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閑話 黒猫のぼやき3

 テリースの話の中でたった一つの明るいニュースは、実はこの世界にエルフがいるって事実だけだった。テリース自身がエルフのハーフだって言うが、耳の尖ってないエルフなど俺は認めない。

 エルフだぞエルフ。

 どっちだ?

 純真系か? エロ系か?

 妄想が一部ヒートアップして戻って来なくなった。


 エルフは現代にはいなかった。

 西欧東欧北欧と色々歩き回ったがいなかった。いや、別にそれが目的だった訳じゃない。誓って違う。だけどいなかった。

 煩悩……じゃなかった雑念を払って話に再度集中する。


 エルフの里。あるらしい。いつか絶対行ってやる。この際猫の身体だってかまわない。

 ちがう! 話だ。


 まず、この街はすっかり陸の孤島になってるらしい。狼人族の侵攻はすでに隣の町まで行くことも出来ないところまで来ているようだ。しかも物資の流通はその前からすでに途絶えているらしく、ここが干上がっちまうのも時間の問題だろう。

 聞けば近年、主な穀物である麦を隣町からの供給に頼ってきていると言う。日本が米を輸入に頼るって言うのと同じだ。輸出側が出せなくなったらそこでアウト。

 硬貨の貨幣価値は完全になくなってる。現代ほど硬貨自体の価値が低くないのでまだこんなもので安定しているが。これがどっかの国みたいに紙幣ばっかだったらゴミ袋一杯の紙束持って買い物に行くことになってただろう。すると次は貨幣自体が意味をなくして外貨しか使えなくなる……って言っても外貨なんてここにはないだろうけど。

 その上、他の街から物資が届かないからインフレ。

 街の取りまとめだったっぽい教会がみんな逃げ出して空っぽ。


 詰んでる。マジで詰んでる。


 そして一番始末に負えないのが。こいつら全然本気でマズいと思ってない。

 1年かけてじわじわとこうなったのが悪いのか。

 それまでが結構ましだったのが悪いのか。

 それともこのテリースが元奴隷だからなのか。

 俺は南米で最近酷いことになってる国を思い出す。あそこも確か3年で地獄に変わった。


 マズい。非常にマズい。

 日本でならこういう情報も入ってくるから前もってここまで危ない所には近づかなかった。バックパッカーや同様のサバイバル系の仕事をしている連中も結構情報を送ってくれる。

 俺は別に自殺志願者じゃない。サバイバルは自然に近い距離で生きるのが楽しくてはまっただけで、戦争に行きたいわけじゃない。まあ、腕っぷしには自信があったが、だからこそそんなバカげたリスクを取ったことは一度もなかった。


 どうも中央政府とやらはもう落ちてる気がする。

 途中で出てきた転移者の末路らしきものも気になる。

 初代王は間違いなく日本人だろう。なんかちょっと年上臭いが。500年目辺りで国を分けたのは新しい転移者か。となると、下手をするとすでに他の転移者が中央で無茶やってる可能性もある。

 これが統一国のままだったら放っといてもいいかもしれないが、南に同様の大国があると言う。このままだと下手したら俺達まで本格的な戦争に巻き込まれることになるかもしれない。こっちはまだ流されてきて生活の基盤さえしっかりしてないってのに。


 食糧問題、金銭問題、軍事問題。

 キリがない。


 俺の知識の中でも絶対使わないほうが良さそうな物が頭をかすめる。最終的には王都にも足を延ばすことになるかもしれない。

 あゆみは多分この危機レベルに全く気付いていないと思う。今下手に話すと怖がらせるだけだろう。もう少し詳しいことをキールと話し合ってからのほうがいいか。でもこいつも当事者なんだよなー。一緒に連れていくべきだろうか。


 テリースに頼んで明日一緒にキールのところにも行くことを決める。テリースがやけにうれしそうな顔であゆみを抱えていくと宣言してた。今も、自分でもう階段も上がれると言っているあゆみのことを、宥めすかして有無を言わせず抱え上げやがった。

 俺にはしてやれないんだからここは感謝すべきなのに、イラっときて先に部屋を出た。自分の態度に胸糞悪くなる。

 上がってきたテリースはわざとあゆみに見えないところで俺にウィンクしやがった。やってろ。俺には関係ない。

 ちょっとイライラが募ってあゆみに毛が乾かないと文句を言えば、テリースがニヤニヤ笑いながら乱暴に俺の毛皮を手拭いでこすり上げ風を送ってくる。

 風魔法か。やっぱり魔法があるのとないのでは大きな違いだよな。


 テリースが部屋を出ていった途端、何を考えてるのかあゆみが俺を抱きかかえようとする。抱き枕か何かと勘違いしてないか?

 するりとあゆみの腕をすり抜けて、でもなんか悔しくて足元で丸まった。そんな俺の気も知らないで、あゆみが突然話しかけてきた。どうもまだ興奮が治まらず眠れないらしい。

 テリースの話についてかと思えば今日の料理のことだった。

 そりゃそうか、こいつ、まだこの危機的状況が分かってないんだもんな。暢気なものでうらやましい。


 これからも頑張るそうだ。

 それはそれでいいだろうと頷いていれば。

 ここまで来てこいつ、マッタリした生活がしたいんだそうだ。

 明日生き残れるか分からないってのに。

 まあ、初代王みたいにハッチャケるよりはいいのか?

 そんなことが出来たやつがいたってことは、何かしらチートがあるのかもしれないし、普通なら無双とか狙うよな。

 それがマッタリだとさ。


 突然おかしくなる。

 あんなに色々考えていた最悪の状況が、なんかなんとでもなるような気になってきた。

 すげーな。

 女って自分勝手に自分の周りだけ見てるようで、実は結構大切な所だけはちゃんとカンで守ってるっぽい。


 しばらくはこいつのマッタリ出来る努力ってのに付き合うのもいいかもしれない。下手に熱くなったら俺だっておかしくなるかもしれないし。そうでなくても、結構ヤバい知識もあったりするのだから。

 機嫌が上向いたついでに、気分よく明日の本当のプランをあゆみにも聞かせてやった。あゆみのやつ、目を輝かせて「なんで今言うのよ、寝れなくなっちゃう!」とブツブツ言っていた。

 それを聞いた俺は満足しながらまた足元に戻る。思っていたよりも気分よく瞼を瞑った。


 明日は忙しくなるな。

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