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異世界で黒猫君とマッタリ行きたい  作者: こみあ
第11章 北の森
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41 報告会2:潜入

「え、じゃあ黒猫君はあのドラゴンのこと知ってたの!?」

「あ、あー、まあそうなんだがな。ルディンの奴、話し合ったこと全然守んねえし」


 ため息ながらに説明する。


「本来、ルディンがしばらく上空を旋回し続けて、あの場を混ぜっ返して時間稼ぎする筈だったんだよ。なのに、何を思ったのかすぐにお前らに絡みはじめやがって。しかたねーから慌てて戻ってせめて脅しに使ってやろうとしたのに、砦の前まで来て怖気づきやがるし。お陰で予定外にお前に頼ることになっちまった」


 俺の話を聞くうちに、あゆみの顔が段々険しくなってきた。


「そ、それ、先に私に言ってくれても良かったんじゃないの?」

「ワリい、それはタイミングだ。到着するのはどうしたってあいつが先だったから。だけどお前らだけにはちゃんと説明しろって言っといたのにあのバカ、シモンの言葉に煽られやがって──」

「え、私のせいですか?」


 とぼけた顔でシモンが問い返すが。


「ネロ君、それはもういいですから先を続けてください」


 脱線しそうな俺たちの会話を遮って、アルディが先を促した。





 ──ネロとバッカスの偵察2(黒猫君の回想)──



「じゃあ、合図したらしっかり頼むぞ」


 ルディンに念を押した俺はバッカスとディアナとともに山頂を後にした。バッカスの奴、どうやら今回はディアナを怒らせることなく話せたらしい。以前みたいな変にピリピリした雰囲気もなくなってる。


「本当に大丈夫なのか?」


 まだ疑い深そうなディアナを片目で見ながらバッカスがニヤリと笑う。


「ああ、まあな。全部こいつらのせいだ」


 そう言いつつ、背に乗せた俺を振り上げる。


「あぶねえから止めろ。そろそろ裏に近くなるから話すのもやめだ」


 ルディンのいた山を下り、俺たちはかなり東側から砦の柵が鉱山のある山に接する端に向かった。ディーンの所の二人の話では狼人族はこの鉱山のすぐ横に巣穴を作って過ごしているらしい。


「まずは中に入って狼人族の連中と落ち合う。農民の宿舎も暗くなる前に回りたい」


 俺はもう一度二人に最初の目標を確認して、そのまま無言で目的地まで進んだ。




「いいぞバッカス」


 砦を囲う背の高い丸太の柵は多分10メートルほど。今の俺のジャンプ力なら何とか登れた。

 この場所を選んだのは砦の入り口にある櫓から一番見にくい位置ってのもある。それでも柵の上から素早く中を一瞥した俺は、人気がないのを確認して中に身を躍らせすぐに岩陰に隠れた。砦の中は見渡す限り草一本生えちゃいねえ。岩と地面と大量の土塊だらけだ。ついでに見張りらしき人間も見当たらない。多分あの橋の攻防でほとんどの兵が出払ってるんだろう。

 俺の合図でバッカスも塀を乗り越えてきた。こいつも俺同様に跳躍力は充分あるんだが、なんせ図体がデカいから見つかる可能性が高い。だから俺が先に入って様子を探ってから呼び込んだ。


「あっちだ」


 どうやらバッカスには同族の匂いが分かるらしい。中に入るとすぐに先導して岩陰を伝ってくぼ地へと向かう。そのくぼ地の奥に、背の低い洞穴が見える。するりとその入り口に入り込んで、バッカスが手だけでクイックイッと俺を手招きした。


「誰だ」


 洞穴の奥から静かな声が響いてきた。中は真っ暗だったが、目さえ慣れれ明かりが少なくてもすぐに様子ははっきり見えてくる。こういう時本当に猫の目は便利だ。

 洞穴内はかなり獣臭く、結構奥に向かって続いてる。入り口から徐々に天井が高くなり、その奥は左右にも広く結構なスペースが出来ていた。その横にいくつもの小さな穴が口を開いてるのはそれぞれの巣穴だろうか。

