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異世界で黒猫君とマッタリ行きたい  作者: こみあ
第11章 北の森
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12 謝罪と食料

「ネロ、俺ちょっと出てくる」


 アルディとヴィクが発つと、すぐにバッカスがアントニーを引っ張って森に入っていった。

 まあ、何をするつもりかはわかってる。

 だから怪訝そうに見るケインにも放っておくように言うと、今度は先ほどのような心配もなく納得してくれた。どうやらいい悪いはともかくとして狼人族の強さは分かってるらしい。それでも俺たちを襲おうとしたってことは、こいつらよっぽど行き詰まってたってことだろう。

 さて、バッカスが帰ってくる前にこっちも準備しとくか。


「なあ、あんたらの今残ってる食料ってのはどれくらいだ?」

「そんなこと聞いてどうする?」


 訝しむケインに俺がなんて言ったもんかと考えてると、あゆみがニッコリ笑って横から口をはさむ。


「黒猫君が猫神様モードでお返ししてくれるみたいですから、正直に説明するときっといいことがありますよ」


 あゆみの説明にぎょっとして睨みつけたが、その一言でケインはすぐに顔を引き締めて俺を見返した。


「そういうことなら話は別です。病人やもしものためにほんの少し干し肉が残ってる。他には森で集めた木の実が少しある程度だ……です。毎日拾いに行くがこの季節じゃ大したもんが見つからねえ……んです」

「ケイン、猫神はマジで冗談だから変な口調はやめろ。要はほんとに何もねえって事か。あゆみ、その袋ちょっとこっちによこせ」


 あゆみの反対側に置きっぱなしになってた袋をあゆみに取ってもらって覗くと、中にはアルディの言葉通り俺達の身の回り品の他に色々入ってる。

 玉ねぎ、じゃがいも、人参、それに豆が少し入ってた。それに挽いた麦とああ、塩も入ってる。

 気が利いてんじゃねえか。

 数には限りがあるから気を付けるにしても。


「あんたら、それぞれ農村に戻るったってまだすぐには動けねえよな」


 さっきアルディを見送ったあと、やはり皆それぞれの村に帰りたがってることはケインが俺たちに告げていた。

 まあ無理もねえ。事実、人手としてあてにされてるうちに帰った方が、まだそれぞれ受け入れられやすいだろう。

 だが俺の問いかけにそれまで少しばかり明るくなっていたケインの顔が曇り、肩を落として答える。


「あ、ああ。残念ながらケガ人の様子がもう少し落ち着くまでまたねえとな。あの足で農村まで歩くのは無理だろうし、病人も担いでいかなきゃなんねえし。だが急がねえと今度はこっちの体力がなくなっちまうし」


