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異世界で黒猫君とマッタリ行きたい  作者: こみあ
第10章 エルフの試練
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5 エミールさんのお仕事

 私たちの興奮が少し収まるのを待ってキールさんが一息入れてまた話し始めた。


「さて、あゆみとネロだが。君たちにはここに滞在している間にイアンと共に貧民街に行ってもらいたい。イアンの報告によるとやはり獣人と奴隷に関する勅令の施行が難航してるそうだ。必要ならアルディと兵士を連れて行って実力行使してもらっても構わないから2日以内に何とかして北に向かって欲しい」

「また無茶なスケジュールだな」


 黒猫君は文句を言いつつもなんか考えこんじゃった。それを横目に私もちょっとキールさんにお願いしてみる。


「キールさん、忙しいのは分かってますが私、どうしてもやっておきたい事があるんです。ちょっとだけでもいいのでお願いですから研究所に寄らせて下さい」


 この前釘を刺されてたから反対されるかと思えばキールさんはすぐに頷いて了承してくれた。


「ああ、あちらからも報告が上がってきていた。どうしても早急に君の指示が必要だそうだ。アルディも兵舎に戻らなけりゃならないし、この後ネロと一緒に馬車でひとっ走り行ってこい」


 やった! これで出発前に残していった作業の確認が出来る。


「キールその前に俺もちょっと頼みがある」

「なんだ」


 私が喜びを押し隠してキールさんに頷き返してると、黒猫君もキールさんに何か頼みごとがあるらしく私と入れ替わりに静かに尋ねた。


「俺をここの学校に行かせてくれ」

「え?」

「……魔術研究所付属学院のことか?」


 私は驚いて聞き返しちゃったけどキールさんは何だか予想してたみたい。


「ああ。一度ちゃんと自分が学校って所で何か勉強できるのかやってみたい。あそこなら向こうから誘ってくれてるし今後戦闘をするにしてもあんたの下で仕事をするにしても覚えておいて損はないだろう」


 キールさんがゆっくりそれに頷き返すと少しほっとした顔で今度は私に視線を移す。


「それと出来ればあゆみも一緒に行かせたい。俺が魔術を覚えるにはあゆみの助けが必要だし、今回の襲撃でつくづく思ったがあゆみには自衛できるだけの知識をつけさせた方がいいと思う」


 思いもしなかった黒猫君の進言に私は目が点だ。一体どこから私の話が出てきたんだろう?

 でも戸惑う私を他所にキールさんはやはり鷹揚に頷いて同意しながら私に向き直る。


「あゆみに関しては俺も同意見だ。軍にいれれば二人一度に教育させられるがあゆみを軍籍に入れるのはなるべく避けたい。かといってどうにも俺たちはいつも忙しくて君たちの魔術訓練にちゃんと時間を取ってやれてないからな。あの学校なら体系立てて魔術を学べるだろう。ネロもあゆみも一度あそこで訓練してもらうのは悪くない案だがまずは北の始末をつけて帰ってきてからになるぞ」

「ああ、俺もそのつもりだ。もしその後中央に行くことになるとしてもその前にもう少し自分が出来る事を増やしておきたい」

「あ、それなら私はもう少しちゃんと治療関係の魔術を習得したいです。テリースさんに基本を教わりましたが後はやっぱりシアンさん達にお願いするしかないと思うんです」


 私の言葉に今度はキールさんが「エルフの魔術か」とつぶやき顔を顰める。


「あゆみ、そのことだがな。今日テリースが前もってシモンとシアンに君たちを陥れたり悪用しないよう交渉してるはずだがよくよく注意して欲しい」


 え、まさかそのためにテリースさん今日は貧民街に行っちゃったの?


