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異世界で黒猫君とマッタリ行きたい  作者: こみあ
第11章 北の森
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32 アルディたち

 あゆみが寝落ちてから一気にスピードを上げ始めたバッカスに、ベンはそれでも問題なくついてきてる。もしかしてこいつ、実はかなり身体能力高いんじゃねえのか?

 にもかかわらず、途中休みを挟んで1時間半ほど走ってもまだアルディたちが見えてこない。


「……おいバッカス、いくら何でも離れすぎてねえか?」


 流石にちょっと心配になってきて尋ねると、バッカスも首を傾げる。


「ああ、2日前に合流した地点はかなり前に過ぎたんだけどな。あいつらよっぽど先を急いだのか?」


 アルディたちがここを進んだのはまあ間違いない。最近に踏みしめられた雑草が大量に見えるし、新しい轍のあともまだ見えていた。ここしばらく朝方に雨が降るから、ぬかるんだ中を走ったらしきところだけが見えなかったが。


「ベン、北の砦の橋まではあとどれくらいか分かるか?」

「そうだな、さっき休んだところから半分ほど来たってところか」

「じゃあ下手すると、すでに到着しちまってるかもな」


 さっき休憩を入れたのは30分くらい前だ。橋の様子を知らないアルディたちが人気のなさに先を急がなければいいんだが。そう思ってると、前方から何やら煙が上がりだしたのが見えた。


「……あれ、マズくねえのか」

「マズいかもな」


 バッカスも同時に見つけたらしく、嫌そうな声をあげる。不穏な雰囲気に俺の胃もキリリと痛んだ。


「あゆみ起きろ」

「んー……、お昼ご飯?」

「おい、時間がないから寝ぼけてないでとっとと目を覚ませ」


 俺に揺すられて口元を拭ってるあゆみはキョロキョロと周りを見回してる。このままあゆみを連れてあそこに行くのは得策とは言えない。


「ベン、悪いがあゆみを乗せることは可能か?」

「悪いが無理だ。このスピードじゃ嬢ちゃんは飛んでっちまう」


 そりゃそうか。


「じゃあ、普通にこいつを抱えて歩いてきてくれ。俺たちは先に行って様子を見てくる」

「ああ、それなら大丈夫だ。ほら嬢ちゃん」


 半分寝ぼけるあゆみを手渡そうとすると、突然パッと目を開いたあゆみがすぐに酷く心配そうな顔になって俺の手を掴んだ。


「黒猫君、お願いだから気を付けてね」


 ああ。バッカスの言ってた事が脳裏によみがえる。本当だ。これはこれからじっくり自分の中の覚悟を書き換えねえとマズそうだ。


「ああ、心配するな。すぐ戻ってくる」


 俺が内心の後悔を押し隠しつつあゆみの頭を撫でながらそう言うと、あゆみがふっと笑って手を離した。バッカスがもの言いたげな視線を送ってきたが、そのまま何も言わずに走り出す。と、後ろでヒラリと音がして、気が付くとシモンが飛びおりてやがる。一瞬振り返った俺の視線の端に、ちゃっかりあゆみとベンの横に立ってひらひらと手を振るシモンの顔が見えた。


「あいつにだけはあゆみを任せるなよ」


 ぼそりとバッカスが呟くのがシモンのことなのは間違いない。


「分かり切ってることだろ、それは」


 俺がそう切り返すとバッカスがにやりと口元を歪め今まで以上にスピードを上げた。




 十分もすると、煙の出所が見えてきた。どうやらアルディたちが火魔法を使ってるらしい。

 近づくにつれよりはっきりと状況が見えてきた。そこはなだらかに登る草地が一旦森の端で終わっている場所だった。行き止まりの左角の辺りの森が川に面して切り開かれていて、そのまま川へと落ち込んで行っている。多分、川の水位がこの辺りで一旦地表に近づいているのだろう。

 その手前では見慣れない軍服を着た男たちが列になって橋に向かって多種多様な攻撃を放ってた。橋を挟んで対岸からも応戦の攻撃が返ってきている。火魔法、電撃魔法は当たり前だが、何やら物理的に大きな岩の塊まで飛んでる。他にも時折矢が一斉に両側に降っているが、基本着地前に風になぎ飛ばされていた。

 それにしても、両軍とも人数が多い。川の手前で攻撃をしてる人間だけでざっと50人はいる。俺たちの軍は確か総勢14人じゃなかったのか?


