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異世界で黒猫君とマッタリ行きたい  作者: こみあ
第10章 エルフの試練
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14 予定外の収穫

「それで今回の効果はこれだけか」


 庄屋の屋敷の外に様子を見に出た俺はため息を付くしかなかった。

 あり得ねー。

 庭先がボコボコになって筍が土を盛り上げて先っちょを出してやがる。

 その横では屋敷内の菜園に作られていたナスが元の茎が見えない程実をつけていた。

 すぐ横には灌木がシイタケらしきキノコで埋め尽くされてる。あっちは枝豆か?

 これをこれだけと言ってしまってから絶対狂ってきてる自分の感覚に自分でもため息がこぼれた。


「……魚が欲しいな」


 俺も図太くなったよな。あゆみに文句言うより先に食う事の方が頭にあがってくるようになってきた。


「残念ながらお魚はまだ手に入りませんがタニシなら取れていますよ」


 後ろでシモンがボソリと付け加える。こいつも大概だよな。この前一度神殿前であゆみの成長魔法を目の当たりにしてるせいか全然動じちゃいねー。


「タニシって食えるのか?」

「食べられますよ、佃煮にすると酒に合います。でも残念ですねぇ。あとはお刺身でもあれば完璧でしょうに。ちょっと人を呼んで収穫させて今夜の料理にも使わせましょう」


 そう言ってシモンがホクホク顔で戻っていく。完璧なまでにこの状態の異常さを無視しやがったな。

 とはいえここで一人で文句言ってても仕方ねーから集まってきた連中に適当な説明だけして俺も元いた大広間へ戻った。


 俺が外に見に行ってる間にどうやらバッカス達も戻ってきていたらしく、部屋に入れば一緒に机を囲んで和やかにお茶なんか飲んでやがる。


「おいあゆみ、お前自分がやった事をすっかりほっぽらかしてそれかよ──」

「あ、黒猫君凄いよ! こっち来て早く!」


 俺がせめて一言くらい愚痴ってやろうと口を開いたのにあゆみがパッと顔を輝かせて俺の名を呼んだ。情けねーがそれだけで一気に気分が晴れちまった俺はあゆみが横に開けてくれたスペースに滑り込んで胡坐をかいた。


「見て黒猫君、ぼた餅! ぼた餅だよ!」

「お、ほんとだ」


 あゆみが一つ分けてくれたそれは俺も覚えてる飯をアンコでくるんだ代物だった。


「うわ、この村アンコあったのか」

「すごいよね」

 あゆみがスゲー嬉しそうな顔でぱくついてる。

 俺もあっという間に一つ目を平らげる。しかもこれしっとりしててほんのりと甘くスゲー旨い。

 そうかここには前から砂糖があったんだもんな。多分教会の制限がなくなって自分たちでの消費も出来るようになったんだろう。やっぱ砂糖はいいな。ついもう一つに手がかかる。

 そんな俺たちを横目に見ながらバッカスがニヤニヤしながら言いやがった。


「気に入って良かったな。農村の奴らがお前らへのお供えようだって言って張り切ってたからな」

「ブッ!」


 バッカスの言葉に一瞬で喉が詰まった。あゆみも吹き出しそうになるのを必死でこらえてる。


「猫神様と巫女様に喜んでいただけたのなら村の皆がスゲー……凄く喜びます」


 俺は喉に詰まったぼた餅を何とかお茶で飲み下しながら横でそんな事を真顔で言ってるヒロシの頭を軽く小突いた。


「いい加減にしろよ、何度言えばいいんだ。俺は猫神なんてもんじゃねー。確かに最初に出会った時は他に方法がなくて騙すような事言って悪かった。あん時は俺も切羽詰まってたからついそうだって言っちまったけどな。俺はほんとに普通の……普通の……猫の人間だ」


 自分で言ってて自信がなくなった。

 ……猫の人間って一体なんなんだよ。

 待て、久しぶりに考えがここに至ったぞ。俺ほんとに一体何者なんだ?

