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噂では、要するに、俺とクーリアは恋人らしい。
それはまぁそう不思議な事ではなくて、わざわざ取り立てて言うほどの事でもない。だからそういった噂が一部で流れていたとしても、まぁまぁ仕方のない事ではある。
「マジで!? じゃあ、一緒に住んでるわけ?」
「ああ、もちろん。寝室も同じだよ」
「寝室! ベッドは!? ベッド!」
「ベッドは別。まぁ、くっつけて寝てるから、実質一つみたいなもんだけど」
「おぉっ、流石!」
話を聞く内にわかった限りでは、タブ・ヴィシアという男は中々にいい奴だった。ローアン中枢連邦内で在野の剣使として活動していたタブは、純粋に金のために傭兵を引き受ける事にした。
つまるところ、タブは特に偏った思想を持つわけでもない一般的な若者の一人にすぎない。言ってしまえば俺やサラと同じようなもので、そう聞くと片腕を切り落としたのは仕方ないとは言え少し気の毒にも思えてくる。その事をとりあえず今は水に流してくれているあたりも、タブの気質の良さではあるのだが。
「……ねぇ、もう戻らない?」
「何を言ってるんだ、まだ話が終わってないだろ」
「終わったわよ、って言うか終われ。さっきから、質問に答えてるの全部シモンじゃない」
「あっ、サラちゃんは? サラちゃんとはどういう関係なわけ?」
「サラ? いや、サラは妹……ではないけど、似たようなもんだよ」
「私、もう戻るから」
素早く踵を返し、サラは地下牢を去っていく。足音が心なしか乱暴なのは、思い込みではないだろう。
「あっ、行っちまった。まずいんじゃねぇの?」
「そうだなぁ。たしかに、怒らせると後が怖くはあるか」
次に顔を合わせた時のサラの顔は、容易に想像できた。しかし、それよりも今はサラをこの場から離しておきたい。
「じゃあ、最後に一つだけ確認いいか?」
こちらが、俺にとっては本題。
サラの前ではあえて反応を薄く装っていたが、タブの吐いた情報の中には当然ながら戦況に関する重要なものもあった。そして、俺にとっては戦況以上に重要なものも。
「ああ、下手に間違った情報流れて、嘘吐き扱いされたら俺も困るしな。その代わり、早いとこ釈放してもらえるよう、口利き頼むぜ」
「わかってるって」
きっと、これは嘘になる。俺にそんな権限はないし、権限のある者に直訴するような時間的猶予も、今の俺には残されてはいない。
「これからリロス中部で起こる紛争とやらについて、詳しく教えてくれ」
それでも、俺はそれを聞かなくてはならなかった。