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異世界で黒猫君とマッタリ行きたい  作者: こみあ
第8章 ナンシー
138/406

16 昼下がりの……

「頭痛い……」


 やけにズキンズキンと痛む頭を抱えながら声に出すとなんか張り付いた喉から自分の声じゃない様な声が漏れた。


「やっと気がついたのか」


 と、突然、黒猫君の声がすぐ耳の後ろから響いた。

 へ? なんで?

 って思ってちょっとクラクラする頭で見回すと。

 そこには全く知らない部屋と天井。

 自分は布団の中。

 ……イン・黒猫君の腕の中。


 ふと見下ろすと服が。

 下着だけになってる。


 ヒィーッと叫びそうになるとすっと手が後ろから伸びてきて私の口を塞いだ。


「頼むから叫ぶなよ。今説明してやるから」


 そ、そんなこと言ったって。

 頭は完全にパニックモード。

 だって気がつくと背中に間違いなく黒猫君の体温があって。

 足もなにか暖かいものに挟まれてて。

 ニョっと突き出した腕に自分の頭が乗ってて。

 今私の口を塞いでるその手、さっきまで私のお腹の辺りになかったですか?

 パニックる私の耳元で黒猫君が深いため息をつく。


「お前なあ。文句一言でも言う前にまずは俺の話を聞け。お前自分が俺の酒全部飲んじまって酔っ払ったの覚えてるか?」


 そう言われてみてやっと記憶の断片が徐々に蘇る。

 

 ……確か街角で黒猫君に無理やり強く抱きしめられて(訂正:羽交い締めにされて)

 息が止まって(注:気道を塞がれたから)

 気を失いそうになった所でやっと開放されて文句の一つも行ってやろうと思ったら「昼飯にしよう」って何も無かったみたいにスルーされて──

 

 ……なんかモヤモヤとストレスためながらビーノ君についてきたら

 やけに綺麗なお姉さんがわんさか(訂正:3人)たむろってるお店で

 中に入った途端、そのお姉さんたちに目線だけで「ランク外」認定されて(正解)

 すぐにわらわらと黒猫君に寄ってきたお姉さん方が私を押しのけて黒猫君になんか交渉始めちゃって──

 

 ……ま、いっけどね、って思ってるうちにそこの二階で食事始まっちゃって

 こんな所にビーノ君入れるのちょっと教育上どうかと思うけど

 二階の部屋は普通のレストランの小部屋って感じで少しだけ安心して

 でもなんか聞いちゃいけない声が聞こえてる気がして(訂正:気のせい)

 焦って黒猫君がオーダーしたお酒をチビチビ(訂正:ガブガブ)飲んで誤魔化して

 黒猫君とビーノ君は真剣に国の話とかキールさんの話とかしてるんだけど私はひとり他所から漂ってくる変な声とか笑い声とか気になってついついお酒を立て続けに飲んで。飲んでたら──


 うわ、なんか私、魔法使わなかったっけ?

 しかも酷いの!(大正解)


「……思い出したか? お前の水魔法で部屋は滅茶苦茶になって店主には怒られるわ、電撃魔法で体はしびれてるわ。しかもお前自分の水魔法でびっしょり濡れてる状態で電撃魔法使って自分まで気絶してるし」


 うわぁぁぁ。聞いてるだけで冷や汗が出てくる。


「俺が上手くお前抱えて飛び上がったから良かったようなもんで下手したら店中感電してたんだぞ」


 さっきっから私の耳元で文句を言っている黒猫君の声音にはちょっと叱るような音が混じってるけど決して強く私を責めてこない。それが余計申し訳なくて。


「仕方ないから部屋借りてお前の服脱がせて店のやつに乾かしてもらってるところだ」

「も、申し訳ないです……で、でもなぜ黒猫君も一緒に布団の中?」

「びしょびしょの服脱がせたらお前寝てんのにガタガタ震えだしたから寒そうで仕方なく俺が一緒に布団入ったんだからな。ゼッテェ変なことはしてねえから」


 確かに黒猫君のおかげで体は暖かい。と言うかもう今は頭に血がのぼって熱いくらい。


「あ、ありがとう……って言うべき?」

「……もういいけどな」


 小さなため息が頭の後ろでこぼれて私の口を塞いでた手がいつの間にか布団ごとしっかり私を抱き込んでる……

 あ、ダメだ。免疫無いわけじゃないけど相手が黒猫君だと思うと頭クラクラする。早く逃げ出したい。


「そ、それで私の服は何処でしょうか?」

「俺達が部屋を借りてる間には乾くとさ。言っとくけどまだ出られねぇからな。俺のプライドの問題として」


 一瞬考える。黒猫君のプライド?


「……ここそう言う宿だから。そんな直ぐに出ていけるか!」


 うわぁぁ。もうどっぷり泥沼にはまった気分。しかも全部自分のせい。


「わ、わ、分かったけどこの居たたまれない状況はどうにかなりませんでしょうか?」


 気が動転して一部勝手に敬語になってるしっ!


「俺の事は布団だと思って気にしなきゃいいんじゃねえの」


 ぶっきらぼうな返事が返ってきた。

 そんな事が出来るならしてるって!

 そんな私の中の心の叫びなんて聞こえるはずもなく黒猫君は何事も無かったように話し始めた。


「それよりあゆみ、さっきのお前の攻撃の時ひとつ大事な事に気づいたぞ」

「こ、『攻撃』って、私そんなつもりは無かったと思うんだけど」

「それは今どっちでもいい。お前の魔術な、多分俺にも信号が分かった気がする」

「え?!」


 驚いて振り返ろうとした私はグキッと首が鳴るほど強く黒猫君に頭を押さえつけられた。


「お、おま、絶対振り返るな! 俺だって限界あるからな」


 げ、限界って、そ、それはなんの限界!?

