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異世界で黒猫君とマッタリ行きたい  作者: こみあ
第11章 北の森
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35 対峙

 あれからずっと治療魔法をかけ続け、ふと気づくと周りは薄っすらと暗くなってきてた。

 もう結構な時間がたったはずなのに、まだ戦闘の音と悲鳴は時々聞こえてる。

 ヴィクさんはテントの中から負傷者を移動するのを手伝ってくれてる。ベンさんは器用なことにその辺の木を切り倒してきては軍が持ってきてた手斧で軽々と加工して、私たちに輪切りの椅子をいくつも作ってくれた。お陰で私も患者もさっきまでよりかなり楽に治療が出来るようになってる。

 ふと、黒猫君がどこに行ったのか気になった。


「ヴィクさん、黒猫君がどこに行ったか知ってる?」

「ああ、ネロ殿は……ヨークの連中と反りが合わないようでね。一旦今夜の食料を集めにバッカスと森に入ってったよ」


 流石ヴィクさん、私よりも周りの様子がちゃんと聞こえてたらしい。

 そっか、黒猫君でもやっぱり今のこの状況は納得いってないんだね。確かに戦いになるかも知れないとは私たちだって思ってたけど、ついて早々話し合いも何もなくすでに戦闘になってるなんていうのは全くの予想外だった。


「ヴィクさん、この戦い……夜も続くのかな?」

「ああ多分な。どうも彼らが思っていた以上に砦にいる兵士に余裕があったらしい。中から逃げ出してきたヨークの連中の話では数時間でここに出てこれる兵がいなくなるはずだったんだけどな」

「それって、じゃあ想定外に長引いてるって事?」

「ああ、そういうことになる」


 それ大丈夫なのだろうか? そうじゃなくても、軽傷の負傷者はあとを絶たない。ありがたいことに重傷の負傷者はそれほど多くないけど。

 どうやら私が手伝うまで、あの白髪のおじさんが独りで重傷の人を診ていたみたい。私の場合、見た目がひどいけがは治せなくても刺さっちゃったとか切れちゃった系は何とかお手伝い出来てる。お陰で少しは作業がはかどったみたいでテントの中の重傷者はあれから増えてない。


 あとやっぱり私の痛覚隔離はノーコンだった。結果から言えばあの白髪のおじさんを含め、テント内の人全員に痛覚隔離がかかってたらしい。白髪のおじさんがナイフで手を傷つけても痛みを感じないことに気づいて、すっ飛んできてみっちり小言を言われてしまった。

 でも文句半分、お礼半分。


「これで治療だけに魔力を集中できる。手加減が難しくなるがな。全く、一体どこの誰だお前に治療魔法教えた奴は……」


 そのままブツブツ言いながらまたテントに戻ってっちゃった。

 何はともあれ、一旦その場にいた重傷者の治療が終わるとあとはテントの中も少し落ち着いた。軽傷だった数人は治療が終わるとまた戦闘に戻ってっちゃったし。あんな怪我したばかりなのに、なんでまた戻れるんだろう……


「嬢ちゃん、なんか変じゃないか?」


 物思いに耽りながら兵士さんの肩の軽い火傷を治療してると、ベンさんがスンスンと鼻を鳴らしながら私に声をかけた。


「え?」


 何がおかしいんだろう、とちょっと顔をあげた途端。橋のほうからいつも兵舎で朝目覚まし代わりに聞いてたラッパの音が緊急を告げるようにけたたましく鳴り響いてきた。


「あゆみ、なんかマズい。一旦動くぞ」


 え? え? っと見回してる間にもベンさんが私を抱え上げ、ヴィクさんと一緒に周りを警戒しながら橋と反対の方向に移動してる。どこから飛んできたのか、いつの間にかシモンさんも直ぐ横に立ってた。

 そのままヴィクさんとシモンさんの二人が警戒を続けながら私を抱えたベンさんを守るようにしてさっきアルディさん達がいたテントに向かってると、突然私たちの周りに影がさして辺りが暗くなり、続けてヴィュゥゥゥッと上空を何か大きなものが通りすぎる風切り音が響いた。


「こりゃマズい!」

「しまった!」

「な、なんだ!」

「ひゃぁぁ、凄い!」


 四人それぞれの悲鳴が上がった。だって、今私たちの上を飛んでったの、あれ、もしかしてもしかしなくてもドラゴン!?

 下から見上げて、感嘆の声が上がっちゃった。だってすっごく綺麗。


 夕日を浴びて鈍く輝く青銀の鱗が全身を固めたその身体はまるでジェット機みたい。胴体は綺麗な流線型で、首は長く、身体の割に頭が小さい。尻尾も結構長くてやっぱり飛行機みたいに足を引っ込めてて、正に銃弾のような流線型。左右に広げた翼は全長より長くて、細い骨組みのようなその核からまるで蝙蝠のような薄い皮膜が広がってる。そんな所までもが綺麗に青銀色でチラチラ輝いてて。

