2-6
「なぁ、クーリア」
「んー?」
長椅子に寝転がったクーリアの背中に、声をかける。
特に用事のない時、家でのクーリアは本を読んでいる事が多い。俺に読書の趣味はないため、そんな時はこうして時折ちょっかいをかけるわけだが。
「脱がしていい?」
「ダメ」
今日のクーリアは特に集中しているらしく、スカートに手をかけても視線すら動かさずに短く返すのみ。流石にそんなクーリアの邪魔をする気にもならず、軽く中を覗き込むだけで済ませる。
「それで、何?」
しかし、本に目をやりながらも、クーリアは更に言葉を続けた。
「何って?」
「用事があったんでしょ?」
「ん、まぁ……」
特に用などなくとも、戯れ合うためだけに声をかける事など珍しくない。だから、用事があるのだろうと半ば断言されたのは意外だった。
「『学校』についてどう思う?」
すでにこちらに向き直ってしまったクーリアに、用件をそのまま投げ掛ける。
「クロナさんと話したの?」
「そういう事になるかな」
「……言わないって言ったのに」
軽く愚痴のような呟きを零すと、クーリアは俺の目をじっと見つめた。
「『学校』には、少しだけ興味はある。でも、本気で行きたいとまで思ってるわけではないの。シモンだって、クロナさんに手を出したいと思っても、しないでしょ。それと同じようなもので」
「いやいや、俺はクロナに手を出そうとか思わないし」
「じゃあ、サラさんでもいいけど」
「……まぁ、わかった」
否定し続けても話が進まないので、とりあえず頷いておく。決してサラにならその気があるというわけではない。
「シモンは、少し私に気を遣いすぎだと思うの。私は今でも十分、シモンには良くしてもらって……いくら感謝しても足りないくらいなんだから」
俺の事を思っての言葉なのだろう。だが、俺にはどこか突き放すように聞こえた。
クーリアは俺に恩を感じすぎている。そして、きっと罪悪感も。そういったものを溜め込み過ぎるのがクーリア・パトスという少女なのだと、俺は良く知っていた。
「…………」
「わっ、シモン?」
クーリアを抱き寄せ、頭を撫でる。
俺とクーリアの間には、互いが互いを気遣い過ぎるがゆえの溝がある。そして、それは気を遣うなと言ってどうなるものではないと、何よりも今の俺が証明してしまっている。
この問題は、時間が解決してくれるのを待つしかない。それまではできるだけ仲睦まじく、余計な気など遣う事のない関係を。
例えそれが装っただけのものでも、いずれ本物になると信じるしかなかった。




