表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で黒猫君とマッタリ行きたい  作者: こみあ
第8章 ナンシー
147/406

24 教会1

 お買い物と市場の見学を終えた私達はそこの周りに集まっていた運び屋さんの一人に荷物をお願いして教会へと向かった。教会は東の広場を抜けたもっと先、東通りのすぐ北側にあり街の東の一角を占領するように広い敷地が広がっていた。

 東通りに出て城門に向けて歩いていくとある所からずっと門まで一直線に壁が続いてる。


「これが教会の敷地を囲ってる壁だよ」


 ビーノ君の言葉に呆れてしまう。だってこれ東通りの3分の1はあるよね?

 壁の始まりの手前に北に折れる通りがあって、それがそのまま教会の入り口まで続いてるんだそうな。ただそのままその道も右側がずっと教会の壁なんだけど。


「教会ってこんなに広い必要あるの?」

「まあ、墓地もあるし結構人も住んでるらしいよ」


 ビーノ君が何気なく言ってるけど、なんで教会にそんなに人が住んでるんだろう?

 そのまま北に向かって歩いていくと、突然それまでの壁が途切れて大きなのっぺらぼうの高い教会の建物が立っていた。

 上を見上げると尖塔があったり鐘がついてたりあっちの世界で見ていた教会にどことなく似てるんだけど、下の部分は真っ白い塗り壁みたいになっている。見る限り窓一つない建物は何かちょっと牢獄の様な雰囲気が漂っていた。

 そののっぺらぼうな正面の壁には私の身長の倍はある大きな扉が三つ並んでる。こんなの重くて絶対開けられないって思ってたらそれはいつか現れる神様の使徒の為の扉で、一般人が入るのは横についてる通用口だという。無駄な物作ってるんだな、などと罰当たりな事考えながらビーノ君に従って建物の横にある小ぶりの扉に向かった。


「黒猫君、一旦下ろして?」


 なんかこういう場所に入るのに抱き上げられたままなのはお行儀が悪い気がして黒猫君に下ろしてくれるようお願いする。すると黒猫君はちょっと嫌な顔をしながらも、しぶしぶ私を下ろしてくれた。

 黒猫君が先に立って教会の扉を開いて私達を入れてくれる。中は少し薄暗くてでもひんやりとした空気が広がっていた。

 開いた扉の中を黒猫君を先頭に数歩進んで建物の中央を占めているであろう広間まで来た所で奥の方に差し込んでいる光でやっと周りが見えて来た。

 さっと広間を見まわした私と黒猫君は一瞬できれいに凍りついた。そのまま2人してジリジリと扉まで後退する。

 教会の建物から飛び出し扉が閉まったのを確認した黒猫君は流れるような動作でかっさらうように私を抱え上げ、戸惑うビーノ君を後ろにすごいスピードで近くの人通りのない細道に飛び込んだ。

 右を見て左を見て。人が居ない事をしっかり確認した私達は声もなく身を捩ってしまう。


「うわわわっ、あ、あは、さむ、でもひど、あははは」

「黒猫君、さむって、さむって、あは、あはは」


 身を捩りながらも笑わずにはいられない。

 そのまま二人とも引きつった様に震えと笑いがこみ上げてきて止まらなくなる。

 ゼイゼイ肩で息切り、腹筋引きつらせながら涙で視界が歪むほどもがき笑った私たちはやっと追いついてきたビーノ君にすっごく不審な目で見つめられながらもどうやても止められなかった。

 やっとちょっと二人とも息が収まって、でも顔を見合わせるとついまた吹き出しちゃって。


「駄目、黒猫君、私もう、中に入って叫び出さない自信、無い」

「お、俺も」


 忘れようとしてもすぐまた思い出しちゃう。

 教会の中央を占めるその広間には殆ど窓がなく、3階分くらい吹き抜けになってて天井が高いのに全体に薄暗い。でもその一番奥の壁だけが天辺から取り入れられる光で荘厳に輝いていた。

