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異世界で黒猫君とマッタリ行きたい  作者: こみあ
第11章 北の森
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29 お迎え

「っぅう、クソ、朝っぱらからなんだ!?」


 私の頭のすぐ横で突然響いた黒猫君の大きな声の愚痴で目が覚めた。

 まだ半分寝ぼけつつ目を擦りながら開けると、うわぁぁ、すぐ目の前に黒猫君のドアップ。


「お、おはよう」


 声は絞り出したけど、目の前の不機嫌そうな黒猫君の顔のすぐ下は首と裸の上半身に続いてて目のやり場がない。

 うん、猫じゃなくて人間の上半身。黒猫君、なんと昨日の夜の間にすっかり人型に戻りました。

 詳しい経緯は夫婦の秘密なのでちょっと人様には言えません。

 言えないけど、どうやらこれからも黒猫君を人型に戻すのはそれほど難しくはないみたい。


「あゆみ、仕度しろ。なんか外が騒がしい」


 私にはまだ何も聞こえないのだが、耳のいい黒猫君には何か聞こえてるらしい。

 すぐに仕度を整えて黒猫君に抱えられ部屋から出ると、確かにどこか遠くから叫び声が聞こえてきた。


「あゆみー、ネロー、いるんだろ! おい、あいつらを返せ!」

「なんだお前らは!」

「そんなこと言ってないで登ってしまえばいいんですよ、ほら」

「おいエルフの急襲だ、戦闘出来る奴は広場に向かえ!」


 あああ。あのとっても聞き覚えのある声は……


「あれ、バッカスたちの声だよね?」

「ああ。なんだ、あいつら結局自力でここを見つけたのか。それにしてもなんで揉めてんだ?」


 私を腕に抱えた黒猫君が当たり前のように凄いスピードで木の間に渡された梯子のような道をかけていく。私じゃ怖くてトロトロ歩くのが精いっぱいなのに、流石猫、本当に身が軽いよね。


「バッカス、シモンさん!」

「おい嬢ちゃん、あぶねえから下がって……ま、待て、そいつは誰だ!?」


 私たちがここに来た時最初に下から上がってきた広場に着くと、そこにはバッカスと、なぜかシモンさんが一緒に立ってた。それを囲い込むように熊やシカの獣人さんたちが、手に鎌やらナイフやら何かしら武器になりそうな道具を持って輪を作って構えてる。その中にいたベンさんが私の声に振り返り、黒猫君を見つけて驚いた顔でこっちを凝視した。

 あ、そっか。ベンさん、黒猫君のこの姿は初めてだもんね。

 そんなベンさんに黒猫君は悪びれもせずに軽く答える。


「言ったろ、俺は元々人間だって」

「お、お前昨日の黒猫か!?」

「ああ。そんでもってそれは昨日話してたバッカスと、一緒に北に向かってきたエルフのシモンだ。こいつらは俺たちを探しに来ただけで害意はないはずだ、だろ?」


 私たちの姿を目にしたバッカスとシモンさんは、二人そろって心底ほっとした顔をした。やっぱり心配させちゃってたんだね。


「バッカス、皆無事だったの?」

「ああ、こっちは皆無事だ。急いでお前たちを探したかったがアントニーが足を痛めてな。仕方なくケインを俺が乗せてアルディの所まで送ってからすぐに引き返してきたんだ。なのにいつの間にかこのくそエルフが勝手に俺の背中に乗ってやがって……」

「何言ってんですか、自分独りじゃ崖からの回り道も見つけられなかった癖に。大体私が足跡を辿らなければ、あなた一人じゃいあゆみさんを見つけるのにいつまでかかってたか!」

「ハッ、お前なんかいなくたって俺の鼻ですぐに見つけられたんだよ」

「オークが来るたびにそっちに気を取られて散々寄り道しようとしてたでしょうが! しかもすぐオークの死骸の匂いでお二人の匂いを見失って……」


 あきれる周りを放っておいて二人が怒鳴りあいを続けてる。激しく言い合ってる割には、タイミングがばっちりでまるで漫才のような掛け合いみたい。うーんこの二人、よっぽど気が合うのやら、合わないのやら。


「おい、もうそれくらいにしとけ」

「はあ? なんでここでぼーっとしてた奴が偉そうに言ってんだよ」


 止めに入った黒猫君に振り返って、勢いのままバッカスがイライラとかみつく。


「何だと!?」


 あ、黒猫君のこめかみがピクついた。やだ、ここで黒猫君まで喧嘩に参加しちゃったらもう止めようがない。なんとか仲裁しようと私は慌てて口を挟む。


「待ってバッカス、私たちも別にぼーっとしてたわけじゃなくてね、あのあと道に迷ってるところをこのベンさんに掴まえてもらって……」


 私がそこまで言うと、なぜかバッカスの眼が突然険しくなる。ジッと見てるの、それもしかして私の首?


