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異世界で黒猫君とマッタリ行きたい  作者: こみあ
第8章 ナンシー
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88 司教たち

「あ、姉ちゃん、兄ちゃん、お帰り」

「お帰りー」

「帰り」


 部屋に戻るとビーノ君たちがそろって返事をしてくれた。


「あゆみおかえり。お風呂に行くのに君を待ってたんだよ」


 ヴィクさんがビーノ君たちと一緒に彼らのベッドに腰かけて私を見上げた。


「あ、ありがとうヴィクさん、じゃあ一緒に……ってあ」


 しまった! こんな状態でお風呂一緒に行けないよ!

 返事の途中で固まっちゃった私をヴィクさんが怪訝そうな目で見返してる。


「あゆみ、今日中にさっきの報告をキールにしに行った方がいいんじゃないか?」

「え? なんの……あ、そうだね。黒猫君一緒に来てくれる?」


 黒猫君の助け舟に一瞬気づかずに答えそうになって慌てて言葉を切り替えた。それを見てたヴィクさんが何かを察してくれたみたいでニッコリ笑って答えてくれる。


「そうか。じゃあ私たちは先にお風呂行ってくるよ。君たちが帰って来ない様なら子供たちはここで寝かしつけておくからな」

「あ、ありがとうヴィクさん」


 素直にお礼を言った私とは裏腹に黒猫君がちょっと顔をしかめた。なにを気にしてるんだろう?


「じゃあまた後で」


 そう言って私は黒猫君に抱えられてキールさんの執務室に向かった。




「ああ、丁度良かった、今呼びに行かせようと思ってたところだった」


 私たちがキールさんの執務室に入ると疲れた顔のキールさんがこちらを振り向いて微笑んだ。


「なら良かったな。俺たちはわけあってちょっと避難しに来ただけだから」

「ん? まあいい。まずは座れ」


 そう言われるまでもなく黒猫君が私を一つの椅子に降ろして自分の椅子をくっつけて横に座る。


「ネロ、いい加減そのあからさまな主張は止めろ。あゆみに呆れられるぞ」


 そういうキールさんの後ろでアルディさんが苦笑いしてる。エミールさんはいないみたいだ。

 黒猫君が流石に顔を赤らめて文句を返す。


「余計なお世話だ。それでなんだ?」

「ああ、今日お前らが雑草の片付けやってる間にこっちはこっちで色々終わらせてきた。まずあのガルマの件だがな。あの時ガルマと一緒だった司教二人の尋問を終わらせてきた」


 そう言ってキールさんが顔を引き締める。


「元々ナンシーの治療院はあまり評判がよくなかったようだ。診てもらいに行っても金がないと相手をしてくれないし、治療代がバカ高かったからな」

「『ウイスキーの街』とはえらい違いですね」

「いや、あそこだって昔はそこそこ金をとってたんだぞ。ただ俺が教会に集まる寄付金を還元させるように交渉して一部負担させてたんだ。最後はテリースが一部無料奉仕し始めちまったがな」


 そっか。テリースさん、お金に厳しいだけじゃなくて治療が必要な人からは取ってなかったんだね。


「それが去年ガルマが3人目の司教長に選ばれ、あそこの治療院を任されたあたりからここでも無料で治療するって話が街に広まった。同時にあの二人も一緒に治療院の担当になったんだそうだ。事実彼らは無料の治療を始めたらしいんだがそれに文句をつける司教長はいなかったそうだ」

「多分何かしら別の金が動いてたって事だな」


 黒猫君の言葉にキールさんが頷く。


「最初は話を信じて治療を受けに行く街の者もいたみたいだが、行ったっきり帰って来ないやつが出始めた。最初は患者のうち身寄りのない者を『材料』に選んで薬で眠らせ、ガルマが『素材』になる部位を切り落として処分していたらしい。ところが、あっという間に『入ったら帰って来れない』って噂が広がって誰も来なくなった。そこで仕方なく奴隷の中ですでに身体の一部を失ってる者を買い叩いてきたり果ては適当な理由をつけて貧民街の連中を『非人』に仕立て上げて連れて来てたそうだ」