 どうも追求しちゃいけない気がしてとりあえずコクコクと私が頷くと頭を押さえ込んでた黒猫君の手が緩む。


「いいからそのままで見てろ。何が原因か知らねえが多分電撃魔法は俺も分かったと思う」


 そう言って腕枕してる手を私の目の前に引き寄せて小さな雷を出して見せた。

 おお、小さくともちゃんとした雷!


「す、すごいじゃん黒猫君。これで君も立派な魔法使いだね」

「俺、何かその表現嫌だ」


 黒猫君がボソリと不機嫌そうに呟いた文句はスパッと無視して先を続ける。


「黒猫君、じゃあここで風魔法も試してみようか」

「ああ」


 私は早速腕枕してる黒猫君の左手と自分の左手を繋いで右手を布団から引き出す。

 すぐに黒猫君も右手を私の目の前に出して来た。


「じゃあ行くよ」


 私が魔力を込めるとフワッと小さな旋風が手の平の上に巻き起こる。直ぐに黒猫君の手の上にも旋風が沸き起こった。


「……出来た」

「ホントだ」


 しばらく二人の手の上の旋風を見つめていると旋風はやがて惹かれ合うようにくっついていって、最後はぶつかり合って弾け飛んだ。


「なぜあゆみのだけは信号が分かるんだ?」


 ぼそりと呟いた黒猫君の言葉にある事が思い浮かんだ。


「ねえ黒猫君、前にキールさんにテストしてもらった時キールさんの魔力弾いちゃったよね」

「ああ。……まさかこれも同じか?」

「そうじゃないかな。アルディさんのも伝わらなかったって事は多分アルディさんの魔力も弾いちゃってるのかな」

「それなのにお前のだけは受け入れられると……」

「そうみたいだね。魔力にも相性とかあるのかな」

「後でキールに聞いてみるか」

「そうだね」


 そう言うと目の前の黒猫君の腕がまた下がって布団の上に乗る。

 今度は気がまぎれたからか結構普通にやり過ごせた。


「んー、他も試したいけどこれ以上はちょっとここで試すのは無理かなぁ」

「ああ、水も火もちょっと厳しいな。あ、ちなみにこんな事も出来る」


 そう言って黒猫君、またも腕枕してる手の平の上に電撃を出して、それを少しずつ大きくし始める。


「うわ、ずっるいなんで自分だけ調節出来るようになっちゃうかな」


 後ろから黒猫君が喉の奥で小さく笑ってるのが聞こえてくる。


「これでお前が不器用なのが証明されちまったな」

「ひどい」

「あ、でもお前酔ってる時滅茶苦茶な量の水出してたぞ」

「え?! ほんと?」


 そう言えばなんかすごくジャバジャバ出てた気がする。


「ああ。多分酔ってリラックスすると出しやすいのかもな」

「それって同時に調節きかなくなって周りに迷惑かけるって事でもあるよね」

「まあな。お前も暫く酒はやめとけよ」

「うん……もともとあんまり飲まないんだけどね、お酒」


 あんな状況じゃなきゃきっと別に飲まなかったと思うし。

 そこでちょっと思い出したように黒猫君が私に聞いてきた。


「そういえばあゆみ、お前あんなにクズ石を買ってどうするつもりだ?」

「ああ、あれね。ちょっと考えてることがあってさ。出来れば市場で少し道具とか見たいんだよね」

「お前が寝てる間に昼間の市は終わっちまうそうだ」


 それで今度は私が思い出した。


「そう言えばビーノ君はどこ?」

「あいつは一度ダンナのところに報告に行くとさ。まあお前がどれくらい寝てるかもわかんなかったしな」

「そっか……そう言えば私どれくらい寝てたの?」

「1時間ってとこかな。まだ酒抜けきってないだろ。体は大丈夫か?」


 確かに。頭は痛いだけじゃなくてまだクラクラする。先に卵焼き食べてたおかげで胃は大丈夫みたいだ。


「頭はまだクラクラするけど胃は大丈夫そう」

「そうか。ビーノは明日また落ち合う約束してあるから心配するな」

「じゃあ私もその時に謝れるね」


 私の答えに黒猫君がちょっとため息をついて答える。


「やっぱり明日も一緒に行くつもりか」

「ダメ?」


 黒猫君がちょっと考えてから答えてくれる。


「まあ、いいけどな。正直お前を兵舎に置いてくのと連れてくのどっちも怖いんだよな」

「怖いって……私そんないつもいつも周りに迷惑かけてないと思うよ?」


 黒猫君の答えに驚いて返事した私に黒猫君が後ろからためらいがちに続けた。


「そういう事じゃない……お前何かあってもすぐ逃げられねえから」

「そんなチョクチョク危ない事起きないと思うけど」

「俺だってお前らが誘拐されるまではそう思ってたよ」


 私の答えにでも黒猫君は小さく息を吐きながらボソリと呟いた。心なしか私を抱きとめてる腕に力がこもる。

 そっか。黒猫君の最近の異常な程の心配性は私達の誘拐が原因だったのか……

 正直、された当の本人はあまり実感がなかったりするんだけど。


「さっき『昼の市』って言ってたけどじゃあ『夜の市』もあるって事?」

「ああ。ビーノの言うには一部を除いて全く違う店が出店するらしい」

「じゃあ、このあとそれを見に行こうか」

「ああ……まあそろそろ出てもいい頃か」


 どうやら黒猫君の最低限のプライドを満たす時間は過ぎたらしい。


「そのまま待ってろ」


 そう言い置いて黒猫君が扉の所から誰かに声を掛けた。直ぐに私の服が手渡される。

 黒猫君からまた自分の服を受け取った私は今日二度目の着替えを始めた。


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