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魔剣使われに告ぐ   作者: 杉下 徹
1.微睡みの日々
9/41

1-8

「えっと……一応、全部試し終わりました」

 剣を一通り手に取り終えてようやく我に返ったのか、先程まではしゃいでいた自分を恥じるように俯きながら、クーリアはナナロにそう報告した。

「どれか、気に入ったのはあった?」

「神剣『Ⅶ』と奇剣『ポ・マ』、あと、魔剣『流星おつるかたまり』、あと魔剣『薔薇ばら』なんかもいいかな、と……」

「あはは。まぁ、特に急かすつもりもないから、ゆっくり選んでくれていいよ」

 苦笑して見せるナナロに、しかしクーリアは小さく首を振った。

「いえ、大丈夫です。一番はもう決めましたから」

「そうなの? ちなみに、どの剣?」

「聖剣『アンデラの施し』です」

「あっ……そうか」

 ナナロが僅かにこちらに視線を向けるのを、意図的に無視する。

「アンデラか……」

「ん? どうしたの、シモン?」

「いや、なんでもない。たしかに、それはいい剣だ」

 思うところはあるが、それをクーリアにぶつけても仕方ない。

 この場に『アンデラの施し』があるのを目にした時は、たしかに驚いた。しかし言ってしまえばそれだけの事で、もっと言えばそれは理屈としては当然だ。

「それじゃあ、いいかな?」

「はい。それで、お金とかはどうすればいいですか?」

「お金ならいいよ。これは、言ってみればお祝いみたいなものだからね」

「そんな、そういうわけには……」

「本当にいいんだって。そもそも、この剣に関しては、僕もお金を払って手に入れたわけじゃないから」

 しばらく遠慮していたものの、やがてクーリアは押しに負け、ナナロから『アンデラの施し』を受け取った。

 今のクーリアには手持ちの金銭がほとんど無い。もちろん必要ならば俺が出すが、クーリア自身はそれを気に病むだろうし、無償で譲ってくれるというなら拒む理由はない。

「おっ、やっぱりここにいた」

 残りの剣を荷物に纏める手伝いをしている最中、聞き慣れた声と見慣れた顔がどこからともなく飛び込んできた。

「クロナ? 良くここがわかったね」

「あれだけ派手に光だの雷だの屈折空間だのバラ撒いてたら、誰でもわかるって」

「…………」

 一同の視線を一手に集め、クーリアは静かに恥じ入る。

 いくら人のいない小山の奥だと言っても、たしかにクーリアの剣試しは冷静に考えて大規模で派手過ぎた。夢中になって半ばはしゃいでいたクーリアだけでなく、その力に見入って周囲への影響を忘れていた俺やナナロも大概ではあるが。

「それで、何か用事があって来たんじゃないのか?」

「うん? いや、特に用事ってわけじゃないんだけどね」

「じゃあ、帰れ」

「それは酷くない!? シモン、私に何か恨みでもあるの?」

「わざわざツッコまないぞ。いいから帰れ」

 良くもまぁ、俺とクーリアの仲を引き裂こうとした、それどころか現在進行形で引き裂こうとしている張本人が、俺達二人の前に顔を出せるものだ。

 クロナが男だったか、後十歳年をとっているか、もしくはあと少し顔が不細工であったなら、問答無用で剣を抜いているところだ。多分、普通に返り討ちにされるけど。

「そんなに冷たくしなくても。クロナさんだって、悪気があったわけじゃないんだから」

「クーリア、君は間違っている。この女は基本的に、悪気しかない」

「どうしてシモンは、そんなにクロナさんを警戒するかなぁ」

 そして面倒で周到で陰険な事に、クロナはすでに如何にしてかクーリアを懐柔してしまっている。聞いたところでは、週に一度は顔を合わせてゆっくりと談笑する仲だというのだから、まったくもって笑えない話だ。

「あの……」

 クロナに白い目を向けていると、そのすぐ背後の木の影から、おずおずと見知った顔の少女が姿を現した。一度その存在に気付くと、良くそんな近くで今まで気付かれずに気配を隠していられたものだと感心すらしてしまう。

「ああ、ごめんごめん、ラタ。内輪で盛り上がっちゃうのはあれだよね」

「まったく盛り上がってはいないけどな」

 碧い目の少女、ラタ・フィクサム。

「ひさしぶり。元気にしてたか? クロナにいじめられたりしてないか?」

「は、はい。クロナさんもナナロさんも、とても良くしてくれています」

 こうして顔を合わせるのは、ナナロにラタの依頼を持ち込んで以来だった。問題の解決の目処が着くまで、現在はクロナとナナロの元に身を置いているらしいが。

「なんで私がいじめるのよ。私がいじめるのは、君だけだってば」

「そんな事を言われても、全然嬉しくない。俺がいじめてほしいのは、クーリアだけだ」

「私も、それを言われても嬉しくないんだけど」

「えーっ、流石に俺がいじめるのは精神的にちょっと……」

「そんな事も言ってない!」

 すぱこーん、と綺麗に頭を叩かれる。やはり、叩かれるならクーリアに限る。

「それで、結局何の用事なんだい?」

 こちらで遊んでいる間に、ナナロが話を先に進める。

「ああ、ラタがナナロの剣について知りたいっていうから、ちょうどいいかと思って」

「すいません。疑ってるわけじゃないんですけど、ただ少し気になって」

「いや、もっともな話だ。当然だと思うよ」

 ナナロに仕事を依頼する形となったラタが、その武力の大半を占める剣について知ろうとするのは妥当な流れだろう。むしろ、今まで知らない事の方がおかしいくらいだ。

「それじゃあ、実際に見せるのが早いかな。クロナ、相手をしてくれるかい?」

「あっ、それなら私が……」

「「クーリアはやめとこう」」

 相手役に名乗り出ようとしたクーリアを止める声が、クロナと完全に被る。

「二人して、そんなに言わなくても。ナナロさんなら安全なのに」

「むしろ、逆が心配なんだけど」

「ナナロなんかの為に、クーリアの手を汚させたくないんだ」

「むぅ……私だって、寸止めくらいできるのに」

 実際、殺さないギリギリを狙うならともかく、力試し程度でクーリアがナナロをうっかり殺してしまうなんて事はないだろう。

 ただ、力試し程度であっさり完勝してしまうという事なら、十分にあり得る。そしてそうなった場合、ラタがナナロの力を疑問視しかねない。規格外の力は、時にその他を遠く霞ませてしまうものだ。

「それに、どうせなら私の剣も一緒に見てもらった方がいいからね。一応、ラタのもしもの時の護衛係も兼ねてるし」

「わかりました。クロナさんがそう言うなら」

 思った以上に懐柔されているのか、クロナの言葉にクーリアは渋々といった様子ながら引き下がった。

「よし、じゃあ行くよ、クロナ」

「はーいよ。そういう事だから、ラタもしっかり見ててね」

「はいっ」

 向かい合うように剣を構えるナナロとクロナ。競い合う事が目的ではないとはいえ、兄妹であり、力の拮抗した二人の立ち会いは、興味深いものになるだろう。

「……ふっ」

 互いに呼吸を合わせる寸前、口元を歪めたナナロの表情がやけに気には掛かったが。

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