1-4
「良かったの? あの子、置いてきちゃって」
伺うような瞳。
「いや、ラタはあくまで依頼者であって、それ以上では決して無いよ。うん、決して!」
「……そんな念を押されると、むしろ怪しく聞こえるんですけど」
怪訝そうに眉を潜めるも、すぐにクーリアは真顔に戻った。
「私が言いたいのは、その依頼者としての事。ラタさん、っていうの? あの子、何か深刻な事情があるんでしょ?」
「だから、ナナロに預けたんだよ。そういうのは、あいつの得意分野だ」
ナナロ・ホールギスは、一言で言えば面倒屋だ。
本人曰く『平和と正義』の為の活動、俺を始めとする常識人から見れば面倒事と呼ばれる類の事柄を生業としているナナロとは、公に魔剣『回』の略取として知られる作戦の一部隊員として出会ったのが最初だ。
俺はもちろんクーリアを救出する為、他の部隊員――そう呼ぶには少しばかり型を外れすぎていた気もしないでもないが――彼らも皆それぞれに個々の都合や目的を持ち合わせていた中、ナナロは純粋に『正義の為』に剣を手に取った。
その正義が社会的なものでなく、自身の中で完成されたものである事を問題視しなければ、ナナロ・ホールギスは理想的な善人と言っていい。思想だけでなく、それを実現する能力の面に関しても、だ。
「シモンだって、そういうの得意じゃない」
「まさか。俺は面倒なのはキライだよ。毎日だらだら、クーリアと楽しく、時にはいやらしく過ごしていくのが理想です」
「……バカ」
何か言いたげな呟きの裏側は探らず、隣を歩く小さな頭を撫で回す。
クーリアは俺の事をナナロと同じ、あるいはそれ以上に善人だと誤解している。俺は正義の為などではなく、ただクーリアの為、つまり自分の為に行動しただけなのに。
「それより、剣はどうだって?」
クーリアの誤解は少し言葉を紡いだ程度で解けるものではなく、空気を変えるには話題ごと変えるしかない。
「えっ、剣?」
「ナナロと剣について話したんじゃないのか? ……まさか、やっぱりあれはその場しのぎの嘘で、実はあの野郎と……」
「違、違うってば! ただ、シモンはその事について話したがらないと思ってたから」
わたわたと慌てる様子は見ていて可愛らしいが、同時に一抹の不安も感じさせる。しかし今更クーリアの愛を疑っても仕方ないので、そこは無視だ。
「剣については、いくつか見繕ってくれるって。次の機会に実際に試してみて、それから決める事になると思うけど」
「そうか、それは嫌だな」
拒絶の言葉を吐くと、不安そうなクーリアの表情が更に沈んだ。
「……だよね。シモンが嫌なら、やっぱり私――」
「クーリアをまたナナロと二人きりにさせるなんて嫌だ。次会う時は、俺も一緒に行く」
「――えっ?」
クーリアの表情が、一瞬無になる。直後、その目からは涙が溢れ出した。
「えっ、あれ、俺、何か地雷踏んだ? こんなに束縛してくるのは流石に嫌だとか、ナナロと二人で会いたかったとか……」
「違う、違う。これは……なんでもない、なんでもないの」
零れ落ちる雫を自分でも不思議そうに手の甲で拭いながら、崩れた笑みでクーリアは何度も首を振った。
「うん、一緒に行こう。私も、ずっとそうしたかった」
涙を拭うのを諦めたのか、目元を濡らしたままクーリアは顔を上げる。
「それなら、決まりだ」
そっと手を取り、止まっていた足を再び踏み出す。隣を歩く少女はそれを抵抗もなく受け入れると、掴んだ手はそのままに俺の腕にしがみついた。