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魔剣使われに告ぐ   作者: 杉下 徹
4.動乱と罪
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4-11


「シモン、どうすればいい?」

 クーリアが、俺に指示を仰ぐ。

 初めて、少しだけアンデラの気持ちがわかった気がした。この瀬戸際にあって、クーリアの存在は救い以外の何物でもない。圧倒的な力、それに伴う安心感。本当の意味でクーリアの力を実感し、武器としての彼女に縋ろうとする自分を戒める。

「あいつを止めてくれ。ラタとあの子、フィネを取り戻す」

「フィネ……じゃあ、あの子が」

 必要な指示だけを聞くと、眉間に皺を寄せながらもクーリアは再び紫電を纏う。

 おそらく、ナナロを病院に運んですぐにここに来ただろうクーリアは、俺以上に現状を把握していない。とは言え、この場で簡潔に説明するには、俺の理解も足りなかった。

「クーリア・パトス。それに、『アンデラの施し』か」

 自らと同じ名を持つかつての愛剣と、自らの挫折の象徴である計画の核であった少女を同時に見つめ、アンデラ・セニアは魔剣『糸』を握り直した。

「……………………」

 長い硬直。

 あるいは俺以上に、クーリアにとってのアンデラは因縁の相手だ。だが、同時に、クーリアはアンデラと顔を合わせたのはこれが初めてでもある。

 一方的に道具として扱われていただけの少女と、扱っていた男。両者の関係は、ここに来て完全にその呪縛を逃れていた。

「…………今回は、退く」

 やがて、動いたのはアンデラだった。丁寧にフィネを床に寝かせ、『糸』からラタと空間に伸びる線が消えていく。紛れもない停戦の動作、小細工も見て取れない。

「だけど、覚えておくといい。君達の選択では、戦争は終わらない。リロス国民の血は無駄に流れる事になり、いずれその子のように新たな人造剣も生まれる」

 押し殺すような声、紡がれる口元からは唇を噛み切った血が流れていた。

 負け惜しみ、と切り捨てるには、その言葉は真実に過ぎる。そうだとしても、俺はやはり目の前の少女を見捨てる事ができなかった。

「――シモン・ケトラトス。君はいつか殺す」

 最後に今度こそ飛びきり物騒な捨て台詞を吐いて、アンデラはこの場を後にした。

「止める?」

「いや、いい」

「うん、わかった」

 クーリアに追撃はさせない事にした。もはや我儘どころかまるっきり戯言でしかないのは自覚しているが、それでもクーリアにはできるだけ戦ってほしくない。

「それより、シモン、その火傷! フィネさんもひどい怪我だし、キルケさん? も」

「大した事、ない……とは、流石に、言えないな」

 キルケはとっくに満身創痍であり、フィネに関しては『不可断』をまともに受けてどうやって生を繋いでいるのかもわからない。そして俺も、当面の危機が過ぎ去った今、意識を保っている事すら苦痛だった。

「だから、悪い。クーリア、クロナ、それにラタも。後は、頼んだ」

「シモン? シモン!」

 達成感は、正直なところ無い。ただ、途切れゆく意識の中、俺の名を呼ぶクーリアの声が少しだけ心地良かった。

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