48 あゆみの実験 基本編
そこで一旦休憩を入れる事にした。アルディが外に待機していた兵に声をかけ、逗留する事が決まったシモンに部屋を案内するように言いつけた。
シモンが部屋を出ていくのを待って俺は早速自分の持ってきた懸案事項をキールに振る。
「キール、あいつが戻ってくる前に話さなきゃならねえ案件がある。あゆみがまたなんか始めた」
俺の端的な説明だけで顔をしかめてキールがこっちを嫌そうに睨む。アルディも少し疲れた顔でこちらを見てる。
俺の上であゆみが「なんかそれ失礼だよ黒猫君」とブツブツ言ってるが俺の説明が的確なのはキールたちの反応を見れば明らかだ。
「……どうマズいんだ?」
「あゆみが何をどうしたのか魔石で部屋を水浸しにしてくれた。その経緯はどうもあんたにも一緒に聞いてもらったほうがいい気がする。シモンが戻ってくる前に簡単に説明させよう」
そう言って俺が見上げるとあゆみが諦めたように少し眉を下げて説明を始めた。
「えっと、部屋を水浸しにしちゃったのは本当にすみませんでした。ちょっと実験をしてて失敗しちゃっただけなんです。
「実験て何の実験だ?」
「魔石、魔晶石と魔力の関係かな?」
疑問形で始めたあゆみがそれでも先を続けた。
「実はこっちの世界で魔術を習ってからずっと気になってた事があったんです」
物問い顔でキールがあゆみを促す。
「こっちの魔力ってある物に似てるなって。そこでキールさん、まず先に確認しておきたいんですけど」
そういってキールにおずおずと尋ね始める。
「魔石は外から魔力を与えないと魔法が出ないんですよね?」
「そうだな」
「でも魔晶石は最初っから魔力が入っててちょっと刺激すると勝手に魔力が出せる、違いますか? だからお値段も高い?」
「通常そうだ」
「やっぱり。トーマスさんがあのマッチを使った時からそうじゃないかなって思ってたんですよね」
そういってあゆみが一人で納得してる。
「あゆみ一人で頷いてないで先を続けろ」
俺に促されてあゆみがこっちを見ながら話し始めた。
「最初に引っかかったのはあの光の魔晶石で出来てるっていう室内ライトだったの。あれ変だったんだよ」
「なにがだ?」
「この前買い物してる時に気づいたけど魔晶石は全部宝石みたいに透けてたでしょ。なのにあの手のライトは外側全部乳白色なんだよね。だから見た目から考えれば魔晶石じゃなくて魔石で出来てるんだろうなって思ったの。それで黒猫君が魔石選んでた時、お店のオジサンに聞いて確認した。やっぱり外側は魔石で出来てて、中に小さな魔晶石が入ってるんだって。小さな魔晶石が魔石に触れる事で魔力が流れて明かりが点くらしいの。だから中にある板の部分に魔晶石を乗せると魔力が止まって明かりが消える仕組みなんだよ」
「あゆみ、お前変な事気にしてたんだな」
あゆみの始めた説明にちょっと戸惑いながら念のためキールたちに確認する。
「キールお前は知ってたのか?」
「いや。そんな事別段考えたこともなかった」
「日常品ですからね」
感心したようにあゆみを見るキールとアルディに微笑みかけながらあゆみが先を続けた。
「それでね、ここまでの情報から私は魔力が電気みたいに働いてるんじゃないかって仮説を立てたの」
魔力が電気。ちょっと待て。今一体どういう発想でそこに繋がったんだ?
突然話が飛んで完全においていかれた俺たちの顔色には全く気付かずにあゆみが先を続けた。
「そこで私が買ってきた『溜め石』なんだけどね」
そう言って手元の布切れで作った風呂敷包みから白と黒の縞々の石を一つ取り出して俺たちに見せる。
「お店のオジサンはただの屑石だっていってたけど私はなんか違う気がしたの。確かに普通にちょっとくらい魔力を流しても吸われるだけで何にも反応しないんだけど、ある一定量を流してやると……ほら、突然温かくなり始めるの」
そう言いながら手の中に石を包み込んでいたのは多分魔力を流し込んでたのだろう。しばらくしてあゆみがそれを差し出すとアルディとキールが面白そうに手渡された石を手の中で転がした。
「確かに熱を持ってるな」
それを横目に俺はあゆみを問いただす。
「でもそれがどうしたんだ?」
「あのね、これって向こうで充電池とかに電気を流した時に近いんだよ。黒猫君も使った事あるでしょ?」
「待てよ、電池ってお前、今流したのそれ魔力だろ? どうやったら魔力が電気と同じように溜められるんだよ」
「魔力だって物理法則に沿っててもおかしくないじゃん」
あゆみが一人でなんか納得してるが俺にはあゆみの言っていることがさっぱりだ。
キールたちも同様なのだろう、ただ困惑を顔に浮かべてあゆみを見てる。
「やっぱり口で説明しただけじゃ信じられないよね」
それに気づいたあゆみが苦笑いしつつも自分の椅子をキールの執務机のすぐ横に動かしてもらうようアルディに頼んだ。
机に手が届く様になったあゆみは早速さっきの風呂敷包みを広げてその中身をキールの執務机に広げはじめる。俺もその様子がよく見えるようにキールの机に飛び乗った。
「私も仮設立てただけじゃ意味ないから実証実験をやってみました。まずは基本的なやつね」
あゆみは説明を続けながらも俺たちが見ている前で白い石をいくつか取り出し、机の上に数珠のように繋げた状態で丸く円を描くように石を並べていく。
「こうやって光石とかを繋げていって……その一片をこうやってさっきの魔力を流しておいた溜め石に変えてやると……ね?」
そうおどけた様に言いながらあゆみは今並べ終えた白い石を一つ取り上げて白黒の縞模様の入った溜め石に入れ替える。
途端白い石が全てパァーっと光り出した。
話に今一つついて来ていなかったキールがそれを見て驚いた声を上げる。
「待て、それは光魔石だよな? なんで魔力を流してないのに光ってるんだ?」
「だからこの『溜め石』に私の魔力が溜まってるんですよ」
そういってあゆみが今間に入れた溜め石を外すとスッと光が止まってしまう。そのまま外した溜め石を指に挟んで俺たちに見せながらあゆみが続けた。
「お店の人はこの『溜め石』は名前ばっかりで魔力を無駄にする屑石だって言ってたけど、私が考察するにこれはある一定量以上の魔力を流さないと抵抗を超えられないタイプの魔力貯蔵石だと思うんです。多分電解部分の抵抗を超えるだけの魔力を送ってやらないと電子が電解物質を超えられなくて……あ、電解じゃなくて魔解と魔子って言うべきなのかな? 白と黒のどちらかが電解……じゃなかった魔解で、え、じゃあ層をなしてるから電池じゃなく……」
「ちょちょ、ちょっとまてあゆみ、その辺はどうでもいい」
どんどん奇怪な考察を一人で深めていくあゆみに慌ててキールが制止をかける。
「要するに君はこの石が屑なんかじゃなくて魔力を所蔵する事の出来る石だと発見したって事だな?」
キールの確認をあゆみがちょっと眉根をよせていい直す。
「えええ、えっとそうですね。実証しました」
あゆみはどうもキールの言いまわしが気に入らなかったらしい。
不必要にわかりづらい言いかたにこだわってるあゆみは無視してキールと顔を見合わせた俺はとにかくあゆみに先を続けさせることにした。