 その効果は絶大で今にも天使が舞い降りそうな静謐さがあった。

 そしてその光に照らしだされた最奥の壁一面には豪華絢爛な金の額縁に入れられた巨大な肖像画が飾られてた。

 すっごく重厚で偉そうな肖像画に描かれたその人はでも顔が分からない。

 なぜなら一目で誰の物か分かるあのヘルメットとマスクで顔を隠してるから。

 やっちゃったのか、としか言いようがない。

 ただせめて抽象画とかさ、もう少し誤魔化しを許容する画家さんを探せばよかったんじゃないかと私は思うよ。

 でもなぜかこの人、よりにもよってルネッサンス・リアリズムを突き詰めちゃった様な妥協を全く許さない画家さんに描かせるから。

 マスクが頬の肉にめり込む様子がはっきりと……わわわわっ。

 ぴちぴちの真赤なお馴染みの式典用スーツなんて三段腹の陰影がそれは鮮やかで、肉の厚みやその弾力までリアルに表現されちゃっててもう……うああああっ。

 どうやったら写真でもないのにあんなにスーツが半端なく引き延ばされてる感がだせるのだろう。

 両肩に掛けられた金のエンブレム入りの黒い逆三角マントのおかげでせめて胸元が細かく描写されてないのがただ一つの救いだ。

 あれこそまさに黒歴史。


「あれさあ、上半身しかなかったけど絶対ぴちぴちの白い手袋とブーツ履いてるよね」

「止めろ」


 黒猫君がまた身を捩り始める。

 大きな絵の真ん前はやはりすごく見覚えのある祭壇がおかれてた。


「あそこで一体どんな説教とかするんだろ? 『〇〇は死んだ! なぜだ?』とか言っちゃうのかな?」

「だから止めろって!」


 あ、黒猫君が第二期爆笑タイムに入っちゃった。

 バックグラウンドにはパイプオルガンの清涼な調べが流れてたんだけどそれもよく聞いてみるとすごく聞き覚えのあるメロディーだった……「人類が増えすぎた~」って空耳が聞こえそうなほど。

 やっと笑いが止まった黒猫君が空を仰いでぼそりと呟く。


「もう二度と中に入りたくねー」

「でも教会の横は全部柵になってて通り抜け出来なくなってたよね」


 私もちょっと思い出して返事をする。


「兄ちゃん達一体何がそんなにおかしいのか知らねーけどさ、そんなに本堂が嫌なら中の回廊を回れば?」

「ああ、なんか入ってすぐにあった横道の事か?」

「そうそう。あれは司教たちが動き回る為の通用路だからあんまり派手じゃないぜ」

「じゃあそっちから行くか」


 それでも中に入る覚悟を決めるのにまだしばらくかかったけど、黒猫君と二人、意を決して再度教会の中へと向かった。音楽なんて聞こえないっと自己暗示かけながら中をあんまり見ない様にして扉のすぐ横の道に滑り込む。

 うっすらと暗い通路を半分くらいまで進んでいくと床に薄っすらと青い線が描かれていた。


「これなんだ? 通っちまっていいのか?」


 黒猫君がビーノ君を振り返って聞くとビーノ君は考え事をしてるみたいで黙り込んでる。


「まあ、誰かいたら話聞けばいいか」


 あまり気に留めずにそのまま先へ進むと数メートル先の回廊の横道からフラフラと小さな子供が二人、姿を現した。

 一人は見るからに獣人。多分ネコ科かな? 黒猫君とは違い、全身を毛で覆われてて模様は三毛猫らしい。もう一人は綺麗な緑の瞳、金髪そして……耳が尖ってる。


「エルフ……か? 本物の?」

「黒猫君、テリースさんだって偽物なわけじゃなくてハーフなだけだから」


 私の言葉なんて聞こえてないようで黒猫君はフラフラとその子供の方に歩いていく。


「お兄ちゃん、迎えに来てくれたの? 私達帰れるの?」

「ここ、きちゃ駄目」


 2人の子供が同時に私達に気が付いて喋りだした。金髪のエルフにしがみつくネコ科の子はどうも私たちをどこかの迎えだと思ってるみたい。エルフの方は顔つきが厳しい。


「ビーノ君、これ私達どうしたらいいの?」


 私が振り返ってビーノ君に尋ねようとすると、ビーノ君が数歩後ずさってる。

 顔が引きつって、凄く怖い顔になってた。


「どうしたのビーノ君、大丈夫?」

「ご、ごめん」


 私の質問になぜかビーノ君があやまるのと同時に2人の子供たちの後ろから一人の長身の男性がスッと現れた。

 俯きながら謝ったビーノ君はゆっくりと顔を上げて私たちの顔をジッと見つめ、すぐにその顔に絶望を浮かべて泣きそうになりながらその男性の元へと駆け寄っていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただきありがとうございました。
登場人物をまとめてみました:登場人物
その他の情報は必要に応じて追加していきます
魔術師階級他
地図他
ツイッターのSS: 甘い指先

拍手を送る

Twitter:こみあ(@komia_komia)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