 そう言って苦しそうにケインが村を見回す。

 気持ちは今すぐにでも帰りたいだろうに、ケガ人と病人のせいで時間とともに体力と食料が減っちまってこのまま身動きできなくなるのを心配してるってところか。

 俺はすぐにアルディの言葉を思い出してケインのその心配を払拭してやることにした。


「ああ、それはアルディが帰りの船をここに寄こすって言ってたぞ。それで病人を運べばいい」

「船ってあの王家の紋章の入ったあの船か!? そんなもんに俺たちが乗っちまっていいのか?」


 途端、困惑と驚愕をないまぜにした表情でケインが聞き返してくるのを、苦笑いしてるあゆみと顔を見合わせてから宥めるように返事をしてやる。


「ああ、隊長のアルディと少佐の俺が言うんだから間違いない。ついでに制作者のこいつも文句ないそうだ」


 俺がそう言ってあゆみを指させば、あゆみも当たり前と言うように頷きかえす。

 念のため肩書を出したのがよかったのか、ケインの顔が喜びに綻んで興奮に赤らんだ。

 遠くから俺たちを見守ってる集落の奴らが、そんなケインの様子を見てつられて興奮し始めた。

 いい傾向だ。さっきまでの死んだ魚みたいな目はもう見たくねえしな。


「じゃあちょっとその辺の空いた場所使ってもいいか?」


 喜ぶケインを後ろに俺は立ち上がって周りを見回す。


「そりゃ構わねえが何する気だ?」


 怪訝そうに俺を見るケインを引き連れて、柵の内側で一か所小屋が立っていない場所を目指す。どうやらここは日当たりがよすぎて誰も小屋を建てなかったらしい。

 その一番スペースの開いてる場所に、枝で適当に四角い枠を三つ描く。

 まあ、一畳くらいずつでいいか。


 再び炉の横に戻って、手荷物の中から野菜をいくつか取り出した。

 まずはじゃがいもを一つ出してキールに貰った剣で4等分にして、それをまた半分づつにしてやる。この前は皮だけでも育ってたらしいからこれで充分だろう。

 人参は葉っぱの付け根をほんの少し実の方まで切り落としてっと。玉ねぎは小さいのを丸で一つ使っとくか。

 それらを持ってさっき地面に描いた四角の一つの内側に、適当に間隔を開けて埋めてやる。ついでに豆も一房開いて適当にばら撒いとく。


「あゆみまだやるなよ」


 立ち上がろうとしてるあゆみに釘を刺す。

 このままやられるとこの袋の中身も危ねえ。

 俺は袋を持って集落の柵の外に置いてきてから、すでに俺が描いた四角形の前で待ってたあゆみに地面を指さした。


「いいぞ。これが育たねえと今夜何も食えないって思って頑張ってくれ」

「うん。分かってる」


 俺の意図するところを充分理解してたあゆみがほんの数分、ジッと地面を睨んでると、地面のそこここからチョロチョロと小さな緑の芽が伸び始めた。


「おおおおおお、なんだこりゃおい!?」


 驚き叫ぶケインとその声に驚いて集まってきた奴らの目の前で、いつもの通りあゆみの魔法が暴走を続ける。

 人参の葉っぱの切り落としはそこから地面に根を張って、茎を伸ばして花を咲かせて種を弾かせる。またそこからもそもそと芽が出て伸びてを繰り返し。玉ねぎもご同様。

 豆も勝手に地面を這って蔦を伸ばして、人参やじゃがいもの茎に蔦を伸ばして実をつける。

 しまった、せめて何か棒でも立てときゃ良かったか。

 いい加減見慣れた俺でさえ引けてくるその光景を、ケインをはじめ、周りに集まってきた奴らが目を丸く見開いて、口をポカンと開け放って見守ってた。


「あゆみ、そのくらいにしとけ、いい加減溢れちまう」

「え? 知らないよそんなの。ど、どうしよう、どうやって止める?」

「はぁあ? お前まだ魔力の止め方わかんねえのかよ」


 ついケインたちの表情に見とれちまって、気づけば畑は畑と言うよりは小山ってくらい盛り上がりツルが外に伸び始めてた。俺が慌ててかけた制止の声に、あゆみがポケッと返事して、すぐに焦りだす。

 いや、焦りたいのはこっちだ。


「え? えっとああ、前にテリースさんとやったやつ! ケインさん、ちょっとだけ手をつないで下さい」


 あゆみは焦る俺の目の前で、唖然としてるケインの大きな手を勝手に取って握り込んだ。そのまま目をつむったあゆみがしばらくジッと考え事するように俯いてると、やがて畑の中の植物の成長が徐々に衰えて停止してくれた。

 あっぶねえ、危なくナンシーの二の舞になるとこじゃねえか。シアンの奴、先に止め方教えといてくれよ。


「こ、これが、猫神様と、巫女様の、奇蹟……」

「猫神様……」

「巫女様……」

「奇跡……」

「んなわけあるか! 魔法だ、魔法。安心しろ、これでしばらく食えるだろ。……だから拝むな! 跪くな、病人まで引っ張り出すな! 解散しろ、解散!」


 俺があゆみの暴走に焦ってる間に、気づけばケインや集まってた奴らが皆次々に跪いて俺たちに頭を下げ始めちまう。それを片っ端から俺が怒鳴りつけてやめさせてると、ちょうどそこにバッカスとアントニーが獲物を担いで帰ってきた。

 肩に引っ提げてた獲物をドサリドサリと俺達の目の前に下ろしたバッカスとアントニーは、二人そろってケインに頭を下げる。


「あんたらのとこに土豚が来たのは多分俺らが追い回しちまったからだ。悪い、これで許せ」


 気持ちいいほどハッキリとそう言って頭を下げたままのバッカスたちに、ケインがまたも呆然とそれを見つめ、すぐに慌てたように返事をかえした。


「あ、あああ、わかった。いや、許すもなにもこっちも怪我人は命に別状もねえし、しばらくすりゃあ治る怪我だ」


 ケインはそう答えながらも、眼の前に積まれた3頭のでかい土豚に目が釘付けだ。それを横目にバッカスはすぐに頭を上げて破顔し、「そうか、じゃ手打ちだな」とケインの肩を叩いてアントニーも引き連れて一緒に土豚を吊るしに行った。

 まあ、これでこいつらが村に戻るまでの食料は足りるだろう。

 俺に追い払われて遠巻きにこっちを見てた奴らも数人それに突いていく。見ればどいつもこいつも、さっきまでとは比べ物にならないくらい明るい顔になってた。


「じゃ、飯の支度にかかるか」


 バッカスたちを見送って気分よく俺がそういって大きく一つ手を打つと、横のあゆみがスゲー嬉しそうにほほ笑んだ。

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