「おいあゆみ、その首輪はなんだ? なんでお前が首輪で繋がれてんだ?」

「そりゃ一応奴隷として掴まえたからな」


 あああ、ベンさんがぼろっと余計誤解されること言った!

 バッカスが一気にいきり立ってベンさんに襲い掛かりそうなのを見て私はまたも慌てて口を挟んだ。


「ち、違うのバッカス、これは森で迷ってた私をベンさんが安全に確保しようとしてね……」

「おいネロ、お前が付いててなんでこんな事になってんだ!?」


 私の説明なんて聞き流したバッカスが、すぐにイラつきの矛先を黒猫君に戻して叫び出す。待って、なんでそう黒猫君に当たろうとするかな。原因は全部私なのに!


「あっ、あっ、それはねバッカス、実は黒猫君昨日まで人型にもどれなく……」

「あゆみ、もうそれはどうでもいい。それよりもすぐに北に向かうぞ」


 そう言って黒猫君が梯子に向かってっちゃうけど、ちょっと待って、ちょっと待って。

 みんな、私の説明、お願いだから聞いて!

 皆に無視されて、途中で遮られ、でも言いたいことがいっぱいあって。

 喧嘩は嫌だし、皆それぞれ私たちを心配してくれてるんだし。諸悪の根源は私なのに、誰も私に弁解させてくれないし!

 ベンさんたちにはとってもお世話になったんだし、お礼も言いたいし、でも全然私に思い通りに説明させてくれないし!

 ジリジリが絶好調になった私は、とうとう耐え切れずに……プチンと切れた。


「黒猫君、ストップ! まだいかないから! バッカス、シモンさん、ベンさん、ここ来て! ちゃんと並んで。いい?」


 突然プチンと切れてビシっと一人一人指さしながら叫び出した私に、それぞれ3人が3人とも目を見開いて驚いてる。でもとりあえず文句も言わずに言われるままに集まってくれた。そこで私はスッと息を吸って先を続ける。


「私はあの後バッカスたちが見えなくなっちゃったから、動けない猫の姿の黒猫君抱えて途方に暮れてたの。なんとかバッカスたちに合流したくて歩き回ったら道に迷っちゃって。そんなときに私を拾ってくれたのがこちらのベンさん」


 私が話しながらピッと指さすと、ベンさんがギョッとして、でも頷いてくれる。


「最初私が怖がって逃げない様に奴隷として掴まえてくれたの。この首輪はその名残。だけど部屋もくれてご飯もくれて心配してくれるいい熊獣人さんで凄くお世話になったんだから。二人とも挨拶して。黒猫君もちゃんともう一度お礼言って」


 私に促されて、バッカス、シモンさんと黒猫君がベンさんにそれぞれぺこりと頭を下げ、ベンさんがポリポリと熊の頭をかいていた。これで挨拶はちゃんと済んだね。ほっとした私はやっと肩の力を抜いて、皆を見回した。


「良かった。これでちゃんと話し合えるね。ベンさん、あの籠を編んでた部屋をお借りして、少し皆でお話しできませんか? 昨日ベンさんも一緒に行って下さるって言ってらしたし、バッカスに他の皆の様子も聞きたいし。バッカスたちにもベンさんから伺ったことを伝えておきたいんです」


 私がそう言ってお願いすると、それを見てたベンさんが、ほうっとため息をついてニッコリ笑ってくれた。


「なんだ、結局嬢ちゃんが一番しっかりしてるな。まあいい、じゃあ集会場を使おう。カリンとトムは一緒に来てくれ。他の奴らは解散でいいぞ」


 ベンさんの指示を受けて、カリンさんとさっき見かけた鹿の獣人さんだけがベンさんのもとに集まって、残りの皆はザワザワと話しながら三々五々に散っていった。


「ベン、お前も行くって本気か?」


 人気がなくなり、残ったメンバーで集会場と呼ばれてたあの籠を編んでいた部屋に向かうと、鹿の獣人さんが小声でベンさんに問いかける。

 この鹿の獣人のトムさん、背が高いなぁ。ベンさんと同じくらいある。

 正直言っていいでしょうか? 鹿の獣人さん、凄くカッコいい。すらっとした足に高身長、その上綺麗な角が頭の上に冠のように乗っかってて。鹿の鼻だけどスッと筋が通ってるし、目元も口元も引き締まって凛々しいし。いわゆるおとぎ話に出てくる王子様みたい。


「おいあゆみ、何ジッとその鹿を見てんだ?」

「え、だってトムさん、凄くカッコいいと思わない?」

「……まさかお前見とれてるんじゃないよな」


 え、まさか黒猫君変な誤解してる?

 いや、別にやましい意味で見とれてたわけじゃなくて、ぬいぐるみを愛でるような意味で見とれてたんだけど、うーん、なんか黒猫君の目つきが非常に険しくなっちゃってる。


「別に私、そんな……」

「ほら着いたぞ、入ってくれ」

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お読みいただきありがとうございました。
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