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魔剣使われに告ぐ   作者: 杉下 徹
1.微睡みの日々
4/41

1-3

 話はさておき、クーリアの事だ。

 ラタの話を聞いている間も、クロナと与太話をしている間も、俺の頭の中には常に一抹の不安が付き纏っていた。

 女は、弱った時に優しくされるとコロッと落ちる。

 別にそれは女に限った事ではないのかもしれないが、少なくともクーリアは生物学的には雌に分類される立派な女の子だ。もちろん最終的には俺への誤解が解けて再び以前と同じ、いやそれ以上に愛し合う事になるのは想像に難くないが、それはあくまで邪魔が入らなければの話。

 例えば、顔も整っていて長身で、社会的地位もあって性格も善人である、そんな男から涙を拭う布の一枚でも差し出されれば、今の傷付いたクーリアなら、まるで闘牛のようにその赤い布に突進していってしまうといった可能性も無きにしもあらず。

「てめぇ、俺の真っ赤な下着を返せ!」

「いきなり意味がわからないね、君は!」

 顔も整っていて長身で、社会的地位もあって性格も善人である、そんないけ好かない男は、生意気にも俺の拳を躱しやがった。

 クロナの兄であり、世界 (非公式)平和維持協会会長なんてものをやっている、あまり親しくない知人であるナナロ・ホールギスの元を訪ねた俺は、しかしよりにもよってその男の隣に、喧嘩別れしたクーリアの顔を見る事になっていた。

「俺のって言っても、それは俺のものであるクーリアの真っ赤な下着という意味で、まぁ何というかそんな感じだ!」

「えっ、赤?」

「…………」

 取り繕った外面の奥から色情魔の笑みを零したいけ好かない知人には一瞥もくれず、クーリアはゆっくりと、だがしっかりと俺へと歩み寄ってくる。

「クーリア、もう大丈夫だぞ! あいつに取られた下着は、買い直せばいい。赤も黒も白も、透け透けのやつも履いたままできるやつも、なんでも俺が買って――」

 宙に浮いた。

「シモンは、いつになったらその腐って溶けきった頭の中身を無制限に垂れ流すのを止められるようになるのかな?」

 とても優しい顔のまま、とっても優しい声で問いかけながら、クーリアはとてつもなく優しく、倒れ込んだ俺の顔を素足で踏みつけた。

 普通ならばこれを照れ隠しだとか勘違いしてしまうかもしれないが、それではまだ女心というやつがわかっていない。これは、隠すどころかむしろそのままの明けっ広げな愛情表現だ。なぜなら、俺はクーリアに踏まれるのが好きだから。

「なんでそんな、にやけて……っ」

 物理的に見下したクーリアの視線が逸れ、俺の顔を踏んでいた足が素早く引っ込められる。残念。

「クーリア。心配しなくても、俺は今履いてる下着の色を言いふらして、ナナロの妄想を膨らませる気なんてない。だから、また顔を踏んでくれ」

「あ……も、っ……とりあえず死ね!」

 何やら色々と表情が切り替わった結果、クーリアの口から出たのはごく単純な罵倒だった。照れ隠しとは、相変わらず可愛いやつだ。

「えぇっ、と、これは?」

「あー……シモンのやる事をあんまり一々気にしない方がいいよ」

 そんな俺達から少し離れたところで、クーリアのそれとはまた少し違った困惑の声が聞こえた。流石に初対面のラタに恋人の戯れを見せつけるのは刺激が強すぎたか、とほんの少し反省する。

「まぁ、色々とさておいて、とりあえず本題だ。……てめぇ、ナナロ! 俺のクーリアに手を出すとは、二度と肉親の顔を拝めないようになる覚悟はできてんだろうな!」

 話を整理しようと記憶を辿っていくと、なぜか下着の話に巧妙にすり替えられてしまっていたが、そもそもの問題はナナロの野郎がクーリアと二人きりで蜜月を過ごしていた事だったのを思い出す。

「はいはい、もうそういうのいいから。肉親、ここにいるし」

「えっ、お前ってナナロの妹だろ? 妹で母親って、それはまた、絶望的にドロドロに入り混じった近親交配の図が……」

「妹も肉親の括りに入るの。って、話が進まないから、ちょっと君は黙ってて」

「喰うか、馬鹿め!」

 顔を踏もうとするクロナの足を、華麗に転がって避ける。俺はクーリアに踏まれるのが好きなのであって、他の女の足など御免被る。もちろん、男の足はもっと嫌だが。

「……いつまで転がってるんだろう?」

 しかし、おそらく独り言であろうラタの冷たい呟きと蔑みの視線には、少しだけ背筋に甘い悪寒が奔った。

「もう、シモンは本当に……」

 俺の身体を引き上げながら、クーリアは先程より幾分か落ち着いた様子で口を開く。

「私はただ、ナナロさんに相談があっただけだよ」

「相談?」

「うん、剣の事でちょっと、ね。シモンにも、言うか悩んでたんだけど、色々とあれでタイミングも無かったし」

 たしかに、事が『剣』に関してなら、ナナロに相談を持ちかけるのも頷ける。そしてクーリアがそれをあまり俺に話したくない事も。

「とりあえず、その話は後にしないかい? 君とクロナ、それにそこのお嬢さんも、何か用事があって僕を訪ねたんだろう?」

 ナナロに言われるのは癪だが、部外者であるところのラタの前でこれ以上内輪の話を広げるべきではないだろう。今更だと感じるのは、きっと気のせいだ。

「ああ、喜べ。お前にうってつけの仕事だ。仲介料は五割でいい」


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