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異世界で黒猫君とマッタリ行きたい  作者: こみあ
第11章 北の森
304/406

17 合意

「……と言うわけで、俺の一族はキールたちに協力してる」


 あれからしばらく黒猫君とバッカスが交互に説明を続けた。私の説明は余計混乱するからしばらく黙ってろって二人に釘を刺された。それはまあそうだったのかも知れないけどもう少し優しい言い方もあると思う。


 何度となくディアナさんは憤り、キールさんを罵ってた。それを見てると最初の頃のバッカスたちを思い出して少し悲しくなった。こういう誤解ってどんなに言葉で説明しても、たとえそれを理解して貰えても、多分それまでの怒りが蓄積されてて簡単には消えないんだって分かってしまった。


「キールにはそのうち会う機会も出来ると思うが、まずは残った奴らを救い出したいんだ」


 バッカスが真剣にそう言えば、流石にディアナさんも唸るしかない。


「……勝算はあるのか?」

「別に真正面から戦う必要はない。何とか囚われている人間を救い出すことが一番の目標だ」

「あいつらを叩きのめさない気か!?」

「今は必要ない」


 黒猫君が冷静な声でそう言うとディアナさんがキッと眦を吊り上げた。


「あそこでどんな酷いことが起きてるか、お前らは知らないからそんなことを言えるんだ!」

「ああ、確かに俺たちは先に逃げられたから中の様子は知らない。だけど俺の一族の奴らにも家族を囚われた者が何人もいる。恨みは別にないわけじゃない」


 激昂したディアナさんにバッカスが静かに、でもしっかりとそう告げるとディアナさんもすぐに申し訳なさそうに顔をしかめる。


「悪い」

「ディアナが悪気があって言ったわけじゃないのは分かってる。俺だって本当は一矢報いてやるつもりだった。だけどな。このネロが言う通り、俺はまずは家族を救いたい。仕返しはそれが出来てからゆっくり考えればいい」


 そっか。バッカスは別に仕返しを諦めたわけじゃなかったのか。

 バッカスたちの苦しい気持ちは分かってるようでやっぱり同じように感じることは出来てない。私が思っていた以上に彼らの恨みは激しいんだろうな。

 そこで黒猫君が思案顔で付け足す。


「仕返しするかどうかはとりあえず今はおいておこう。だけどな、もしあいつらがまだ水源を汚し続けていて、それをスライムが浄化しているというのが本当だったら……俺たちもまた囚われた人間の救出だけじゃなく改めて派兵する必要が出てくるかもしれない」

「え? そうなの?」


 突然の黒猫君の言葉にちょっと驚いて聞き返してしまう。だってこの後私たちはヨークにいる教皇さんとお話し合いしにいくのだと勝手に思ってたんだけど。中央も何とかしなくちゃって言ってた気がするし。


