表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔剣使われに告ぐ   作者: 杉下 徹
2.撹拌と罅
14/41

2-3

 魔剣『不可断』は優れた力を持つ剣だ。

 触れたモノを消失させる流体の生成と操作の力は、同じ超常の剣を除いてほとんど全てのもの、剣が発生させる超常の力すらも紙細工のように溶かし消す。剣本体を消せないのは、魔剣や聖剣の類は自身以外の超常の力を無効化するためであり、そういった例外でもなければ『不可断』の力に抗う事はできない。

「チッ……」

 剣を振るうのは好きだ。

 だが、剣を使うのは好きではなかった。

 成果が出ない。手応えがない。成長しない。初めて『不可断』を本当の意味で使ったあの日から、操れる流体の量は全くと言っていいほど増えてはいなかった。

 面積にして半身を覆えるかどうか。最大限引き伸ばして、射程は剣三本分ほど。いくら触れるだけでいいとは言え、あまりに操れる流体の量が少なすぎる。

 剣使の戦いは、剣士のそれとは大きく異なり、そのほとんどが遠距離からの力のぶつけ合いだ。その点、『不可断』の力は触れさえすれば何物も消し去る事ができるが、触れられないものに関してはどうしようもない。全方位攻撃、あるいはそれに近い大規模な力を叩き付けられたら、俺の使う『不可断』では手も足も出ない。

 そして、足りないのであれば増やせばいい、というわけにはいかないのだ。剣使の力は生まれ持った素質が全て。精度や戦術の面では改善のしようもあり、剣との相性もあるにはあるが、そういったものは個人の素質、扱える力の絶対量に比べれば誤差でしかない。

「おーい、そこの私有地で剣を振り回してる危ない男」

 気紛れに剣を振るっていると、右手側から軽い調子の声が飛んできた。

「クロナ? こんなところでどうした? 野糞か?」

「…………」

「わぶっ!」

 無言で剣から放たれた衝撃波が、危うく頭部を掠めかける。

「冗談なら何を言ってもいいわけじゃないんだよね。君は、そこのとこわかってる?」

「わかった、悪かった。女の子は糞なんてしない」

「それはそれで違うんだけど」

 クロナの危ない無表情が苦笑へと変わる。どうやら危機は脱したらしい。

「でも、本当に何しに来たんだ? ちょうちょでも捕まえに来たのか?」

「また露骨に可愛い系にシフトしたねぇ」

 野糞もちょうちょも冗談としても、クロナに用もなく山中をふらつく趣味があるとは思えない。あるとしたら、俺と同じような理由か、それとも――

「まぁ、私が捕まえに来たのは、君なんだよ」

「ついに本性を現したか、魔女め。だが残念だったな、俺はすでに愛の奴隷だ」

「それ、言ってて恥ずかしくない?」

「指摘されなければな!」

 基本的によく考えずに話しているため、瞬間を捉えられると自分でも辛い時がある。

「魔剣を使ってたんでしょ?」

「まぁ、な」

 クロナは妙に勘の鋭いところがある。俺がここにいると突き止めたのも、その勘によるものが大きいのかもしれない。

「相手、してあげようか?」

「まさか。弱い者いじめはやめとけ」

 クロナとは以前に一度やり合ったが、結果は完敗だった。あの時とは状況が違うとはいえ、むしろ今の俺はあの時よりも弱いとすら思える。

「でも、好きな子をいじめたりって、割とありがちだよね」

「子供ならな。その年でまだそんな事を言ってたら、ただのメンヘラ――」

 衝撃が空間を揺らす。咄嗟に横に跳んでいなかったら危なかった。

「今のはむしろ、そっちの方が冗談じゃ――」

「メンヘラでもなんでもいいけど。どうせ、今の私はそうじゃないし」

 俺の言葉を遮り、クロナは剣を構える。隙だらけの構え。だが、構えとしての隙など剣使には問題にすらならない。

「嫌いな人をいじめるのは、まぁ普通だよね」

 嗜虐的な笑み。そして構えを取ったという事が、何よりもクロナの意思表示だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