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異世界で黒猫君とマッタリ行きたい  作者: こみあ
第8章 ナンシー
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50 バッカスの到着

「第一陣のご到着だ」


 兵舎の裏に廻されたバッカスのやつが俺を見つけて偉そうに胸を張って宣言した。

 だが薄暗くなった裏庭にたかれた数本の篝火の下、俺が見た状況はどちらかと言えば阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

 『ウイスキーの街』から帰還した兵はみんな何故かゼーゼーと息切れしているがそれでもそれぞれ荷を解きながらアルディの指示を受けている。


「軍行中後から黒い波のような集団が迫ってきた時には敵襲かと本気で焦りましたよ」


 二往復とんぼ返りさせられたカールは疲れた顔でアルディに街に近い所まで来てバッカス達と一緒になり荷馬車を引いてもらう代わりに残りの道のりを走りつづける羽目になったとこぼしてる。

 その横では到着した者を出迎えた兵士たちがパニクっていた。前もってキールから通達が行っていたはずなのだが、実際に自分の背丈程もある狼の群れを前に新兵はビビって固まってるし熟練は逆にピリピリしてる。

 そんな喧騒に囲まれながらも大人しく伏せの状態でその場に静かにうずくまってる巨大な狼たちのすぐ横にはピートルを始め多数の人間が転がっていた。

 もちろんみんな無傷だ。

 だがその表情は一貫してこの世の終わりを見たようになってる。

 いや半数はそんな顔で気絶してる。

 一部ゲラゲラと笑い続けているやつもいるな。


「言われた通り最速便で持って来てやったぞ」

「も、も、持ってきたってやっぱりあんたら俺たちを荷物扱いしてやがったな!」


 バッカスのすぐ横でなんとか立ち上がったピートルが器用に顔を赤と青に染めながら口角に泡を飛ばして文句を言ってる。


「仕方ねえだろ、あんたらすぐにヘタって自分で掴まってられなくなるんだから」


 そういって獣人型に戻りながらスタスタと俺に歩み寄るバッカスを見上げて声をかける。

 猫の姿でこいつと話すのは首が痛くなるな。


「あーバッカス。お疲れ。農村から無事人を借り出せたんだな」

「ああ。水車小屋も形になってきたし少しぐらいあちらの作業が遅れても十分追いつくだろうって村長のジイサンが言ってた」


 バッカスも話しづらかったのか俺をすくい上げて自分の肩に押し上げる。俺は遠慮なく肩を借りることにした。

 バッカスの見える方の目がある右側に頭を出す。


「アルディ、一旦この連中の気が休まったら手はず通り一番近場の農村に向かわせてくれ」

「わかってますよ。バッカスはどうするんですか? 兵舎には流石に彼らを全員逗留させられるだけの場所はありませんよ」

「心配するな。半数は今ここを発ってまた貧民を拾いにあの街に戻らなきゃならねえ。残りの奴らは裏の森に滞在するさ」


 そういってバッカスが他の狼人族の奴らに指示を出し始める。ハビアはここに残る組らしく、バッカスの指示に従っているのが直ぐに目に付いたがアントニーの姿が見えない。


「アントニーはどうしたんだ?」

「アントニーともう一人はホセの見張りとあの砦の見張りに残してきた。あそこを超えようとする者が現れたらこっちに連絡が来る」

「それはありがたい」

「別にお前らのためだけじゃねえよ」


 照れたのかバッカスがそっけなくそう答える。


「それで落ちそうになる奴らをどうやって持ってきたんだ?」

「テリースが紐を貸してくれた。絶対に必要になるでしょうって乗ってる奴が気絶したら必ずそれで結わいつけるようそれぞれに持たせてた」


 テリースの奴、いつも思ってたが優しいようでいて実はあいつ、合理性の鬼だな。

 そこにやっとまともに話せるようになったピートルとアリームが寄ってくる。


「おい、分かってんのか? 俺らは一応まだ怪我人だったんだぞ」


 乱暴な扱いによっぽど不満があったらしくピートルが青筋立てて抗議してる。


