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魔剣使われに告ぐ   作者: 杉下 徹
4.動乱と罪
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4-2


 十五人、正確には十六人だったが、その部隊はいわゆる少数精鋭だった。

 数人が拠点への遠距離攻撃、水に火、その他諸々の剣の力で見張りや拠点を囲う壁を薙ぎ払い、残りの数人がこじ開けられた経路から侵入。中距離射程の剣の力で内部から拠点を喰い破っていく。

「これはまた、ちょうどいいな」

 幸いだったのは、精鋭ではあっても少数であった事。初動こそ遅れを取ったものの、体勢を整えてからの南部拠点側は数の力で遠距離攻撃を相殺し、更に有り余る人員で中に潜り込んだ敵兵を取り囲み始めた。まさに乱戦、といった様相を呈してきた拠点で、俺とサラの二人がキレイに敵兵の一人と鉢合わせたのは幸運なのか不運なのか。

 その剣使は頭に布を被り、全身を灰色の衣服で覆っていた。顔は影になってよくは見えないが、おそらくは若い男だろう。

「…………」 

「っ」

 無言からの氷柱の一撃。高速で飛来した四本の氷柱を、防御の必要のあるものだけ『不可断』の刀身で斬り飛ばす。

「なっ!?」

 背後からの冷気。背を串刺しにしようとする氷柱へと防御を向けるも、同時に前面を覆うように冷気の波が襲ってくる。咄嗟にサラの胴を抱き後退、周囲を取り囲もうとする冷気の膜の一点を切り開き、危うく包囲を逃れる。

「……やっべ」

 科学的に冷えた汗を拭う間もなく剣を構え、冷気と氷柱を纏った剣使を睨む。

 氷の剣使の力は、おそらくクロナやナナロ、アンデラよりは一段か二段以上落ちる。だがそれは、俺の優位をまったくこれっぽっちも意味しない。

 正直、慢心していた。周囲を超級の剣使に囲まれ、下手にその中で戦った経験があるせいで、あくまで自分が剣使としては良くて並み程度の力しか持ち合わせていない事を実感として忘れていた。精鋭、と呼べるような剣使に俺が勝てる道理はないのだ。

 背後に庇ったサラの様子を右目だけで伺う。これで戦場の恐ろしさを知ってくれればいい、なんて呑気な考えが浮かび、すぐにまずこの状況を打破する必要性を思い出す。

「サラ――」

「シモン、今回は私が戦うのが目的だから」

 逃げるよう指示を出そうとしたところで、逆にサラは俺の前に一歩踏み出していた。

「言ってる場合か、死ぬぞ!」

「死にそうだったら、その時は流石に任せるわよ」

 制止を無視し、サラは剣を中段に構える。すでに第二撃の氷柱の群れは放たれ、揉めているような余裕はない。

「……っ」

 惨劇をも覚悟したが、サラの元に氷柱が届く事はなかった。

 サラの剣から発生した巨大な水の波が氷柱を呑み込み、まとめて敵の剣使へと雪崩れ込んでいく。波は敵に届く寸前で氷に変わると、少し遅れて砕けて地面に落ちた。

「はっ」

 攻勢を阻まれたのを確認し、サラは自分の手前に三本の水の槍を生成。高速で放たれた槍は進路上に現れた氷の壁を打ち砕くも、減衰した速度で敵手に到達する前に再び凍りつき砕かれる。防御と同時に相手から上方に放物線を描くように放たれていた氷柱は、空中でサラの激流に押し流され、更に間髪入れず放たれた五本の氷柱は同数の水槍に激突。氷柱は砕け散り、水槍は冷気に固められ動きを止める。

「…………」

 サラと敵性剣使の戦力は、悪く見積もっても互角だった。

 サラに臨時で与えられた聖剣『ポドムの瞬き』の力、水を操る力は超常の剣としては類似が多く、希少性はない。ただ、性質としての類似こそあれど、個々の剣によって絶対的な力の量は異なる。特に『ポドムの瞬き』は、力の総量では最上位の剣と遜色なかった。

 強力な剣と優れた適性。その二つが優秀な剣使の条件だ。その二つさえあれば、実戦どころか聖剣を使った経験すらほとんどないサラでも、精鋭の剣使と渡り合う事ができる。

「――っ」

 血飛沫が散る。

 サラの放った無数の水弾の内のいくつかが、氷の盾を貫通して剣使の身体まで貫いていた。優勢を認識したサラが続けて巨大な水の剣を左右から叩き付けるも、氷の剣使は即席の防御で時間を稼ぎ、間一髪で回避。体勢を立て直しながら傷口から零れた血液を凝固させ、朱の弾丸として発射した。

「サラっ! 防御を広げろ!」

 俺は、叫ぶと同時に跳躍。

 サラの前面で盾となった水の壁は、血弾が着弾する直前で凍結。朱の弾丸は氷の壁に弾かれるも、凍り付いた壁自体が敵の力の媒体となり、サラへと無数の棘を生やす。直前で水流が防御に割り込むも、それも端から氷へと変わっていく。

 血の弾丸は、目立たせるための色付きの囮だった。注意をそちらに引きつけた隙に、透明度の高い氷の杭がサラを狙い、それを防がれた場合でも杭からサラの操る水に冷気を伝播させる。悪くない策であり、そして致命的に剣の相性が悪い。『ポドムの瞬き』の発生させ操る水という媒体は、同時に氷と冷気を操る相手にとっても武器になっていた。

 サラは力任せに次から次へと水を生成し、どうにか氷の刃を遠ざけ続ける。冷気も無限ではないのか、増え続ける水の全てを凍らせるまでは至らない。とは言え、戦況は均衡とは程遠い。このまま続けば、やがてサラは氷の壁に取り囲まれるだろう。

「……相手が悪かったな」

 だが、そのやがては訪れない。

「っ」

 手は腰の剣の柄に、眼前には男の背中。

 氷の剣使がサラとの戦闘に注力している間に、俺は彼を剣の射程に収めていた。


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