなぜか俺に飛びつくようにして乗っかってきた。


「ありがと~」

「オジちゃんありがと~」

「ありがとオジちゃん」


 クソ、俺はオジちゃんなんて呼ばれる歳じゃねえええ!

 だがまた怯えさせるわけにもいかねえし、グッと我慢して怒りを大きなため息とともに空気中に発散した俺は、全身にガキどもをぶら下げてその場を後にした。


「ホントに出来たんだな。見直したぞ」

「いいから戻るぞ」


 俺がガキどもをぶら下げたまま戻ってくると、ディアナが数匹引き取りながら俺にスゲーいい笑顔を向けてきた。

 そのディアナの目にまで変な尊敬が滲んでやがって居心地悪りいったらありゃあしねえ。むずがゆ過ぎて堪らなくなった俺は、ディアナを促してそそくさと農民の宿舎へと向かった。

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