 そう言えば最近じっくり考えた事なかったな。すっかり人型が当たり前になっちまってるし、耳も尻尾もこの超キレのいい身体能力も全部すっかり慣れちまって当たり前になってた。あゆみと一緒にいても特に違和感ねーし誰ももう俺の耳や尻尾に特別関心払わなくなっちまってるし。


「ネロさん。ここの者たちにとってあなたは充分神様なのですよ。なんといってもここの皆を救ったのはあなたとバッカスさんなんでしょう?」


 っと。全く違う事考えてた俺に思わぬところから思わぬ言葉がかかった。それは部屋に戻ってきたシモンだった。それを聞いたヒロシが嬉しそうに頷いてる。


「じゃ、じゃあなんでバッカスはバッカスのままなんだ?」


 俺が焦って聞き返せばヒロシが嬉しそうに胸を張ってこたえる。


「バッカスさん達はいっぱいいるから犬神さんって言うにはむずかしいじゃん」

「……バッカス、どうやらお前らも犬神らしいぞ」


 俺がせめて精神的犠牲者を増やして気を紛らわせようとそう言えばバッカスが片眉を上げて答えてきた。


「別に。犬扱いはごめんだが尊敬されるのに越したことはねぇだろ」

「お前、たまに大物だよな……」


 なんでもなさそうにはっきりとそう答えるバッカスを見てるうちに俺もそれ以上文句言うのもなんか馬鹿らしくなってきた。

 よく考えればこう見えてバッカスも一族をまとめ上げる長だもんな。これくらいの崇拝はあまり気にならねーのかもな。

 俺たちがそんな話をしてる間もふと気づけばあゆみがニコニコと嬉しそうに一人でぼた餅を食いまくってる。結構な数が乗ってた盆の上からあっという間にぼた餅が消えていく。


「太るぞ」


 俺たちの話にまるっきり興味を示さないこいつについ、イラっとして言っちまった。

 すぐに後悔した。

 何気ない俺の忠告は思いっきりあゆみの神経を逆なでしちまったらしい。スッと表情が消えて真っすぐシアンを見ながらぼそぼそと喋り出した。


「黒猫君、私ここに泊まる事にしたから。今夜はシアンさんと話したい事が色々あるし、黒猫君は一人で領城に戻るといいと思うよ」


 しまった、こいつ変に体重の事気にするんだった。


「ま、待てあゆみ、今の単なる冗談だ」

「ネロさんたらいけない人ね。冗談で女性にそんな事言うなんて」


 あ、チクショウ。シアンの奴が面白がって煽ってやがる。

 え、なんだ? 冗談って言っちゃいけなかったのか!?


「違う、本当に悪かった。あゆみ怒るな。別に少しくらい太ってても俺は全然気にしてない」


 ああああ、あゆみの形相が一気にヤバいレベルで冷たくなった。

 今俺何言った? 何がマズかった?


「バッカス、黒猫君を咥えて領城までハウス!」

「おう、任せとけ」

「ばっ、いい加減にしろ、だから悪かったって、あ、バッカスやめろ、喰い付くな、っていうか抱えるな、おい!」


 それから暫く俺はバッカスと大広間の床が抜けるんじゃねーかって程組みあってもみ合って逃げ回ってその間中あゆみに謝り続けてやっとなんとか許してもらった。

 あゆみに体重の事は禁句だ。

 分かってたのについ油断した。

 いやマジであゆみ全然重くねーし、いっそもうちょっとふっくらしてくれるのは俺的には結構嬉しいんだがどうもその辺はまるっきり理解してもらえないらしい。


 二度と余計なことは言うまい。


 俺は今度こそそう心に誓って最後に一つ残ってたぼた餅をひょいッと口に放り込んだ。

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お読みいただきありがとうございました。
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