 その小さな穴の一つから、薄汚れた狼人族の男が出てきてこちらを見てる。


「ああ、ニコラス。生きてたか!」

「バ、バッカスか……、お、おまえどうやってここに!」

「話はあとだ、助けに来た。どれくらい生き残ってる?」


 バッカスの端的な質問に、ニコラスと呼ばれた奴が暗い顔になる。


「最初は300人はいたんだがな……かなり減っちまって今は200人ほどだ」


 ため息をつきつつ、力なくその場に座り込む。


「死んじまったのと、それに逃げ出したのと。逃げた奴らはどうなったか分からねえ」

「ああ、ディアナたちなら大丈夫だ。今外に来てる」

「ほ、本当か!?」

「ああ」

「そうか、そうか、それは本当に……」


 ニコラスはバッカスの言葉を聞くとその場で俯いて泣き出しちまった。そんなニコラスに隣に座ったバッカスが問いかける。


「お前らも、なんで逃げ出さなかったんだ?」


 するとニコラスがギロリと目を光らせて表を睨んだ。


「あの兵士ども。俺たちのガキどもを人質にしてやがるんだ」


 睨むその眼光とは裏腹に、その声は泣き出しそうな響きだ。


「なぜ奪いかえさない?」


 バッカスが聞き返すと、ニコラスはその目の光を落として地面を睨む。


「バッカス、お前も覚えてるだろ。あいつらが雷の出る杖で俺たちを追い回したのを。あいつら、子供たちだけ集めてあんときの杖に囲われた檻に閉じ込めやがった。不用意に近づくとこっちが痺れるだけじゃなく、中の子供たちにまで雷が落ちる。中からガキどもの絶叫が聞こえてくるんだ……。俺たちだけなら我慢もする。だけど、あいつらの声は我慢できねえ」


 そこで苦しそうに息を吸いなおし、拳を握りしめてニコラスが続けた。


「ガキども、だけは。あいつらに、だけはマシな食いもん、やってくれるって約束だ」

「あんのハゲとジジイ!」


 バッカスが小さくマークたちを罵った。その気持ちは嫌って程分かる。あいつら、子供を隔離してるとは言ってたが、そんな酷えことしてるとは一言も言ってなかった。

 山頂でバッカスから雷魔法の出せる杖については聞かされてた。以前、なんで簡単に狼人族が捕まえられたのかと思ったが、原因はやっぱりこれだった。


「ガキは……何人くらい残ってる?」


 バッカスの問いかけにニコラスが力なく頭を振る。


「分からねえ。檻はこの砦の一番逆端だ。近づくに近づけねえ。生きてるって信じるしかねえ。もし生きてりゃ全部で十人ほどだ」


 十人か。その数なら保護は楽だな。俺はバッカスと視線を交わして頷きあった。


「農民は……人間はどのくらい残ってるか分かるか?」


 続けて尋ねた俺の質問に、今度はニコラスが不審そうにこちらを睨む。ここに入る前に頭に手拭い巻いて尻尾も隠してるから、こいつには俺自身も人間に見えるんだろう。


「コイツはネロ。俺の仲間だ」


 バッカスがニコラスにそう言うと、ニコラスが驚いた顔で俺とバッカスを見比べる。


「なんだ、あの人間嫌いのバッカスがなんでまた人間と付き合いだしたんだ!?」


 ああ、なんかディアナ経由でベンの所の奴らもそんな事言ってたらしいな。


「バッカス俺その話聞いてないぞ」

「ああ、面倒だから後でな」

「まあいいけどな。それでニコラス、人間のことも分かるのか?」


 俺の再度の問いかけに、ニコラスが今度は申し訳なさそうに顔を曇らせた。


「人間は……俺たちよりよっぽど弱いからな。バタバタ死んじまった。最初にいた奴らの多分3分の1も残ってねえ。多分俺たちの4、5倍ってところか」

「それで合ってんのか」


 バッカスが心配そうに聞いてくるが多分正しい。


「ああ、大体ディーンのとこの奴らが言ってたのと同じくらいだ。」 


 マークっつたか? あのハゲのおっちゃんが把握してたところによると、到着当時、ナンシーから2000人、ヨークから500人が集められてたらしい。それが今生き残ってるのは1000人に満たないという。


「そうなると、あんたらが200人、ディアナんところが50人で250人か。二人づつ乗せて一回に500人。ああ、また往復か」

「いや、もし痩せこけてんだったら4人まではいけるだろ」


 そこではたと思い出した。


「アルディが言ってた連絡用の櫓まで送っちまえば食料もあるだろうしキールの応援も呼べるな」


 俺たち二人がどんどん話を詰めてる最中、ニコラスがぐったりとしつつ尋ねてくる。


「お前ら、まさか俺たちに人間を乗せて走れってんじゃねえよな。バッカス、まさかお前も同意したりしねえだろ」


 ああ、めんどくせえ。今そんな事説得してる時間がもったいねえ。


「あんたらには人間を乗せて逃げてもらう。その代わりガキどもは必ず助け出す」


 ありったけのハッタリで自信たっぷりに宣言してやる。そんな俺と横のバッカスを、ニコラスがなんとも複雑そうな顔で見比べた。

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