「ああ、よくテリースが出してくれたな。俺はてっきりあんたらの弟子が来ると思ってた」

「ピートルも僕も実は退院したんだよ。テリース曰く、思いのほか早く骨が完全にくっついてもう問題ないって。僕、まだ全治2か月残ってたんだけどね」


 アリームが不思議そうにいってるが。


「ああ、それは多分あゆみ効果だな。テリースが大丈夫だって言うんなら今度は大丈夫だろう」

「まあな」

「この二人は俺が担いできたが文句言いながらも一度も気絶しなかったぞ」

「気絶出来なかったんだよ!」

「その分恐怖はたっぷり味わわせてもらったからね」


 俺達が話している間にもバッカスに続いてこちらに滞在する狼人族が続々と獣人型に戻っていく。街に戻る奴らは既に兵士に連れられて街の外へと誘導されていた。

 前を歩く兵の膝が笑ってたのは俺の気のせいじゃないだろう。


「なんならここに残る連中にもういっぺん残りの連中を農村まで乗せていかせるぞ?」


 バッカスの提案を少し離れた場所で聞いていた者たちがギョッとしてブルブルと首を横に振っているのが見えた。


「あー、バッカス、ほっといてやれ。みんな自分で歩いていけるだろ」


 気絶してない者がそろってうんうんと頷いてる。よっぽど懲りたらしい。


「それで俺たちはどうする?」


 ピートルとアリームが尋ねるのでアルディに声をかける。


「アルディ、兵舎にこの二人も滞在させたいけど出来るか?」

「お二人くらいなら構いませんよ。独身寮になりますが宜しいですか?」

「寝られりゃどこでもいい」

「大丈夫です」


 そろそろ打ち合わせを始めようかと考えてそこで思い出した。


「そういやトーマスはどうした?」

「ああ、到着した兵士の皆さんは既にどっかに行っちゃいました」


 ふと気づくとその場にいる兵士の数がめっきり減っていた。

 答えたアリームの言葉を補足するようにアルディが答えた。


「彼らは今日の授与式に向けて支度中です」

「え? また授与式をやるのか?」

「ええ、戻った者にも数人異動と昇進するものがいますから。ネロ君にも本来は参加してもらいたいんですがその格好では無理ですね」


 そりゃ流石に猫に制服は着せられねえもんな。今日猫の姿になって初めて良かったと思う。


「これはどういう事なんでしょうか?」


 その時突然俺たちの後ろから非難めいた声が響いた。振り返ってすぐに嫌気がしてくる。


「なんでこんなに大切な事を隠そうとするんですか?」


 そこには戸惑いの色を目に浮かべながらも腕組みをしてシモンが不機嫌そうに立っていた。よく見ればあゆみもすぐ後ろに付いてきてたらしく困った顔でこちらを見てる。

 どうやらあゆみもキールもこいつに丸め込まれたみたいだな。

 別にバッカスたちのことだって隠し通すつもりではなかったんだがタイミングが悪いんだよ。

 どうにもこいつとは波長が合わないのかお互いどこまでも誤解を重ねる事態になってる気がする。

 そうは思いつつもあゆみまで巻き込まれてることに腹が立つ。俺はつい不機嫌な声で答えた。


「シモン、話は後だ。バッカス、残りの奴らへの指示が終わったんなら一緒に来い。ピートルとアリームもな。アルディお前も来れるか?」

「ええ、ここはもう大丈夫でしょう。カールへ指示しておきましたから授与式の準備も問題ないでしょうし」

「じゃあアルディ、悪いがあゆみを抱えてやってくれ」


 俺がシモンを少し非難めいた目で見ながらアルディに頼むと、あゆみが俺とシモン、そしてアルディの顔色を見ながらおずおずと答える。


「い、いいよ黒猫君、自分で歩けるし」

「だめだ。人が増えてる。こういう時はおとなしく担がれてろ。シモン、あんたも来い」


 自分で出した指示とは言え問答無用でアルディに抱き上げられたあゆみを複雑な心境で見ながら、俺たちはそろってキールの部屋へと戻ることにした。


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お読みいただきありがとうございました。
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