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異世界で黒猫君とマッタリ行きたい  作者: こみあ
第11章 北の森
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13 ケインたちの晩餐

「ねえ、黒猫君。私何か手伝えることないの?」

「あ? ああ、じゃ、そこのじゃがいもと玉ねぎ、軽く水魔法で洗って風魔法で乾かしてから火にくべといてくれ」


 炉端に座らせておいたあゆみが暇そうに聞いてくるので俺がとりあえず答えると、周りの奴らがギョッとしてあゆみを見る。

 ああ、ここにも魔法使う奴はいねえんだろうな。

 捕まえた土ブタはバッカスたちが器用に全部皮を剥いで、腸抜いて吊るしてくれた。野菜は集落の奴らがそれぞれ適当に収穫してきた。

 そこまでは良かったが。とんでもねえことにそこで気が付いた。

 こいつら、ここに4ヶ月もいて鍋一つ作ってねえ。鍋がねえと茹でて嵩を増やせねーんだよな。

 炉も簡単なもので、今までは枝で刺して焼くか、火で熱した石に乗せて焼くかでやり過ごしてたらしい。それでもあゆみがやってたのよりはまあましだな。

 鍋がねえ時点で茹で物が全部だめになっちまった。仕方ないから野菜は全部炭焼きだ。

 土豚も今からじゃ丸焼きにする時間はねえから解体しながら小分けにして焼いてくか。

 薪はまあ森の中だからいくらでも集められる。灰もたっぷりあっていい感じだ。


「バッカス、そのへんの木からこれくらいの枝を集めてきてくれ。おい、あんたらはバッカスの折ってきた枝をその槍の先の石で適当に皮を剥いどけ」

「お前は何やってんだ?」

「あ? これか? ま、見てな」


 やっぱ水魔法楽だな。この集落にあった一番でかい木のボールに粉と塩を少々入れて、指先からチョロチョロ水魔法で水を足しながら捏ね上げる。それにさっき女たちが擂ってた木の実も加え、取れた豆も鞘を開いて中に入れちまう。


「アントニー、血抜きはどうなってる?」

「……やってる」


 アントニーは相変わらず最低限しか喋んねえが、仕事はバッカスより早いし確実だ。


「じゃあ、終わったら適当に解体頼む。あんたらが食う分以外は、火が通る程度の厚さににどんどん開いて、その辺の火の落ちた炭の上に直接くべちまってくれ」


 肉は火に直接入れても充分焼ける。灰もこういう時は調味料だって割り切る。塩は貴重だから肉は自前の塩味で勘弁してもらおう。

 代わりに焼けた玉ねぎやニンジンの中身を器に入れて塩を足し、それでソースだけは作っとくか。

 忙しく周りに指示を出しながら、自分は自分で捏ねあがった生地をちぎって粉をふって小さな円盤を作っていく。出来た物から綺麗に洗った針葉樹の葉の広がる枝を皿替わりにどんどん乗せていく。

 全部捏ね終えた所で水魔法で手を洗い、炉端に座ってるあゆみに持っていった。 


「これも風魔法で乾かして、そこの石で表面だけ焼いてからこの辺の灰の中に突っ込んどいてくれ」


 そう言って俺が指さしたのは一抱え程の大きさのある平らな石だ。川から持ってきたらしいそれは焚火の片側で熱されてる。


「ええ? 灰に入れちゃうのこれ?」


 訝しむあゆみに大丈夫だからやれと言うと、まだ不安そうに俺を見ながらも、さっきバッカスたちが削ってきた枝を箸代わりに乾かした物から石に乗せ始めた。

 途端、ジュゥっと音がして香ばしい麦の焼ける薫りが立ち上がる。その匂いにつられて、女たちが集まってきて、あゆみを囲んで一緒になって石に乗せ始めた。見よう見まねで木の枝を箸のように使って、焼いた傍から灰に突っ込んでく。

 女たちは数人づつ組になって作業に当たってて、炉端が徐々に姦しくなっていく。あゆみも一緒になって笑いながら作業してるのがなんかやけに嬉しくて、ついしばらくの間それをぼーっと眺めちまってた。


「おい、もう他にやることねえのか?」


 そこに解体を終えたバッカスたちが血だらけでこっちに声を掛けてくる。

 あ、しまった。先に準備させときゃよかった。


「バッカス、そっちの少し離れたとこに穴掘るぞ。後でその辺の内蔵とか血を吸った土とか全部埋めとかねえと何か寄ってきちまう。ついでにお前ら全員水魔法で洗うから集まれ」


 あゆみたちの楽しそうな笑い声に後ろ髪をひかれながらその場を後にした俺は、夕暮れの涼しい風を受けて少し晴れた気分でバッカスたちの元へと向かった。



「これでまずは今日明日の食いもんには困んねえだろ。おい、ケイン、俺たちもここで食ってっていいか?」


 すっかり日も暮れた集落の焚火の日のすぐ横で俺がそう言うと、俺たちを囲うように集まってた集団のなかからケインが苦笑いして答える。


「あ、当たり前だ、あんたらが作ったもんだ、誰も文句なんか言うもんか」


 そう答えるケインと俺たちの目の前には焼きあがった土豚の切り身やジャガイモ、それに炉端から掘り出して灰を払ったパンもどきが広げた針葉樹の上に大量に山積みになってる。

