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異世界で黒猫君とマッタリ行きたい  作者: こみあ
第9章 ウイスキーの街
223/406

1 寝坊

 黒猫君……

 黒猫君……


「黒猫君ってば!」

「んぁ……?」


 どっかであゆみの声がするとは思ってたけどやけに眠くてどうしても目が開けられなかった。

 しばらくするとまた揺さぶられて目が開いた。


「起きてってば」


 片目だけ開けて周りを見回すとなんか見覚えのない部屋だった。


「あゆみ、ここどこだ?」

「何寝ぼけてるの? 黒猫君の部屋でしょ」


 ああ、ここは治療院の俺の部屋か。数日しか寝た事なかったからすぐに分からなくても仕方ないな。

 視線を横にずらせばあゆみがベッドの横に立ってた。


「先に起きたら起こしてくれって言ったの黒猫君だからね」


 そうだった。昨日はナンシーから帰り着いてあゆみはすぐにポールたちに捕まって俺は兵舎の方で挨拶回りと押しかけてきたドンタスにせがまれて酒の味見してあっという間に半日過ぎて……


「外でバッカスたちが待ってるよ。黒猫君が投擲やってあげることになったんでしょ。それから風車小屋と水車小屋の視察して農村の状況の聞き取りと借り出した人手の精算と教会の整理と……うわ!」


 聞いてるだけで滅入っってきた。

 だからあゆみを引っ張り込む。

 ベッドに。

 片足のあゆみはもちろんバランスを崩して倒れ込んだ。

 それを引き寄せて抱き込む。


「やっぱお前いないとよく眠れねえ」


 昨日はやたら眠りが浅かった。すっかりあゆみを抱えて寝るのが習慣になってていないと落ち着かない。

 抱き込んで安心した俺はスッとまた寝落ちしそうになる……


「ちょ、黒猫君! 駄目だから! 起きて! 起きなさい!」

「……お前真面目すぎ。あと5分だけこのまま寝かせて」


 腕の中で暴れるあゆみを肩を叩いてどうどうと落ち着かせながら俺は、寝た。




「全くもう」


 黒猫君が寝ちゃった。

 まあ仕方ないか。昨日は本当に遅くまで飲まされてたみたいだし。

 私だって昨日はよく眠れなかった。

 ナンシーから帰り着いたら一通り皆からおかえりなさいのラッシュを受けてなぜか気がつくとポールさん達に囲まれてた。今にも担ぎ上げそうな勢いで執務室に連行されて怒涛のお仕事。

 どうやら個人の台帳の方は全て終わったらしいのだが商家の台帳と、個人営業などの副業がある場合なんかの手続きをどうするか決めかねてたらしい。それに元貧民の不正規な商売が重なってとりあえず資料だけは集めたけどどう処理するかで意見が分かれてたのだそうだ。タッカーさんがまた途中から色々と案を出したらしいのだがどうもポールさん達は受け入れたくなかったらしく。

