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魔剣使われに告ぐ   作者: 杉下 徹
2.撹拌と罅
17/41

2-6


「なぁ、クーリア」

「んー?」

 長椅子に寝転がったクーリアの背中に、声をかける。

 特に用事のない時、家でのクーリアは本を読んでいる事が多い。俺に読書の趣味はないため、そんな時はこうして時折ちょっかいをかけるわけだが。

「脱がしていい?」

「ダメ」

 今日のクーリアは特に集中しているらしく、スカートに手をかけても視線すら動かさずに短く返すのみ。流石にそんなクーリアの邪魔をする気にもならず、軽く中を覗き込むだけで済ませる。

「それで、何?」

 しかし、本に目をやりながらも、クーリアは更に言葉を続けた。

「何って?」

「用事があったんでしょ?」

「ん、まぁ……」

 特に用などなくとも、戯れ合うためだけに声をかける事など珍しくない。だから、用事があるのだろうと半ば断言されたのは意外だった。

「『学校』についてどう思う?」

 すでにこちらに向き直ってしまったクーリアに、用件をそのまま投げ掛ける。

「クロナさんと話したの?」

「そういう事になるかな」

「……言わないって言ったのに」

 軽く愚痴のような呟きを零すと、クーリアは俺の目をじっと見つめた。

「『学校』には、少しだけ興味はある。でも、本気で行きたいとまで思ってるわけではないの。シモンだって、クロナさんに手を出したいと思っても、しないでしょ。それと同じようなもので」

「いやいや、俺はクロナに手を出そうとか思わないし」

「じゃあ、サラさんでもいいけど」

「……まぁ、わかった」

 否定し続けても話が進まないので、とりあえず頷いておく。決してサラにならその気があるというわけではない。

「シモンは、少し私に気を遣いすぎだと思うの。私は今でも十分、シモンには良くしてもらって……いくら感謝しても足りないくらいなんだから」

 俺の事を思っての言葉なのだろう。だが、俺にはどこか突き放すように聞こえた。

 クーリアは俺に恩を感じすぎている。そして、きっと罪悪感も。そういったものを溜め込み過ぎるのがクーリア・パトスという少女なのだと、俺は良く知っていた。

「…………」

「わっ、シモン?」

クーリアを抱き寄せ、頭を撫でる。

 俺とクーリアの間には、互いが互いを気遣い過ぎるがゆえの溝がある。そして、それは気を遣うなと言ってどうなるものではないと、何よりも今の俺が証明してしまっている。

 この問題は、時間が解決してくれるのを待つしかない。それまではできるだけ仲睦まじく、余計な気など遣う事のない関係を。

 例えそれが装っただけのものでも、いずれ本物になると信じるしかなかった。


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