「エルフは交渉が恐ろしく巧みなうえ、一度契約したらそれを非常に尊びしつこく忘れない。明日貧民街に行くついでにそちらに寄っても構わないが決して安易に彼らの申し出を受けないで欲しい。彼らの寿命を考えれば下手な契約をすると一生付きまとわれるぞ」

「テリースのように、ですよね」

「え?」


 キールさんが脅かすように注意を重ねると横でアルディさんが苦笑いしながら説明を加える。


「あゆみさん達も聞いているはずですよ。テリースはキーロン陛下のお母様から指名されてキーロン陛下の従者に着きました。その時に生涯お仕えする事を誓ったそうです」

「ああ。だから何をしようとあいつは俺の後をどこまでもついてくる」


 アルディさんの説明にムスッとしながら何度もうなずいてるキールさんはだけどそれほど嫌そうには見えなかった。


「それで陛下僕は何をいたしましょうか?」


 私たちの話し合いが一段落して静けさが一瞬場を満たすとエミールさんがコテリと小首をかしげ、ニッコリと微笑みながらそう尋ねた。すると今度はキールさんが呆れ顔でエミールさんを見返す。


「お前には自分の仕事が山積みのはずだろう」

「なんのことですか?」

「この街の税収の計算はどうした? 街の収支は? 共済金への切り替えもするように言っておいただろう。この前の高位貴族と教会の奴らの尋問もまだ終わってないんじゃないのか?」

「全て終わりましたよ」

「はあ?」


 キールさんの質問にしれっと答えたエミールさんがお茶のカップを置き指を立て話し始める。


「街の今年度の税の徴収と収支につきましては今まで実際にその作業に当たっていた文官のうち、今回の騒動に加担しなかった者を大臣に抜擢しました。下級貴族でしたので正式な承認は本日のキーロン陛下の承認を持って決定しますが先駆けて仕事は始めてもらっています。その下に新政府から数人人を寄こしてもらって共同で計算にあたっててもらっています。そろそろこの半期の収支の試算が出てくる頃ですよ」

「そ、そんなに早いんですか?」

「まあ、下級貴族が大臣に就きましたからね。周りのプレッシャーもありますし、あれから1週間どうやら彼らは寝る間も惜しんで働いてくれているようですよ」


 これエミールさん確信犯だよね?

 エミールさんの余裕の笑みを見てすぐに不機嫌そうにキールさんが言葉を続けようとする。


「共済費は──」

「共済金への切り替えは下っ端の司教のうち教会内の資金繰りに詳しかった者を免責を条件に無料奉仕させることになりました。教会とは縁を切って地下の一室に缶詰めになってもらってます。実際の徴収はギルドが窓口を引き受けてくれました。こちらの計算も先ほどの大臣以下が最終的に用途のやり繰りをしてくれています」

「尋問は──」

「ああ、尋問はカールと数人兵舎からお借りして全て片付けました。ついでに兵士の余暇を使って手間賃を出して綿の取入れも終わらせてあります。教会の敷地内にあった農村の者たちが綿花の始末を熟知していたのでただ今木綿の生産を始めたところです。それから教会と神殿に関しましてはそれぞれを塀で区切って農村と分けました。農村の皆さんはそのままあそこで生活を続ける事で同意しています」

「…………」


 エミールさん、すごい。

 前にキールさんもエミールさんはやらせれば有能だって言ってたけど、キールさんでさえ黙り込むほど全部完璧に終わらせちゃってたらしい。しかも執務机の上には何も乗ってない。


「お前がどれだけ人生を舐めまくってたのがよく分かるな」


 やっとのことでキールさんが憎々しげにエミールさんにそう言うとエミールさんが嬉しそうにキールさんに答える。


「お褒め頂いて光栄です。他に緊急の用件が見つからないようでしたら僕はまた可愛い小鳥を追いかける放浪の旅にでも──」

「どこの世界にやる事がないからって女漁りの放浪に出る領主がいる! お前はやる事があろうがなかろうが毎日そこに座ってろ」


 あ、やっぱり怒られてる。でもエミールさんはそれを凄く嬉しそうに享受しちゃってるからキールさんのお説教はエミールさんにあんまり有効じゃないようだった。

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お読みいただきありがとうございました。
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