 私だってそこまで行っちゃったら門外漢だ。台帳の処理は大学でやる情報処理とデータベースの管理から思いついただけだし。

 昨日はそのままこれまでに完了した個人台帳の確認だけで夜中までかかっちゃって結局タッカーさんには今日会いに行く予定。

 それだって「いい加減にしてください!」とクロエさんが止めてくれなければあのままいつまで続いてたのか分かりゃしない。

 それで疲れ切って部屋に戻ったら当たり前だけど黒猫君がいなかった。

 クロエさんに聞くとまだドンタスさんに捕まってるらしい。

 あっちは誰も止めてくれないもんね。

 仕方ないので私は黒猫君に声を掛けようとクロエさんと一緒に食堂に行って見れば黒猫君、結構酔っ払ってた。

 私の横に立ってたクロエさんをちょっと見てから頭を掻き掻きろれつの回らない声で話しかけてきて。


「あゆみ、どうやらちょっと酒がすぎちまったぁみたいだ。明日起きらんねーとバッカスがうるさいからお前が起きたら起こしてくれ」


 そう言ってフラフラ自分の部屋に行っちゃった。

 うーん。そりゃそうだ。黒猫君には自分の部屋があるんだから。

 それでもなんか今ひとつ納得できないでいるとクロエさんがクスクス笑いながら私に付いてくる。


「お二人ともお忙しくてこれでは中々一緒にいられませんわね。ネロ様も私に遠慮なさらずに奥様に声を掛けられればよろしいのに」


 え、黒猫君、クロエさんがいたからとっとと一人で部屋に行っちゃったのか。

 すっかり黒猫君と同じ部屋に寝ることに慣れちゃった私はクロエさんが整えてくれたちょっと硬いベッドの上でなんだか眠れない夜を過ごした。


 そう。これが足りなかったんだよね。

 後ろから抱きしめてる黒猫君の体温。

 すっかりお馴染みになっちゃっててない方が落ち着かなくなっちゃった。


「……私起こしたからね」


 それだけ言って、でも私もそのお布団と黒猫君の体温の誘惑には逆らえずそのままストーンと眠りに落ちちゃった。




「まったくあなた方は。今日は色々予定が詰まってるんですが!」

「……すまん」

「す、すみませんでした!」


 結局黒猫君も私も5分じゃ起きなかった。気を利かせたクロエさんもわざわざ起こしに来なかった。

 目が覚めたらお日様が中天に行っちゃってた。

 あきれ顔のテリースさんが文句を言ってるけど後ろでキールさんは一人ニヤニヤしてる。


「バッカスには今日は帰ってもらいましたよ、明日からちゃんとお願いします」

「ああ、仕方ないから明日の朝は倍投げとくよ」

「あゆみさんも今日はタッカーから面会の嘆願が来ています。どうされますか?」

「あ、助かった! ちょうど会いに行きたいと思ってたんです。タッカーさんのお話を確認しなきゃならないので」

「ではなるべく早くお帰り下さい。戻り次第本日の授業に移りますので」

「それ、本当に受けなきゃダメなのか?」

「ネロ、お前だけじゃない。俺だって受けさせられるんだ、諦めろ」


 テリースさんが言ってるのは今日から始まる王室での礼儀作法、簡単な歴史などの授業の事だ。

 テリースさんが私たち3人に教えてくださることになってる。

 どうもやっぱりあの高位貴族会議での私たちの対応はあまり宜しくなかったらしい。あれを後ろで見ていたアルディさんが新政府のイアンさんと相談してここに滞在してる間に最低限のこちらの教養と礼儀を教え込んで欲しいとキールさんに奏上したのだそうだ。

 それを聞いたテリースさんがならばキーロン陛下もご一緒にと言って藪蛇のキールさんも同席する事になってしまった。

「授業を始める前にちょっと打ち合わせもするからよければバッカスも呼んできてくれ」

「じゃあビーノを借りてくぞ」

「ああ、だったらパットも連れてけ。ビーノをここの兵舎と貧民街に顔つなぎしてこい」

「分かった」

「キールさん、このままミッチちゃんとダニエラちゃんはトーマスさんのお手伝いさせていただいてていいですか?」

「それだがトーマスもすっかりあの二人を気にいったらしい。正式にキッチンスタッフとして雇って欲しいそうだ。あゆみそれでいいか?」

「それはもちろん! あの二人に異議がなければ是非そうしてください」


 ミッチちゃんもダニエラちゃんもナンシーにいた時から厨房のお手伝いは大層気に入っていた。特にトーマスさんは優しいから彼の下で教えてもらいながら働けるならそれにこしたことないよね。


「ビーノの扱いはもうちょっと考えたい。実は向こうを発つ前にナンシーの兵舎と王立研究所の奴らがどうしても彼をこのまま欲しいと言ってたんだ。だが彼の場合そうなると軍か研究室に帰属する事になる。ミッチとダニエラの二人がこちらに残るのなら彼も残りたがるかもしれんしな」

「そうですね。ここを発つまでにビーノ君にもどうしたいか聞いてみます」

「そうしてくれ」


 こうして黒猫君に抱えられた私はビーノ君とパット君と一緒に兵舎へと向かった。

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お読みいただきありがとうございました。
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その他の情報は必要に応じて追加していきます
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