 まあ、そう答えてくれるだろうとは思ったが念のためだ。

 バッカスたちはすでに自分たちの分の生肉を綺麗に裂いて勝手に自分の手元に山積みにしてた。

 そんな慎重にならなくても、他にあれに手を付ける奴はいねえだろうけどな。


「じゃあ、頂きま~す」


 そこで俺でもケインでもバッカスでもなく、嬉しそうにあゆみがそう宣言すると、わっと小さな歓声とともに切り分けられた肉に沢山の手が伸びた。

 そんな簡単になくなるような量じゃねえから焦る必要もねえんだが、皆久しぶりのまともな食事らしいから興奮するなって方が無理だよな。

 今焼いたのだってバッカスたちが狩ってきた土豚のうちの一頭分にもならねえ。血抜きした肉の残りはバッカスとアントニーが作った物干しモドキに今も火の横で吊るされてる。俺たちがいなくなった後自分たちだけで食いつなぐためにも、保存食は作っておいた方がいい。ついでに俺たちも明日少しばかり貰っていこう。

 俺もあゆみと自分の分の食い物を針葉樹の葉を重ねた皿に確保してから、ケインに話しかける。


「なあ、あんたら飲み水はどうしてるんだ?」

「ああ水はほら、あのでかい革袋に川から汲んできて回し飲みしてるぞ」


 そう言ってケインが皆のあいだに回されてる大きな袋を指さした。

 ……あれ、多分動物の膀胱だよな。あゆみには言わないどくか。

 さっき料理してて気づいたが、この辺りは北に来すぎてるのか針葉樹ばかりで広い葉も見つからねえから簡単な器は作りにくい。

 まあ、時間があるんだから木彫りでもすりゃあいいって話なんだが。これは俺も経験から知ってる。食い物が手に入る入らないってギリギリの生活を繰り返してると、人間そういう建設的な事は考えられなくなっちまう。

 俺も自分たちの身の回り品に入ってた革袋を出してきて、水魔法で軽く洗ってから水を満たしてそれをあゆみに差し出した。


「……あんたら本当に魔法が使えるんだな」


 俺が水魔法を使ってるのを見たケインが、俺たちに少しばかり尊敬を込めた目を向ける。それに俺は苦笑いを返すしかない。


「ああ、やっと最近まともに使えるようになったな。だけど、あゆみも俺もいまいち使えてねえ。便利なようで使い道が限られるんだよ、これ」


 俺の返事を聞いてたあゆみが横で頷きながら、口の中の食い物を飲み込んで口を開いた。


「うん。黒猫君はまだいいよ、調節利くし。私なんて全然調節利かないから大まかな用途にしか使えないもん」

「ああ。お前のは危ないから当分使わなくていい」

「あー、ひどい。これでもシアンさんから黒猫君も知らない土魔法とか光魔法も習ったんだよ? 知りたくない?」

「もう少し時間がある時に俺の覚悟が出来たら頼む」


 冗談みたいに話してるが、正直あゆみの魔法は本当に諸刃の剣だ。上手く行く時は本当に助かるが、下手打つと影響が半端ない。

 俺たちの会話に置いてけぼりを食ってたケインがあきれ顔でこっちを見てる。


「やっぱりなんか、あん……あなた方はこんな所に一緒に座ってていい……方々じゃないんじゃ……ないですか」

「だーかーら。かしこまったり変にもてなそうなんてすんなら俺たち逃げるぞ」


 またもなんだか遠慮して後ずさり始めたケインを睨みつけて脅しとく。

 とはいえケインたちの反応はまあ普通なんだろうな。

 猫神とかの話は置いておいて、確かに魔法が使えるのはこの世界では大きなアドバンテージなのだろう。

 だが、そんなもんは俺たちがたまたま違う世界から迷い込んだ時に付いてきたおまけみたいなもんだ。特に俺はあゆみから魔力もらって使ってるだけだし、いつまで使えるのかも分からねえ。

 そんなもんに頼ったりそれで周りとまともに話も出来なくなってたら、これからここでやっていくのが余計難しくなるだけだ。


「俺もあゆみも別にこれが特別だなんて思ってねえし、正直大して使えるわけじゃねえんだから変な気をまわさないでくれ」


 俺が茶化さずにちゃんとそう答えると、少しばかり躊躇いながらそれでもやっとケインが頷き返してきた。


「わ、分かった。じゃあ、魔法とか神様とかは抜きにして、ここの者たちを代表して言わせてくれ。本当に助かった。ありがとう。あんたらは俺たちの救世主だ。例えあんたらが神だろうが兵士だろうが、俺たちの感謝の気持ちは変わらねえ」


 俺とあゆみ、バッカスとアントニーを見回しながらそう言ったケインは深々と頭を下げた。流石に今度は脅すわけにも文句を言うわけにもいかず、ただ居心地悪く俺が困り果ててるなかバッカスが破顔して答える。


「気にすんな、俺のは詫びがわりだしあゆみのはいつもの気まぐれだ」

「おい、料理したのは俺だぞ」


 綺麗に俺を抜いて答えたバッカスに俺がそう文句を言えば「ハッ、俺は生しか食わねえから関係ねえ」と答えながら生肉に齧りつく。

 その横であゆみが「美味しいごはん、いつもとっても感謝してます」とわざとらしく頭を下げた。

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