「どうなってんだあれは……」


 俺の独り言を他所にバッカスが何か見つけたらしく、一直線にその橋の右側に向かってスピードを上げ始めた。暫くして俺にも顔が見える段になって、それがアルディとヴィク、それに見知らぬ壮年の士官らしき男たちだと気づいた。簡単な天蓋だけのテントの下、木製の背の高いテーブルを立ったままで囲んでる、

 ある程度まで近づくと、ザワザワと数人の兵士がこちらに警戒を示したが、すぐにアルディがテントから駆けだしてきて止めてくれた。


「ネロ君、無事だったんですね! あゆみさんは? あとシモンは?」


 俺たちを囲もうとしていた兵士たちを退けてこちらに歩いてきて明るい顔で声をあげる。


「あいつらはあとからゆっくり追いついてくる。それよりおい、これはどうなってんだ?」

「細かい状況は後程説明しますが、現在当方の軍と北の砦から出てきた兵が橋を挟んで攻防戦を行っています。残念ながらあちらには魔術系の兵士が集まっていたらしく苦戦中です。まずはこちらの人間を紹介しますのでこちらへ」

「おい、あっちに参戦しなくていいのか?」

「ネロ君。君士官ですよ?最初っから出て行ってどうするんですか?」


 俺の質問にアルディが呆れた顔で俺を見てから周りの兵士に後から来るあゆみとベンのことを頼んでスタスタとテントに向かってしまう。まあ、戦線の橋からはかなり離れてるからこちらに来る分にはあゆみたちも大丈夫だろう。


「バッカスも人型になって下さい」


 アルディの注文にバッカスが眉をしかめたがそれでも従って俺と一緒に歩いてくる。テントにはヴィクと数人の軍服を着こんだ男たちが一緒に背の高い机を囲んでいた。


「バッカス、ネロさん、無事で何よりです」


 ヴィクが直ぐに笑顔で俺たちを迎えると、ほかの士官らしきものたちも軽く居住まいを正す。


「それでは紹介を始めましょうか」


 そう言ってアルディが男たちを見まわして俺を指さした。


「こちらがこの度新たに国王の位に就かれたキーロン殿下の二人の秘書官のうちのひとり、ネロ少佐です。キーロン殿下とは母方のご親戚にあられます。また、ナンシーで奇跡を具現された猫神様です」


 キールの秘書官として説明した辺りではまだ少し胡散臭い顔をしていた連中が、猫神と聞いた途端、おおお、っと低いうなり声のような驚きの声をあげる。


「道理でその立派な耳と尻尾をお持ちなハズだ」


 俺の耳と尻尾で立派って一体何を言ってるんだか。ところが最も年かさのいっている男がバッカスを見てとんでもないことを言い出す。


「そこに従えているのはでは使役獣ですか? それとも貴君の奴隷ですか?」


 途端バッカスから怒りのオーラが漂ってくる。だが、ムッとしたのはこいつだけじゃない。俺もカチンときた。


「これはバッカス。狼人族の一派を束ねる長だ。別に俺に仕えているわけでも使役してるわけでもねえ。勘違いするな。それどころか、今回の遠征は元々キールと俺がナンシーで世話になったバッカスへの返礼も含めてこの北の鉱山から捕まってる農民と狼人族の奴らを解放する目的で始まってるんだ」


 俺の言葉で年かさの男がバツが悪そうに、でも小さく付け足す。


「ですが、彼は獣人ではありませんか?」


 ここに来てもまたこれか。まあ、今まで綿々と続いてきた差別はそんな簡単には消えねえよな。


「アルディ、悪いがこれ以上話す前に、キールが施行した条例を説明してやってくれ」


 俺が言って信じる信じないより、俺自身ちょっと頭に来ちまってて単なる掛け合いになっちまいそうなので、ここはアルディに頼んだ。どうやらアルディはこの男たちをある程度知ってるようだから、その方が伝わりやすいだろう。

