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異世界で黒猫君とマッタリ行きたい  作者: こみあ
第8章 ナンシー
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59 包み解除

「この威力、何回見ても引きますね……」


 アルディが顔を引きつらせながら包弾(火)の投擲先を見つめてる。

 俺も人のことは言えない、遠目に見ただけで少し腰が引けてる。

 あゆみの作っちまったこの魔石の詰まった包を俺たちは便宜的に『包弾』と呼ぶことにした。

 ここは城門から離れ、街道からも少し外れた草地の真ん中。昨日猫に戻るために固有魔法を試したあたりだ。


 今日はあゆみはおいてきた。朝食の時に昨日仕入れた教会の情報を説明し、今朝は朝練もスキップしてアルディと二人でこの危険な『包弾』の解除に掛かりきりになるといったら「実証実験なら是非立ち会いたい」と目を輝かせて訳の分からないこと言い出した。こんな危ないもんに連れ出せるかと俺が断ると「データだけでも取らせてくれ」とかなんとかグダグダ言ってたがもちろん知らねえ。ちょうど朝食に降りてきたピートルたちに引き渡して置き去りにしてきた。


 キールから人手を借り出して一人一つづつ、慎重に全ての『包弾』をここまで運び出すだけでも一苦労だった。解除作業は下手に人に見せられないので俺達の作業が終わるまで城門も閉めさせて人払いしてある。おかげでこのただっぴろい草地で周囲の目を気にせずにあゆみが作っちまった不安定な『包弾』を一つ一つ開放することに集中できていた。

 まさか手持ちのまま紙を引き抜いて試すわけにも行かず、アルディと二人で知恵を捻った末、突き出してる紙を長い紐で縛って投擲を繰り返してる。

 興味津々で出てきたバッカスは一発目に垂直に登りたった雷を見て尻尾を巻いて森に戻っちまった。こりゃ教会との対決は先が思いやられる。


 まあバッカスが逃げ出すのも無理はない。あゆみの作った『包弾』の威力はかなりの物だった。

 雷の包弾は数秒とは言え柱のように立ち上がって天を焦がし、火の魔石で作った包弾は一瞬ながら爆発したかのように巨大な火の玉になって燃え上がった。水魔法だって笑えない。俺が手を広げても追い付かないほどデカイ球体の水が表面張力でゆらゆらと揺れながら膨らみ上がってすぐに弾け飛んだ。

 流石に光魔石なら大丈夫だろうと軽く考えて投げようとする俺をアルディが首を振って止めた。言われるままもう一段厚い布で覆ってから投げたにも関わらず、投擲と共に布は消し飛んで煌々と空を焼き上げた。明け方だから街の誰かに目撃されてる事間違いないしだ。頭を抱えた俺を難しい顔をしたアルディが投擲先まで引っ張っていって指を指す。そこには手のひらサイズの穴が空いていた。近くの枝を突っ込むと1メートルほどの深さが空いていた。


「光魔法も上級になると発熱しますがここまでとは……」


 それを聞いた俺は天を仰ぎ、アルディは大きなため息をついた。


「それでこれどうするよ」


 持ち出した『包弾』の殆どを解除した俺は最後に手の中に残ったふたつの包に目をやった。それぞれの包には「生」と「死」って書いてある。ここまでの状況を見ちまうとどっちも投げる勇気が出てこない。そんな俺の隣でアルディがやけに早口で説明を始める。


「通常魔石程度の死石は単に腐敗を遅らせたり眠気を催す程度の効力しかありませんから食料の保管に使ったりするんですが。生魔石もキーロン殿下やあゆみさんのような成長魔法なんてものは出ません。ちょっと体調を整えてくれたり肩コリが取れるのでお守り代わりに買い求めるものなんですがね」


 よく言えばおっとりしている、はっきり言えば飄々としてるアルディの珍しい早口に振り向いて顔を見れば不安でいっぱいだった。

 ああこいつ、不安になると早口になるのか。


「……なあ、これ二つ繋げて一緒に投げちまうか」


 俺の言葉にバッとアルディが振り向く。


「そ、そうしましょう」


 まあ生と死だし、一緒に投げりゃ相殺するんじゃねえかって程度の軽い考えだった。

 早速2つの包を一緒に縛ってなるべく遠くへと投げ捨てた俺は結局後悔することになった。

 俺が投げた先にはどうやらネズミの一家がいたらしい。なぜそんなことがわかるかといえば。

 見てしまったからだ。

 目の前でまるで映画の早回しのような勢いでムクムクと俺の身長より大きくなった3匹のネズミがその場で俺たちを威嚇するように伸び上がったかと思うと突然パタリと動きを止め、次の瞬間壊れた人形のようにバラバラと崩れ落ちていく様を。

 あまりの事態に一瞬言葉もなく立ち尽くしていた俺とは違い、膨れ上がるネズミに反撃を加えようと一歩飛び出していたアルディは崩れる巨大ネズミの体の一部が降りかかってきて慌てて飛び退いた。