「ああ、まだ北に行って様子を見ないことには何とも言えねえけどな」


 そう言って黒猫君が頭をかく。


「じゃあ、折角マークさんがお魚買ってきてくれても、食べられるのまた先になっちゃうのかな」

「鉱山を何とかしねえと下手したら今後まるっきり食べられなくなっちまうかもしれねえからな。こっちが優先だ」


 それは確かに大変だ。そっか、鉱山が水を汚すとこのままだとお魚食べられなくなるのか。それは本当に嫌だな。お魚は今すぐでも食べたいくらいなのに。


「ならば私たちも北に一緒に行こう。少しは戦力になれるはずだ」


 私たちの会話をジッと聞いていたディアナさんが決心したようにそう言ったけど。


「……そんな簡単に俺たちを信用するのか?」


 黒猫君の言葉に私も頷く。だってバッカスたちだって信用してくれるまでは結構かかったのに。


「別にキールという王を信用するわけじゃない」


 厳しい顔でそう言いおいてから、ディアナさんがスッと優しい顔になって続ける。


「だけど、お前らは信用する価値があると思う。何と言っても人間嫌いで有名だったバッカスが信用するって言うんだから仕方ない」

「人間嫌いって……え? そうなのバッカス!? そうなんですかディアナさん!?」


 私が驚いてバッカスを見ると、バッカスは私と視線を合わせずにとってもバツの悪そうな顔でディアナさんを睨んでる。


「もうそれを蒸し返すことねえだろ」

「何を言う。それが私たちの婚約解消の原因だろう、忘れたとは言わせないぞ」


「「婚約!?」」


 私と黒猫君が一緒に声をあげた。それを見たバッカスが心底迷惑そうな顔で天を仰ぐ。


「忘れたとは言わねえよ。だけど俺はまだ別に人間全般を信用するって言ってる訳じゃねえぞ。あゆみがいるから今はキールたちと共同戦線張ってるだけだ」

「え? そうなのバッカス? じゃあビーノ君は?」


 私がびっくりしてバッカスに問いかけると、バッカスがムッとして返事を返す。


「あいつは別だ、あれは俺の弟みたいなもんだ」

「じゃあパット君は?」

「あいつは……いいやつだ」

「じゃあヒロシ君は?」

「あいつも見込みがある」

「テリースさんは?」

「迷惑な奴だが悪い奴じゃない」

「アルディさんは? カールさんは? トーマスさんは?」

「……信用してもいい」

「じゃあ一体誰が信用できないの?」


 私の質問にバッカスがグウッと唸った。


「俺が言ってるのはそうい事じゃねえ、俺が言ってるのは……」

「バッカスが言いたいのは人間にも信用できねえ奴はいる、ってことだよな」


 黒猫君がニヤニヤしながら付け足す。それを受けてバッカスがガリガリと頭をかきながら「そんな所だ」と不機嫌に答えた。


「……まあ、いい。それじゃあ私たちもここを引き払う準備をはじめよう」

「え、そんな急で大丈夫なんですか?」


 立ち上がろうとするディアナさんの行動の速さにびっくりして聞いてしまった。それにディアナさんが肩をすくめて答えてくれる。


「急もなにも。単にこの人間たちがいつまで経っても森から動かないからこっちも身動き取れなかっただけで、こいつらがいなくなったらいつでもナンシーを襲えるよう、準備はとっくの昔に出来てたからな」


 うわー、ちょっと待って。


「じゃ、じゃあケインさんたちがあそこで留まってなかったら、もしかして私たち、ディアナさん達とナンシーでバッタリ会ってたって事?」

「そんでまず間違いなく戦闘になってたんだろうな」


 黒猫君が私の言わんとするところを付け足してくれる。

 つくづく、ほんとにラッキーだったとしか言いようがない。


「まさかこいつらがあそこでグダグダやっててくれたお陰でこんなふうに敵を誤らないで済むとはな。『情けは人の為ならず』ってやつだ」


 そう言ってディアナさんが気絶してるケインさんを見て苦笑いしてる。

 ああ、狼人族にいた転移者さんはことわざまで伝えてたんだね。


「北に向かうならオークを避けて西の支流まで出て北上した方が安全だな」


 今度こそ立ち上がったディアナさんがそう言うのに黒猫君が待ったをかける。


「いや、キールの所の兵士と合流する事になってる、一緒に向かうなら東の支流を渡ってそちらに行きたい」

「そんなこと言っても今、川沿いはオークの巡回ルートだぞ」

「そう言えばケインさんもそんな事言ってましたね。でもオークは川を渡れないって。だからもう少し上流で反対の岸に移るつもりだったんですけど」


 私がそう説明するとディアナさんが難しい顔になった。


「それは無理ではないが危ないな。幾ら私たちでもあの川を渡るのにはもう少し上流まで行かなけりゃならない。オークの見回りはそれよりも下まで来てる。タイミングを間違えるとマズいな」

「オークの見回りの時間は分かってるのか?」

「まあ、大体の時間は分かってるんだが、たまに不定期な時間にも来る。それにぶつかるとどうしようもない」


 それを聞いた黒猫君は、しばらくジッと考えた後、私とバッカス、そしてアントニーさんに向き直って問いかける。


「俺はそれでも北上してアルディたちに合流しておきたい。お前たちはどうしたい?」

「ネロ、そんな水臭い聞き方すんなよ。どうせお前があゆみ抱えて川渡ろうとか思ってるんだろうけどそれだとかなり上流まで行かないと無理だ。俺たちはお前らと一緒に行くに決まってんだろ」

「私は私を抱えてくれる人に決めてもらいます」

「……一緒でいい」


 それぞれの答えを確認した黒猫君は再度ディアナさんに向き直る。


「ディアナ、あんたらが群れを危険に晒す必要はねえ。北上してから落ち合える場所はないか?」

「ああ、それなら北の砦に向かう街道が川を渡るために付近に橋が架かってる。そこは無論奴らが見張ってるが、それを超えてこちら側に小高い丘がある。もしその橋を無事渡って来れたらそこの頂上に来てくれ。あそこは切り立ってるからオークは来れない」

「分かった」


 こうして私たちはディアナさんにオークの巡回時間と場所を教わって、ディアナさん達とは別々に北に向かう事になったんだけど。そこでバッカスが「ちょっとお前ら先に行っててくれ」と言い出し、黒猫君は頷いて私を抱え、ケインさんを担いだアントニーさんと一緒に洞窟を後にした。

 バッカスを待つ間、ケインさんが目を覚まさないうちに私たちはアントニーさんの背中にケインさんを括りつけることにした。


「待たせたな」


 私たちがちょうどケインさんをしっかり縛り付けた所にバッカスが慌てて飛び出してきて「早くしろ、行くぞ」と私たちをせっつく。そのまま狼の姿になったバッカスの背に黒猫君が私を抱えて飛び乗り、そして私たちは川の上流を目指して出発した。

 後ろから「バッカス、お前次会った時は覚えてろよ!!」ってディアナさんの声がした気がしたのは、多分気のせいだと思う……思いたい。

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