 アルディがキールの定めた3つの条例を説明していくと、男たちの顔が困惑に歪んだ。拒絶ではないが、やはりどう対応していいか分からない様子だ。


「いいか、今すぐ頭を切り替えてくれ。こいつは俺の友達(ダチ)だ。もし誰かが馬鹿にするような真似したら、多分俺は瞬時にキレる。覚えておいてくれ」


 理解しろとは言わない。だけど、これはケジメだ。はっきりさせておかなきゃ後からもっと面倒なことになりかねない。そう考えての断定的な俺の言葉に、男たちがお互いに顔を見合わせ、そしておずおずと尋ねてきた。


「その前に、まずは貴君の立場をもう一度確認させて頂きたい。キーロン殿下の秘書官だとか、信頼を得ているということを証明するには、このアルディ殿の証言だけではいささか心もとない」


 言われてみればその通りだ。だけど、今この場に俺の身分を証明するようなものは何一つない。アルディを見ると、小声で「剣はどうしましたか」と尋ねてきた。

 うわ、そう言えばあの剣、オークとやりあって以来見てないぞ!?ヤベー、なくしちまったか!?


「剣と言うのはこいつのことか?」


 突然、後ろから期待してなかった声が上がった。


「待て、これは何者だ?」


 途端、目の前の3人の男たちが剣に手を伸ばしてざわめき立つ。テントを覗き込むように屈んだベンの巨体が突然俺の後ろにのっそりと表れたんだからそりゃそうか。

 俺もその声に振り返って、やっぱり驚いた。


「おいベン、なんでお前が俺の剣、持ってんだよ!?」

「拾得物だな。あゆみを拾う前にズタボロになった丘の上で見つけた」

「ベンさん、凄い! えらい!」


 片足でベンの横に並ぶように立っているあゆみが手を叩いて喜んでる。


「あゆみ、無事でよかった」


 すぐにヴィクが駆け寄って、あゆみの身体を頭の先からつま先まで触りながら無事を確認してる。

 その間にベンが手にしていた剣を素直に俺に手渡してくれた。


「この嬢ちゃんのもんかとは思ったから持ってきておいて良かったな」

「ああ、助かる」

「ついでにボロボロのズタ袋も一緒に拾ったぞ? あれもお前らのか?」


 そう言いながらベンが自分の背負っていたでかい荷物の袋から俺たちの手荷物の入った袋を引っ張りだしてきた。


「うわー、ベンさん最高! それ私のです。色々本当に必要なものが入ってたからなくなってかなり困ってたの」


 あのでかい袋、何が入ってるのかと思えばそんなものまで入ってたのか。それにしてもあの袋にはそんな大したもの入ってなかったと思ってたんだが。やけに喜ぶあゆみを他所に、俺はベンに返された剣をひっくり返して柄の紋章を男たちに向けた。


「この通り、キールの秘書官としての身分証明の為にこの剣をもらってきたぞ」


 紋章を確認した男たちがそろって顔色を変え、軍人らしくビシッと手をあげてこちらの敬礼を俺に向けるのを見て心底嫌になってくる。


「大変失礼足しましたネロ秘書官殿。お初にお目にかかります」

「頼むからその敬礼するのはやめてくれ。キールに無理やりこんな役職を押し付けられただけで、俺自身はなんも偉くもなんともないんだからな」


 げんなりしながら俺がそう言うと、男たちが目を白黒させ、アルディとヴィクが苦笑いを零してる。


「ネロ、お前自身が偉い偉くないは関係ないだろ。一族の上に立つもの支える役に就いたなら、胸を張って責任を負えよ」


 バッカスの遠慮ないツッコミにグッと声が出なくなる。何のかんので族長を続けてるだけ、こいつのこういう覚悟は俺と違ってしっかりしてる。


「そうですよ。いい加減慣れてください」


 そう言ってアルディとヴィクまでが敬礼しながら俺をからかう様に笑ってた。

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