 あまりの美しさに私が見上げながら見惚れてると、上空のドラゴンが首を傾げてチロリと片目でこちらを見た。今の、確かに私を見たよね? 視線がバッチリあった気がする。


「あゆみマズい、逃げるぞ!」


 咄嗟にヴィクさんとシモンさん、そしてベンさんが全速力で陣から離れるように草原へと走り出したんだけど、さほど離れないうちに、すぐ私たちの目の前にさっきのドラゴンが急降下してきて風を巻き上げながらトスンと着地した。

 いわゆる犬のお座りのような状態で座ってるドラゴンは、どうも元々四つ足で動ける体躯らしい。見上げるその身体は、多分あの森で私たちの家があった木なんかと同じくらい。学校の校舎とかくらいの高さだろうか。どっしりと重そうで、身じろぎするたびにギラギラの鱗が波打ってる。

 顔を引き攣らせたヴィクさんが慌てて踵を返そうとすると、ドラゴンがスッとその大きな翼を広げて私たちの背後を囲ってしまう。これじゃあ逃げ場がどこにもない!


「どこへ行こうというのだ、幼き者たちよ」


 途端、鼓膜が振動しすぎて良く聞き取れない程の重低音が響いて、それがドラゴンの声だって認識するのにちょっとかかってしまった。

 凄い声。なんか暴走族の出す排気音みたい。


「幼きかどうかはよく相手を見て話すがいい」


 と、呆けてるヴィクさんに押し付けるように私を立たせ、四つん這いになって背を反り上げたベンさんが前に飛び出し、それよりも先にひらりと降り立ったシモンさんがベンさんの首をしっかりと手で押さえながら声を張り上げた。

 それに片眉(あれ、眉毛だよね?)をあげるとドラゴンが私たちを脅かさない様に小さな声で聞き返す。


「ほう、そこのお前は幼くないとでもいうのか。あれだけワシの寝床の周りでギャーギャー騒ぎおって」


 あ、シモンさんの顔がちょっと引き攣った。


「私はあれらとは無関係だ。お前のように幼い竜にはエルフと人間の区別もつかぬようだな」


 わわわ、シモンさん、そんな煽るような口調で言い返してどうするの!

 案の定、目の前の竜が目をギョロリとギラつかせてイラついたように鼻から息を吐いた。多分、ドラゴンにとっては軽く吐いただけなんだろうけど、こっちにぶわっと盛大に生臭い風が流れてくる。それが結構臭くて涙目になっちゃう。


「ほう、偏屈なエルフがまたなんでこんな所で愚かな人間どもと一緒に騒いでるんだ?」

「別に。ここにいる人間たちと一緒に騒いでるつもりはありませんよ。私は単にこの女性に恩義があるだけです」


 話ながら私を目で指し示すシモンさんにつられて、ドラゴンがまたもその大きな目で私を見る。

 うわ、このドラゴンの目真っ青だ。しかも蛇みたいに真ん中の黒い瞳孔が縦になってる!


「この娘、何か匂うぞ」

「ああ、幼い竜でもそれくらいは分かるようですね。でしたら関わらずにとっとと親元に帰りなさい」


 え、私匂うの!?


「いや、先にこの愚か者どもを片付けてからだ。今までも勝手にワシの寝床の庭先に木の檻やらオークを入れる穴やら作りおって。そろそろ我慢も限界だ」


 そう言ってグワンっと首を回したドラゴンが、私たちの向こうのテントに目を移した。


「待って、片付けるって何する気ですか?」


 慌てて声を大にして聞いてしまった。だって、今にも飛んでってなんか始めちゃいそうで。そんな私を片目で見下ろしたドラゴンがニタリと口角をあげた。


「何って、軽く蹴散らして静かにするまで。お前は何か匂うし、そのエルフが言う通りここの連中と関係ないのならとっととここから去るがいい」


 そう言いながら翼を開いて動き出そうとするのを慌ててもう一度引き留める。


「えええ、ちょっと、ちょっと、待って! こ、ここには私の知ってる人もいっぱいいるし、それにその巨体で蹴散らされたら皆死んじゃう!」

「何を言っている。殺さねば静かにならんだろうが。愚かしくもずっと同族同士で殺しあってるんだ。ワシが蹴散らしても大差あるまい」

「や、やめさせます! 今すぐ静かにさせますから。皆、別に死にたくて殺し合いしてるわけじゃないはずだし!」


 一生懸命言い募る私に、ドラゴンがまるでからかうようなまなざしを向けてくる。


「ほう、幼く小さい娘よ。お前がこれを本当に終わらせられるというのか?」


 え、そ、そりゃ私だってさっきっからやめさせたいって思ってるけど。やめさせたかったけど。でもどうしていいかなんて全然分からない。分からないけど、今度はさっきまでとは違って、止めなかったら皆殺されちゃう!


「な、なんとかします。ちょ、ちょっと待っててください」


 い、言うだけならタダだ。黒猫君じゃないけど、出来ないなんてとてもじゃないけど言えない。

 何とか、なんとかしなくちゃ。何とかしなくちゃ。何とかしなくちゃ。

 そんな思いで返事をした私を横目で見守ってたシモンさんが、隣で諦めの混じったため息をつく。


「仕方ありませんね。恩人の希望です、私も手伝いましょう」


 振り返れば私たちの様子を無言で見守ってたヴィクさんとベンさんがただ言葉もなくうんうんと頷いてた。

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お読みいただきありがとうございました。
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