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異世界で黒猫君とマッタリ行きたい  作者: こみあ
第10章 エルフの試練
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23 午後のお仕事

「これ本当に必要なのかよ」


 慌ただしく昼食会議を終えた私と黒猫君はイアンさんに引っ張られてまたも新政府庁舎に連れてこられた。

 黒猫君が文句を言ってるのは実は私たちの部屋。既に領城に部屋があるんだからそれだけで充分だと思うのにイアンさんが私たちの執務用にってもう一つここにも部屋を用意してくれたのだ。


「当り前です。秘書官のお二人に執務室がないなど考えられません。どうぞ文句など言わずにそれを決めてください」


 そういってイアンさんが指さしてるのが私達の執務室の名札。

 ここでは必ずそれぞれの部屋に名前を付けるのが習わしだそうで。


「執務室じゃだめなのか?」

「この庁舎内に一体いくつ執務室があると思ってるんですか。お二人が決められないのでしたらこちらのナンシー公の発案で決定してしまいますが」

「却下だ。それは今すぐ捨てろ」


 黒猫君が睨んだ名札に書かれてる文字を見て私も顔が引きつる。


【小鳥ちゃんと黒猫君の愛の巣】


 ……一体どういう神経でこれを名札に書けるんだろうエミールさん。


「ではこちらではいかがか?」


 うん。置かれてたのはそれだけじゃなかった。


【お役所部・ハローワーク部対応対策本部】


「ウォホンッ! あー、僭越ながらこちらはワシが書かせていただきました。お二人の今後のお仕事を考えまして──」

「おい、お役所部って一体何だよ! 『お』はどこから来た? なんで『部』って付いてんだ!?」

「昨日あゆみ様がお役所とお呼びでしたのでそちらを採用いたしました。そしてネロ様も分かりやすいほうがいいと仰られてましたので、『部』を付けて聞きなれない名前が部所であることを明示しました」


 黒猫君が泣きそうな顔で私を見た。分かるよ、言いたい事は。


「黒猫君、私今やっと気が小さかったっていう初代王がなんであんな弾けた名前とかつけたり色んな所に恥ずかしい足跡残したりしたのか分かった気がするよ」

「俺もだ……。ああ、イアンそれも却下な」


 それからしばらくイアンさんを黒猫君と二人がかりで説得して無難に【王室秘書官執務室】としてもらった。最後までイアンさんは不服そうにしてたけどこれは私も譲らなかった。

 なんでこんな簡単な事の為にこんなに悩まされなきゃならなかったんだろう……

 それが決まるとすぐにそれぞれの担当さんが挨拶に来た。


「お役所大臣 ジョナサン・シャウワーです」

「ハローワーク大臣の ケンです」


 シャウワーさんは上級貴族、ケンさんは下級貴族なのだそうだ。二人とも元々税務課の出だそうで実は午前中の講義にも参加されてたので私は顔を知ってた。

 それからも何のかんので新政府庁舎内のほぼ全部の部署の大臣さんやら役人さんが挨拶に来て、途中から私は名前も部署もグチャグチャになって覚えるのをあきらめた。


「あゆみ様、ネロ様。只今キーロン陛下からお呼び出しが参りました。旧庄屋の屋敷、改め秘書官邸に一緒に向かうために待っている、とのことです」


 ご挨拶が大体終わったところでイアンさんが伝言を取り次いでくれた。あーあ、あそこ秘書官邸ってなっちゃったんだ。黒猫君が微妙な顔つきでイアンさんに問い返す。


「なんでわざわざあっちに行かなきゃなんねーんだよ」

「それは今度こそ陛下の馬車にご一緒していただくためです」

「いらねー。あゆみと二人で先に行くって伝えといてくれ」

「そ、そんな事言えるわけありません、どうぞ一緒にいらして下され」


 黒猫君の返事にイアンさんが泣きそうな声で縋りついた。黒猫君も流石に可哀想に思ったのかため息をついて私を抱き上げ、一緒にイアンさんの後ろについて領城へと向かった。


「入れ」


 イアンさんがキールさんの部屋の扉をノックすると中からキールさんの返事が聞こえてきた。


「一緒に行くんなら急げよ、そろそろ出るぞ」


 黒猫君が偉そうにそう言いながらキールさんの部屋に置かれたテーブルに向かうとキールさんが顎で目の前の椅子を指し示しながら「座れ」っと短く答えた。部屋には他にもアルディさんとエミールさん、それにテリースさんが一緒にいる。そう促されて黒猫君が私を抱えたまま椅子に腰掛けた。


「昨日は忠告をやる暇もなくそれぞれ動いちまったが今日はあいつらと話す前にテリースからいくつか注意しておく事があるそうだ」


 キールさんがそういうとテリースさんが小さく頷く。


「キーロン陛下には昨日のうちにご忠告しておいたのですよ。お二人にも同じことをお伝えしましょう。いいですか、あの二人に限らずエルフが口にした言葉は一度頭で考えて心で疑って間違ってると仮定して質問をしてください」

「そ、それはいくら何でも酷いのでは?」

「それくらいでちょうどいいんです。よく聞いてください、彼らは我々の何百倍も長く生きています。見た目は何故か似ていますがもう生物として我々とはかなり違う者たちなのですよ」


 そう言ってテリースさんが小さくため息をつく。


「彼らに悪気はこれっぽっちもありません。それが余計むづかしいのです。小難しい言い回しをしたり周りを自分たちの都合のいいように操作しようとするのは彼らの性分であり習慣であり常識です。彼らは嘘は言いませんが本当のことも言いません。特にネロさん」

「俺か?」

「はい。あゆみ様は特別です。シアン大叔母様を救い出した事実は今後永遠にエルフによって語り継がれ彼らから絶対の支持を受けるでしょう。全ての都合や論理を超えて彼らはあゆみさんを助けようとします」


 そこまでいってテリースさんが哀れみの目を黒猫君の方に向ける。


「ですから彼らはより一層高い要求をあなたに課すでしょう。あゆみさんの伴侶となっているあなたに」

「げっ」

「あの人たちのことです、先ずはあなたの誠実さを試すようなことを繰り返すでしょう。……いえ、もうされたんじゃないですか?」

「……されたな」


 黒猫君が眉根を寄せて天井を仰いだ。

 聞いていて私のほうが青くなる。

 え? 昨日のあれそういうことなの? だってシアンさん達は直接何もしてない、と思う。

 そんな私の考えを見透かしたようにテリースさんが説明を続けた。


「やはり……。昨夜もいつの間にかバッカスさんたちはいなくなってるしあなた方は泊まることになっていたのでもしやとは思っていました。彼らは用意周到なんです。自分たち自身の手で何かを仕掛けたりは絶対しません。周りを巻き込んで状況を作り上げるのです。なんせ暇と時間はたっぷりと持て余してますしそうでなくても必要以上に頭が回ります。そして……そして一度でも彼らの理想をネロさんが裏切れば全力で排除しようとするかもしれません」


 うわ、そんなのヤダ! そっかなんかシアンさんとシモンさんの態度が私と黒猫君で違う気がしてたのはこのせいだったんだ!


「とにかく先ずは直ぐに頷かない。必要なら黙り込んで時間を稼ぐ。質問は尽きるまで繰り返す。出来れば返事は保留して時間を置いてから返す。これが私から出来る最大の助言です」


 テリースさんがそう言い終えた頃には黒猫君がもう聞きたくないというように耳をぺしゃんと伏せ、すっかりやさぐれた様子で机の端を睨んでた。

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お読みいただきありがとうございました。
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