「そんなひどい」


 治療に来た人を勝手に切り刻んでそれでも足りなくて貧民や奴隷の人までまるで単なる材料みたいに扱ってたなんて。なんでそんな……


「その切った手足はどうなってたんだ?」


 黒猫君も同じことを考えてたのか顔をしかめてキールさんに問いかける。それに答えるキールさんの顔も暗い。


「毎月中央から来る商船にのせて出荷してたそうだ。あそこにあった桶や取引に使われる箱、必要な書類なんかも全て中央から来てたらしい」

「なんでそんな大がかりな事やってたのにお前ら軍の奴らが気づかなかったんだ?」


 黒猫君の問いかけにキールさんの顔色が一層暗くなった。


「まずこれが始まったのは俺がここを発ってからだった。しかも船着き場の警備は基本領城の兵が受け持っている。それでも噂ぐらいは聞いてたエミールが探りを入れても何も証拠は出てこなかった。覚えてるか? この街で取引される物の中には一つ市場を通さずに出荷が特秘されてる物があるのを」

「……銀か」

「ああ。銀の取引だけは長らく教会と領主が共同管理してきた。北の鉱山から流れてくる銀は直接船着き場にある教会の倉庫に運び込まれ領主の文官の立会の元確認して中央に出荷していた。まあこの二者がお互いを見張ってた訳だが」

「傀儡になった領主はガルマに従ったわけか」

「そういう事だ。あの二人の話だと、月々船で出荷する銀の箱が数個増えたくらいでは誰も気づかないらしい。どういうわけかガルマは中央の奴らの要求を知っていて必要な数だけ必要な物を集めては出荷していた」

「その文官は捕まえられないのか?」


 黒猫君の質問にキールさんが頷く。


「庄屋の屋敷で捉えた高位貴族数人を尋問したところそのうちの数人がその銀の出荷の立ち会いを請け負っていたのが判明した。だが残念ながら単に教会から足される箱は開けないよう言いつけられていただけでそれ以上は何も知らないようだ。その見返りに奴らはあの庄屋の屋敷で接待されていたそうだ」

「ガルマかナンシー公が『連邦』か中央の何者かとつるんでたってのが一番ありそうだがどちらも死んじまったから真相は確認のしよう無し、か」


 黒猫君が少し悔しそうにそう呟いた。


「それであの子供たちの件も何か分かったのか?」

「一部はな。庄屋の屋敷で接待をしてる時に北に送る従順な人手をナンシー公が欲しがっていると大臣たちから持ちかけられたんだそうだ。ちょうど『材料』にするつもりで捕まえてあった貧民街の子供たちを使ってガルマが作ったエルフ頭の子供を大臣達が気にったので必要なだけの頭数を揃えるためにあの二人が人手を集めて子供たちを『狩った』らしい。だが流石にあの二人もその子供たちの処分にはビビッて基本見てるだけだったと証言してた」

「本当かよ」

「さあな。どの道あの二人には極刑が下りるだろうからもう今更どちらでもいい。ただ、あんな医療処置が出来るのは司教長の司教服だけだそうだ。これはシモンにも確認した。しかも『傀儡の魔術』は彼にしか使えなかったそうだ」

「シモンの話が正しければ『傀儡の魔術』はここの教会しか出来ないんだろう、じゃあその司教服が特別だったって事だな」


 黒猫君がそう言ってまた考え込んでる。私はその間にどうしても気になっていたことを聞いてみた。


「キールさん。エルフ頭の子供たちはともかく、なぜ彼らは獣人頭の子供たちまで作っちゃったんですか?」

「あの二人もそこだけは今一つ知らないらしい。中央から要請があったとだけガルマは言ってたそうだ」

「でもあの獣人頭の子供がお前やエミールを襲った刺客だったんだろ?」

「ああ、残念ながらそれは確認が出来た。ナンシー公から大臣を通して要請があったそうだ。あの二人の司教がそれをガルマに伝え、ガルマが一人で操ってたらしい。どうやら『傀儡の魔術』はガルマさえ教会の敷地内にいれば遠距離でも使えたようだな」

「だが神殿前の様子を考えれば一度に操れるのは一人だけだった。『ウイスキーの街』で襲ってきた奴らとは別口だな」

「そういうことになるな」

「また行き詰ったな」


 そう言った黒猫君とキールさんは二人して同時にため息をついた。

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お読みいただきありがとうございました。
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