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魔剣使われに告ぐ   作者: 杉下 徹
4.動乱と罪
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4-1

リロス共和国及びリロス国防軍にとって、今回の戦争は望むべくして起きたものとは言い難い。軍内部は先の内乱により万全とは程遠く、その隙を見て仕掛けてきたローアン中枢連邦との争いにより得られる特別な利得もない。

 しかし、だからといって無条件降伏などするわけにもいかない。リロス国防軍の現在の目的は、国土への被害を喰い止めると共に、ローアンの軍に打ち勝ち、戦争の継続を諦めさせる事にあった。

「……暇ね」

「まぁ、そうだな」

 何をするでもなく拠点の中庭から空を眺めながら、退屈紛れの言葉を交わす。

 俺とサラが配備された戦場は、東部国境付近の広大な平地が続く区域だった。地理的にここを突破されると国内主要都市の一つであるエルド商業都市まで一気に侵入されかねない重要な拠点ではあるのだが、いざ足を運んでから三日、今のところ戦闘らしい戦闘は起きていない。こう何もないとクーリア達が戻ってきていないかとの心配に気が回るが、そうなっていた場合は一応残してきた置き手紙を頼りにするしかない。

「暇なら暇で、それに越した事はないだろ」

「そうかもしれないけど。こんな事なら、もっと前線に配置してもらえばよかったわ」

 サラの目的は剣使として戦う事だ。非常時のための防備も軍にとっては大切な仕事ではあるが、サラにとっては戦闘がなければ意味はない。

「リロスとローアン、どっちが優勢だと思う?」

「わからん。戦争は俺も専門外だ」

「今のところ、中部戦線はこっちが押してるらしいですよ」

 俺とサラの緩い会話に、固い声が割り込んでくる。

「アンデラさんが最前線に出てからは、こっちの戦力の方が優勢で。ローアンが各地に分散していた兵力を集結させて、今はなんとか拮抗しているとの事です」

「休憩ですか、カリアさん」

「はい。とは言え先程までも座って見張りをするだけで、休憩のようなものでしたけど」

 サラの問いかけに、カリアは表情を崩すでもなく軽い冗談を飛ばす。

 カリア・ランドアートはこの南部拠点に配置された兵士の一人で、飾り気のない印象の女性だ。先日増員として送り込まれたサラを除けばこの拠点唯一の女性兵でもあり、その事もあってか、鳴り物入りの有名人である俺とその付添いと見られているサラの、どこか腫れ物扱いの二人組にも比較的頻繁に声をかけてくれる。

「それにしても、あの人がそんなすごい人だったなんて」

「シモンさんも、アンデラさんに見劣りしないと思いますが」

「あんまり、そんな気はしないですけどね」

 サラの俺を見る目に、複雑な色が混ざる。

 仮にも軍の一員として戦場に向かうにあたって、事前に俺とサラは大まかな戦況を知らされていた。その中には、主力剣使の中でも屈指の戦力であり、扱いの難しい例外でもあるアンデラについての情報も当然のように含まれてしまっていたわけで。サラの身の安全に注意を集中させていたため、俺絡みの情報がサラにも回るだろう事を忘れていた。

「そう俺を買い被らないでくれ。あくまで数合わせ要員のつもりで」

「もちろん、全て任せきりにするつもりはありません。ですが、シモンさんのお力を信頼はしています」

「……ははっ」

 俺がアンデラを下したのは事実ではあるが、それは一つの結果であって、俺の剣使としての力はアンデラのそれには大きく劣る。だが、それを説明してもどうせ謙遜と取られてしまうため、適当に笑って誤魔化しておくしかない。

「それでは、私はこれから食事を取るので」

「ああ、また」

 浅くはないくらいに頭を下げると、カリアは奥へと消えていった。

「なんか、シモンって偉そうじゃない?」

「あー……まぁ自覚はある」

 カリアは俺と同い年くらいだからまだしも、この拠点での俺は優に十以上は年上だろう最高責任者にまで敬語を使われ、逆にこちらは特に敬語を使う事もなく話している。客観的に見て、偉そう、ではあるだろう。

「あれは、こっちが敬語使うと止められるんだよ。リースさんからの推薦だからか、前の一件のせいなのか知らないけど、だからもう面倒になって」

「いや、それもあるけど、私が言ったのは本当に偉いんじゃないか、って意味なんだけど」

 認識の喰い違いを、サラが訂正する。

「それはない。特に階級をもらったわけでもないし、立場はあくまで一志願兵だ」

 だが、実際は俺の口にした通りだ。報奨金のおまけに勲章はもらった気がするが、わざわざ言う必要もないだろう。

「北東から敵影! 数は視認できる限りで十五!」

 歩哨の声。すぐに、連絡係と思わしき兵士が拠点へと駆け込んでいく。

「暇つぶしが来たみたいだな」

「そうね」

 やはり多少なりとも緊張があるのか、サラの返事は固い。自分から望んだとは言え、サラにとって実戦、そして剣使として戦うのはこれが初めてに等しい。

「でも、十五って少なくない?」

「多くはないな。ただ、剣使がいる場合、数は当てにならない」

 少し遅い疑問の言葉には、剣使としての常識で返す。

 強力な剣と剣使は一人で数十、数百、あるいはそれ以上の戦力に匹敵する事もある。そしてそんな剣使も更に上位の剣使には束になっても敵わなかったりするわけで、剣使の世界では個人の戦力に差異がありすぎて兵の数は戦闘の勝敗に直結しない。

「まぁ、心配しすぎる必要はないけど」

 とは言え、この拠点にも優れた剣使はそれなりの数配備されているはずだ。十五の少数では、クロナ以上の化物でもいない限り一瞬で拠点を落としきれるとは思えない。

「気楽に行こう。いざとなったら逃げればいい」

「そうね。とりあえず、やってみるわ」

 意気込みを固めたサラと俺の前で、連絡係が小走りで駆けてくるのが視界に入った。



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