「……これ全部封印だな。使い物にならねぇ」

「そうですね」


 俺たちはバラバラになって草原に広がったネズミたちの死体を見下ろして再度ため息をついた。

さっきの雷に吹き飛ばされて出来ていた穴までその巨大ネズミの死体を運んで埋めて、朝練以上に肉体的にも精神的にも疲れ切った俺達はクタクタになって兵舎へと戻った。




「なんだ二人して朝から疲れ切った顔をして」


 アルディと二人でキールの執務室に戻るとキールが開口一番そう言いやがった。俺とアルディは顔を見合わせてため息を吐く。俺たちは文句を垂れる代わりにどちらからともなくキールに『包弾』の威力の報告を始めた。俺たちの報告が終わる頃にはキールの顔色も俺たちと変わらなくなっていた。


「それはおかしいだろ。いくら魔石が結構な数入っていたとしても所詮は魔石だ。なぜそこまでの威力が出るんだ?」

「それはあゆみに聞いてくれ」


 俺は椅子にもたれかかって投げやりに答えながら上を見上げる。だがこれだけは言っておいたほうがいいだろう。


「キール。あの包の作成はマジで全部封印したほうがいい。不安定で危ないったらないからな。だがな、あれ見ちまったら一つだけあゆみに作らせたいもんが出来ちまった」


 俺の言葉にキールが眉を上げる気配がする。


「これがあれば教会を、昨日言ってた農民に犠牲を出さずに襲撃できる可能性が高くなる。だけどこれは俺が知ってるまずい知識の一つだ。使用に制限も付けたいしあゆみや俺から伝わったとかバレるとマジで危ない。どうするよ」


 俺が顔を向けるとキールが思い出したように話し始めた。


「ああ、それだがな。昨日あゆみたちから面白い進言があった。彼らは今後あゆみと一緒に作り上げるものを『キーロン王立研究機関』の名前で発表するそうだ。立案も含め個人の名前を一切出さない代わりに人を増やして全員で発表することで発案者が特定できなくするそうだ」

「ああ、それはいい案だな」


 俺は少し気が楽になる。これから俺が説明する代物は今回の教会との対決には欠かせないだろう。だが一歩間違えたらこの世界の力関係を完全に狂わせちまう。こいつに持たせても抑止力以外には使って欲しくない。

 俺は早速キールに説明しながらアルディにゴブレットを一つ持ってきてもらう。最初は聞き慣れない話に首をひねっていたキールも、俺がゴブレットに入った水で簡単なデモンストレーション見せると一気に目の色を変えて聞き入った。最終的にあゆみへの指示を伝えてそこで思い出してキールに尋ねる。


「そういやあゆみはまだこっちには来てねえのか?」


 食堂で朝食を食べてから別行動してた俺はあいつが今日何をするか聞いてなかったのを思い出した。


「いや、あゆみはその『王立研究所』に篭っちまったぞ」


 俺の問にキールが少し済まなそうに答える。

 別にヴィクが一緒なんだろうしあいつが大人しく研究してるって言うなら俺は構わないんだけど、と思ったのもつかの間。


「しばらく泊まり込むから部屋には帰らないそうだ」


 その一言でぶっ飛んだ。


「はあ?」

「あー、作ってみたいもんが色々あるそうだ」

「昼はどうした?」

「しっかりビーノたちを使って食事を運ばせてたぞ。それどころか食料やら道具やら兵舎のそこら中から集めてる。さっきチラッと覗いたが既に市場から色々買い付けた上に人も呼んできたらしくグチャグチャに混んでた」

「はあ」

「そんでもって俺の所にこんなもんが届いた」


 そう言ってヒラヒラと振ってみせた紙切れには上から下までズラリと請求が並んでた。


「確かにケチるなと入ったけどな。まさか半日でここまでとは思わなかったぞ」


 キールが少し顔を引きつらせながら冗談混じりにそういった。

 頭が痛い。胃も痛い。いや違う、ここは心臓か。


「まあこっちもこれから一気に忙しくなるしお互い様だな」


 キールが何か慰めるように言ってるが目が茶化してやがる。

 とはいえどの道同じ部屋に戻ってもそれほど進展のない俺たちには茶化すような問題はありはしない。むしろ問題は。


「キール、ヴィクは付いてるんだよな?」


 俺の質問にキールが余計すまなそうな顔で俺を見る。


「ああ、付いてるには付いてるんだがな。どうもあれはあまりあゆみのストッパーにはならなそうだぞ」

「なんでだ?」

「あゆみが作りたいって言うもんを片っ端から許可してるようだった」

「はあ?」

「……あゆみの方が知識のあることなのだからあゆみに任せるべきだとか言ってたな」


 ああああ。俺はどうやら人選を誤っちまったらしい。


「見てるとどうやらピートルが時々口を挟んで諌めてるようだった。あれでまあ人を使ってあれだけの商売をしてた親方だからな。流石に不味いもんはわかってるだろ」


 それを聞いて少しだけ胸を撫で下ろす。こっちも俺の予定外だが助かった。


「俺もちょっと覗いてこよう」


 そう言ってソワソワと飛び出そうとした俺の首根っこをキールが猫の時のように引っ張って止めやがった。


「待てネロ、今お前にそんな暇があるわけないだろ」

「おい、猫掴みはよせよ」

「なんだ、自覚があったか」


 嫌がる俺をそう言って笑いながら引きずり戻す。


「さて、ここまでずっとこっちはこっちで勝手にやってきたがそろそろ擦り合わせるぞ」


 そう言ってキールはシモンも部屋に呼んでここ数日のこいつらの行動を説明し始めた。


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お読みいただきありがとうございました。
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